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深淵聖女(ディープマリア) ~転生魔王は勇者ご一行~  作者: 恩谷
JUPITERIAS(ジュピタリアス) 第一章 ~二人の真祖~
9/61

9.旅は道連れ、世は魔法

小説初心者ですがよろしくお願いします。序章全7話構成を順次投稿、新章は序章よりも長めの1話構成で順次投稿いたします。更新遅めです。イラスト画像と共にご想像していただければ幸いです。

 人界(じんかい)地図 (8話時点)

挿絵(By みてみん)




[ディアステラ帝国 帝都ステラザイル 魔法省]



 西の城壁、ディアステラ帝国の北東に位置する帝都ステラザイルには人界のあらゆる魔法の智が集まる「魔法省」が存在する。魔の智を司るは、人界の外ミストレムリアの探索を司るも同じこと。


 詰まる所『魔法省』とは人間側のパイオニアであり、対魔王軍の最前線の作戦司令本部も設けられていた。本日の明朝、魔法省はいつもに増して慌ただしい様子だった。



「おい、臨時対策会議がはじまるぞ!」「久々に慌ただしいな、何があった?」「内容は会議で話される。それよりも誰か大魔導師様を見かけなかったか?」



「大魔導師さま~~何処でございますか~~?」「勇者様が到着されましたぞ!」「各要職の者たちも集まれ!」「おいそこの見習いたちよ! 茶じゃあ、茶の準備をせい!」



 決して若いとは言えない魔法使いから、お役所仕事の御老人、たまたま居合わせた隣接されている魔法学院の生徒まで駆り出され、魔法省は朝から大騒ぎだ。所々魔法の詠唱が聴こえるが、魔法省敷地内では


 数名の許可ある者しか魔法を行使できない。まぁ余程の大急ぎなので今日ぐらいは大目に見てもいいのではないだろうか。




 _____「え~、それでは今年第35回臨時対策会議をはじめます」




 会議がはじまった。魔法省の中央に位置する巨塔の最上階は広いホールで、天窓になっており明るさも申し分ない。その中央には大きな円卓が設けられ、15名程が着席できるようになっていた。


 魔法省での会議は、国の議会そのもの。魔法省の役職は国のトップのお役職。実質、この帝都を動かしている顔ぶれが一同に集まっていた。



「昨日の深夜、月読みの巫女様がお告げを受けました」



「なんと!!_____



 グランゾーラ侵攻の予見以来、実に2年ぶりの公式な予見をされたということで、その場の誰もが緊張の糸を張り巡らせる。



「お告げはふたつ。ひとつは… 《魔の陣営の者たち、常夜に万全を期し新たなる火口を切るだろう》とのこと」



「もうひとつは… 《深淵なる者と全てを解きし者、来光の兆しを掴むだろう》とのことです!」



 一同「おおおぉ……」



「ふたつも同時にとは! 今までにありませんでしたなぁ」「常夜ということは新月か。恐らく次の新月には万全な軍と共に侵攻を!」「次の新月は3ヶ月後ですな、それだけ期間があればこちらも…」



「馬鹿者ぉ! 獣帝の軍隊とは限らんのだぞ? グランゾーラなるものの違う侵攻ルートのおかげで2年前どれだけの非を見た??」「非を見たのは南の小国ぞぃ。我々帝国じゃなかろうて」



「ですが同じ人の里が襲われたのですぞ。我々だけ無事だからといって…」「我々帝国だけでは全ての人類の防波堤とはなり得ん、流石に無理がある。だから彼のオルソリア島にはクラウディア教の大聖女に人類最大級の封印魔法を施してもらっておるではないか。そもそも…」



 白髭を胸元あたりまで伸ばした一人の老公『スレイガン国務事務総長』は、自慢の髭を弄りながら言い難いことをすらすらと述べはじめる。



「グランゾーラなる魔王軍第一将は本当にそこにおったのかすら怪しいぞぇ。殆ど目撃者もおらん。国を壊滅せし飛翔型の魔物の軍勢を見たものは多いが、島の入り口で果てたというソイツは本当にあの獣帝よりも格上なのかぇ?」



「証人がクリスタル級冒険者2人だけじゃあちと苦し紛れに聴こえるっちゅう話じゃ。しかも辺境の小国のハンターごときで…」



「口が過ぎますぞ、スレイガン長官殿。実質、ラナ王国が弱くともそこの漆黒のゼネスは紛れもない屈強な戦士。我々冒険者ギルドの顔として申し分ない男だ。ヤツの言い分は信じるに足る!」



