106.5話『これからの苦労』
皆様、お久しぶりです。毎日投稿すると言いながらいろいろとすることがあり、投稿が遅くなってしまい、申し訳ありません!これかからも投稿を続けようか思い悩んだ末に読者の皆様にご報告があります。このまま投稿をしようかとも考えたのですが、やはり現実が忙しくなってしまうため投稿がかなりおろそかになってしまうことを踏まえて、2022年と2023年の間は投稿をお休みさせていただくことになりましたので、8章がちょうど終わるこの話で区切りをつけて一旦投稿を停止させていただきます。
※アルティアス視点
俺は自分の執務室に帰ってくるなり、大きな溜息をついた。
時はは数時間前の卒業式まで遡る。
『最後になりましたが、来年から新たな生活を送る方も、来年も校舎は異なりますが、同じ学園で過ごされる方も、ご健康と一層のご活躍をお祈り申し上げ、送辞を結ばせていただきます』
話し終わったセレナはやり切ったという顔は外に出さなかったが、すれ違った時に「あとは任せたよ」という顔で見てきた。
付け加えると「あとは任せたよ―面白いことを喋ってね―」という感じだったので俺は「辞めてくれ」という顔で返した。
壇上に上がった俺には先程の彼女みたいにアドリブでは話せない気がしたので、しっかりと内容を箇条書きにしてきた紙を広げた。
先程、セレナも紙を広げていたが一回も紙のほうを見ていなかったし、彼女のことだからきっとあれは白紙なのだろう。
『厳しかった冬の寒さはまだ続いていますが、先週から学園の園庭では早咲きの春の花がつぼみを付け始めました。この良き日に私達卒業生1200名のために、このような素晴らしい卒業式を挙行していただき、誠にありがとうございます。また、御多忙の中、御出席くださいました御来賓の皆様、先生方、保護者の皆様、在校生の皆さん、卒業生を代表し御礼申し上げます』
最初の挨拶はセレナに言われたとおりに述べた。
『思い返すと、スーディエン学園に入学してからの5年間は、本当にあっという間でした。入学した当初は緊張と不安でいっぱいだった私達は先輩方の助けもあり、不安もなくなり楽しく学校生活を過ごすことができました』
俺はセレナのほうを見ながら言う。
『どの行事に対しても積極的に参加する生徒がここ数年は多かったように思えます。少々お転婆が過ぎて、良く問題を起こす方もいらっしゃいましたが、今ではそのこともいい思い出です』
言葉を一回切って静かに着席する2399人の生徒と来賓の人達を見渡す。
問題を起こした人は心当たりがあるのか、天井を見上げてごまかしていたりしていたのだが、俺が言っている「問題児」は完全に一人に限られる。
彼女はまるで自分は関係ないという風を装ってまっすぐ俺と目を合わせた。
俺は顔を崩さないように気を付けながらにっこりと外向けの顔を作った。
『しかし、私はまだ実感が湧かず、明日もまだ学園生活が続いているような気がします。朝学校に来れば、友人同士や先生方と挨拶を交わす声が聞こえ、教室では休日や家での何気ない出来事を話し合い、笑い合うクラスメートの姿がある、休み時間になれば、食堂に行く人や勉強を始める人がいて、放課後になれば、諸活動に励む人達の声や音が聞こえる、そんな当たり前の日々がもうなくなってしまうと思うと、とても寂しく思います。ですが、私達はこれからも一歩一歩進んでいかなければなりません。進む道はそれぞれ違いますが、この学園での経験や思い出を胸に、そしてスーディエン学園生であったことに誇りを持って歩んでいきたいと思います。
最後になりましたが、これまで私達を支えてくださったすべての方々に改めて御礼申し上げるとともに、スーディエン学園の今後の益々の発展を心より祈念して、答辞とさせていただきます』
拍手が巻き起こり、会場を満たしていく。
言い切った俺はこっそり溜息をついた。
やっと初等部の学園生活が終わったのだ。
『殿下、ご卒業おめでとうございます』『殿下、これからも壮健なことをお祈り申し上げます』『来年からは違った道を歩むことになったが、また話せたらいいな』『楽しい留学生活でした。貴重な体験をさせていただきありがとうございました。今日でこの美しい王城を去らねばいけないことがちょっとした心残りですが、未来でまた会いましょう』
いろんな生徒が俺に話しかけてくる。
下級生、来賓の貴族達、留学に来た隣国の王子や、海を越えた遠くの国から留学に来た貴族令息....
長く感じたようで短かった5年間でいろんな経験をしていろんなことを学んだ。
俺はいろんなことを偽ることが日常だったのが、いつの間にかに『表の仮面』へとなっていた。
いや、もともと俺は常に人の前に出ると自然と自身に仮面をつけてしまっていたのだろう。
そんな仮面に気付いたのはセレナが現れてからだった。
彼女は自由に飛ぶ蝶のようでありながら、飛ぶことを制限されて織の中に閉じ込められたカナリアのようにも見える。
いつも自由奔放にふるまっているかと思えば、相手の裏の裏まで読み取って自分を偽っているときもある。
「おわった...か」
自分でつぶやきながらもいろんなことがあったなと思う。
目の前で山積みにされた書類の山を見ないようにしていて、今していることは現実逃避のようにも思えるが決してそんなことはないはずだ。
頭の中の自分とあれこれ葛藤していると彼女がノックして部屋に入ってきた。
まるで自分の家に帰ってきたかのように我が物顔で俺の前までやってきて書類の山をごっそり持っていくとカウチに座った。
指を左右に振ってどこからともなくティーセットが現れ、優雅にお茶を飲みながらペース良く仕事を片付けていく。
「...」
俺は何とも言えない目で彼女のほうを見ると彼女がふとこちらに顔を向けた。
「今日ぐらいは少し休めばいいよ、今日は特には重要そうなものはなさそうだから私が片付けておくしね。久しぶりにいろんな人と話して疲れただろう?」
確かに最近は机の上だけの仕事が多く、人と関わることは無かったが、婚約者に自分の仕事を任せてしまうのもどうなのだろうかと一瞬思考を巡らせるも「セレナだからな」となんとなく納得してしまう。
俺は頷いた。
彼女は満足気に笑ってからすぐに書類に目を戻した。
椅子に座りながら窓の外を見るともう日が沈む時間となっていた。
あと数時間もすれば卒業式を祝うパーティーが始まってしまうので俺は早々と目を閉じた。
第8章コンプリート率:45/45
総合コンプリート率:154/331
次回:未定(2024年以内を予定)