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けろけろ使い魔は、王子さまに溺愛されています  作者: 望森ゆき
第2章:ひみつと想いあい
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第14話:お仕事

「身分も保証! 見目はもちろん、根性のあります殿方を、クレアさんに私が紹介いたしますわ。もちろん、あなたとの相性も考えて、お茶会を開きましょう! 忙しくなるわね。では、ごきげんよう」


 珍しく行動がお上品から遠いエメリーンは私にそう宣言をして、走り去った。


「今日のエメリーンさまは、嵐だったなぁ……」


 家具が地味に震えている。地震でも起きているのだろうか?

 私が、まばたきをしたら、震えはなくなっていたし、体感として揺れはなかったので、気のせいだったのだろう。


 私は気を取り直して、ダンスの練習をひとり、がんばった。

 踊ってみると、大分体力が無くなっていることに気付いた。


「ふぅ……。これじゃあ、いざという時に困っちゃう。これは身体作りが先だわ」


 私は、なまったからだに応援歌を贈って、くたくたになるまでからだを動かした。

 からだを動かすと、とても気持ちが良かった。気付くと、汗までかいていたようだ。


「脱いでも、服の替えはないから……。仕方ない。魔法で除菌、乾燥」


 汗を魔法でなんとかしたつもりになりつつ、私の口からこぼれていた。


「魔法の使い方として、間違ってないかしら?」


 その日の夕飯のときである。

 珍しくエイダンはおらず、ワゴンがひとりでにやってきて、机やお皿が粛々と準備をしてくれた。

 私が手伝おうと手を伸ばすと、震えられた。仕方が無いので、お皿たちが整列するのを待っていたのだった。


「家具やお皿にも、意志があるのかしら?」

「そんなことはないよ。ごめんね。少し遅くなってしまったかな?」


 ボソリと呟いた言葉に返事があった。

 視線をお皿たちから外すと、エイダンの姿があった。


「そうでしょうか?」

「そうに決まってる」


 私が目線をお皿に向けると、お皿たちはエイダンの言葉に頷いているようだ。

 おかしいなぁとは思いつつも、魔法を与えられたカエルの私のように、魔法を付与されていると思われる家具やお皿にも事情があるのだろう。深く考えたいと思ったが、空腹が考えることを邪魔した。


 ごはんを食べ終え、私がまたエイダンに頭をなでられる時間がやってきた。


「ところで、クレア。きみに申し訳ない知らせがある」

「なんでしょう?」


 頭をなでながら、時折髪の一房を拾って唇を落とす石像が口を開いた。


「きみが提出してくれた国境の結界術の件なのだけれど。明日、むかうことになった」

「明日?」

「そう。きみが元気だ、と言うから。ベッドから降りるから」


 なんだかよく分からないところで石像――エイダンは怒っている。


「あの件は緊急でしたからねぇ……」

「そうだ。いやちがう」

「今日のエイダンさまは忙しいですね」


 私が苦笑いをこぼすと、エイダンの口はへの字になった。



 そうして、翌日。

 私はおおよそ半月ぶりに、エイダン以外の職場のひと、リリーとジョニーの顔を見たのだった。


「クレア、今までどこをほっつき歩いていたの? 心配したんだから」

「えぇっと……」


 リリーの突撃。衝撃がからだに響く。

 エイダンの顔を見ると、どうやらエイダンのところにいたことは、伏せてあるらしかった。

 言いよどむ私にリリーの目が光った。

 感動の再会での涙ではなく、美味しいものを見つけたときのリリーの表情だ。


「大丈夫よ、クレア。道は長いの。帰り道、久しぶりの親友との交流を、思いっきり深めましょう!」


 助けを求め、エイダンを見るが、ほのほのと微笑むだけ。

 助けにはならない。


 諦めるのは、まだ早い。

 今度は私の目が光る。


「先輩! ジョニー先ぱ――」

「断る!」


 雷を落としたような勢いのジョニーの声が響いた。

 私はしょんぼりと肩を落とした。リリーは、私の肩を叩いて笑った。

 リリーから助けてよ、ジョニー先輩。

 でも、リリーが楽しそうに笑っている姿を、久しぶりに見た私は、泣きそうだった。


「さ。エイダンさま。バカの連れ合いは置いて、国境の結界術を直しに参りましょう」

「まぁ、ジョニー! クレアはバカでしょうけれど、わたしは違うでしょう?」

「では、行くかな。皆、魔方陣に入ってくれ」


 こうして賑やかな一行は、国境付近の街へとむかった。

 便利なもので、王都から国境付近の街まで繋がる移動魔法が、研究開発されていた。


 移動魔法の魔法酔いで気持ち悪くなりながらも、結界術が張ってある国境まで歩く。

 国境までの道は舗装されてあり、歩きやすい。

 しかし、道沿いは森のように鬱蒼とした木々が立ち並んでいる。

 空気は綺麗なように感じるのだけれど、少しおかしい。

 行き交うひとがいない。

 商人、まして旅人のひとりすらいない。


 皆一様に静かである。気味が悪いほど、に。


「……おかしい。静かすぎる」


 ジョニー先輩がそうこぼしたときだ。

 隣を歩いていたリリーが叫んだ。


「来るよ!」


 木立から、攻撃の魔法が放たれる気配を感じた。

 私は羽織っていたローブで、リリーを包んだ。

 先輩とエイダンを守るには、攻撃に気付くのが遅れてしまった。

 私はなまった感覚に、唇を噛んだ。


「はっはっは! こんなところに、ねずみが四匹! しかも二匹はメスだ。野郎ども、今日は良い収穫ができそうだぞ」


 野太い笑い声が複数響いた。

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