 ガタイの良い大柄の男がゼネスの肩を持つ。帝国の冒険者ギルド「(つるぎ)(やかた)」のギルド長『ダニエル・オネスト』だ。



「オネストよ。そいつぁー身びいきしてないかぇ? 考えてみるんじゃ、そいつらだけで倒せるグランゾーラなる魔人は大した敵ではない上、一度の戦闘で人に滅ぼされるとは考えも至らぬ阿呆よの?」



「そこまでです。スレイガン長官」



 それまで黙って聞いていた精悍な白銀の騎士がゆっくりとその身体を持ち上げた。見た目は若作りだがそれなりに歳のいった彼は、ガッシリと逞しい体つきをしている。そして、その謙虚な佇まいとは違い、眼光は獣のように鋭く煌めいている。



「これはこれは、デューラン様…」



「私自身は漆黒さんとは面識はないが、その魔人グランゾーラが軽く屠ったミイルダさんに対する侮辱はやめていただきたい。共に戦った私は知っている。彼は我々が相対してきた獣帝ラグロスともまともにやりあえる程の力の持ち主だ。それを一撃でなどと…私も信じたくはないが、故にそのグランゾーラの力は本物であると確証している!」



 かつてミイルダと共に旅をした勇者デューラン・ディアステラがそう言うと、その場の誰もが頷いた。帝国の勇者であり、皇帝の息子でもあるデューランが認めるのであれば、その力を疑うわけにはいかなかった。



「ですがデューラン様… 話によると、そのグランゾーラを倒したのが漆黒のゼネスでも雷鳴のセシルでも魔弾の射手でもない、ただのシルバー級冒険者だったというのは如何なものかと」



 しれっと告げたのは魔術師赤十字会会長のロニエ・フロムロランという丸メガネをかけた回復系魔術師の女だ。あたりに動揺が走る。



「それだけは… 私にもわからんのだ……」



 勇者は頭を抱える。2年前の報告はそこだけが不可解だった。当時、倒したのがその場にいるクリスタル級冒険者ではないという報告を聞いた時は、今よりも更に頭を抱えたものだと勇者は思い出す。



「…アークシエンタ、調べてあるのだろう? 報告を」



 勇者は背後に控える男性秘書官へと視線を移す。



「ハッ。現時点で分かっていることをまとめました。2年前にグランゾーラを一騎打ちで倒したのが当時、夜光の祭典所属のシルバー級冒険者だったメサリア・ノア・ヴァルフという17歳の聖女です。冒険者チーム「真紅の槍刃」のセカンドメイジですので、今は亡きラナ王国の勇者御一行のメンバーということになります。」


「生まれはアリシア王国の王都トゥルベリム。ですが直ぐに孤児になってラナ王国内のクラウディア教孤児院へと引き取られています。聖女としてクラウディア教の御加護を受けてきたようですが、神聖ウルバニア皇国への巡礼の旅は済ませてなかったということです」



「巡礼していない? というと公式に認められた聖女ではないということか?」



「左様であります。して、グランゾーラを滅ぼしたのは火炎系魔法ということです。死体が残らない程強力というのがにわかに信じがたいところですが… そしてグランゾーラを討伐した直後、真紅の槍刃から離脱しておりますね」



「火炎系魔法と神聖魔法のデュアルソーサラーじゃと!?」「それよりも魔人と一騎打ちと申したか!?」「勇者パーティを離脱する意味がわからんな、何かあるのか…」「メサリア…なんか聞いたことのある名前ですな」



「これは早朝にオネストさんに確認してもらったことですが…」



 アークシエンタ秘書官は向かいに座る大柄の男に視線を移すと、オネストは軽く相槌をうった。



「…彼女が最後に依頼を受けたのは一週間前、隣国にある賢者の館だそうです。今現在は頭角を現し、クリスタル級冒険者「深淵のメサリア」と呼ばれています」



「深淵のメサリア!!?」「深淵の!! ここ最近良く耳にする、あの!?」「クリスタル級!? この2年でかっ!?」



 円卓に集いし帝国幹部たちは一斉に騒ぎ出す。それぞれが思ったことを次々に発し、それらの声色は驚きと疑いに染まっていた。勇者は秘書官に言葉を返す。



「その深淵のメサリアなる者、凄まじいな。一度接触を図りたい、可能か?」



「ギルドの依頼経歴である程度場所を特定することはできますが、後は現地へ赴いて情報を集めるしかないですね。それにその方、人目を凌ぐらしくて」



「人目を? ………ふむ。大至急話を伺いたいものだが、捜し出すのには時間がかかりそうだな。とりあえず使者を放て、なるべく早めにお会いしたい」



「ハッ。かしこまりました」



「皆さん。僕の見立てだと、月読み姫の第2の予見にある(深淵の者)とは恐らくそのメサリアさんでしょう。違いますか?」



 オネストの隣に座る四角メガネをかけた色白の若いインテリ系魔導師、魔法省魔導研究部機関長のアイングリフ・ロギアが発言した。帝国最強の大魔導師ロンベル・ギニアスと並ぶ実力者にして、若き希望だ。



「おそらくな。深淵などという形容を冠する者、他には聞いたこともない」「では全てを解きし者とはやはり冒険者の?」「破錠のクレステルか!!」「おお、破錠の! 有名ですからな!!」「大解除魔導師殿か。1年前に宝物殿の鍵箱を開けてもらって以来ですなぁ」



 《つまり、深淵のメサリアと破錠のクレステル、この2名が今後の重要人物ということじゃろうて》



 一同「おおっ!!?」



 円卓を囲む誰もの頭の中に声が響く。その温もりのある年老いた女性の声をその場の誰もが知っていた。帝国最強の大魔導師ロンベル・ギニアスだ。



 《まずは同席できないことをお許しください、デューラン様。ですが皆さまの会話は全て聞いておりますゆえあしからず》



「何も問題ありませんよ、ロンベル殿」



 勇者がそう告げると、大魔導師は念話を続ける。



 《来光の兆しを掴む…は悪しき予見ではございませぬ。今はひとつ目の予見、次の新月までにやるべきことをするのじゃよ》



「そうですな、その通りじゃ」「2年ぶりの侵攻だ、恐らくは通常ルートの西の国境線を警戒していればどうにかなるのでは?」「念のためオルソリア島に魔法省から封印魔導師を送ろう。教会にもそのように通達を」



「徴兵も考えるべきじゃの。この2年間、魔王軍側も側近を失って慎重になっていただけあって、次の一撃は大きいぞぃ」「オネスト、各ギルドのお抱えアダマンタイト級冒険者とクリスタル級冒険者だけに通達じゃ。魔王軍の侵攻に備えよとの!」



 大魔導師の導きと共に一同の考えがある程度まとまると、勇者が立ちあがった。



「それでは皆さん、朝早くに御足労ありがとうございました。続きは次回の会議で。これにて第35回臨時対策会議を終了致します_____



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[ヴァルキュディス山脈 林道8号線 クウォンタムハイド]



 季節は秋の半ば。ウルバニア大半島を真っ二つに隔てるヴァルキュディス山脈の数ある登山道のうちのひとつ『クウォンタムハイド』は鮮やかな紅葉を見せていた。ノーブルムースの賢者の館からはじまる戦乙女の道を少し進んだところから分かれている林道で、一般人がおらず主に冒険者しか通ることができない静かな道だ。


 林道は小川沿いにあり、秋になると冒険者たちが山の紅葉を愉しみ夜は小川の魚で一杯やりながら談笑なんてのが、このあたりの風物詩であった。通常速度で2、3日もあれば越えられるこの山道はノーブルムースとクルス・オグナを繋ぐ唯一の道だが、亜人国家と北側の人の交流はさほどないため通る冒険者は思いの外少ないようだ。


 メサリアとクレステルはそれなりの準備をノーブルムースで整えてから、この登山道を歩んでいた。2人は帝国側ではなくクルス・オグナ側からのマナヘイズ深淵峡谷ルートを模索していた。時刻は昼を過ぎた頃_____



「んで、メサリアちゃんのお勧めでクルス・オグナ経由のルートを選んだわけだけどぉーー、あてがあるのよね?」



「まぁ…あはは。聞いたことないですか? 風の妖精シルフェの亜人族の話」



「よ、妖精に近い亜人ということなら、アタシの先祖エルフがそれ。中でもハイエルフは妖精と同じとされている。アタシの母親はユグドラエルフの王族だけど、ハイエルフの一歩手前の種族とされている。んで、シルフェの御加護はエルフなら多少は持ってる。で、でも、シルフェの亜人というわけではないかな」



「なるほどなるほど。クレステル先輩の謎だった部分が次第に分かってきてとても興味深いです」



「んえへぇ~~それほどでもぉ~~」



「…それでですね。そのシルフェの亜人族がオデュッサイル地殻断崖の真上までのルートを持ってるそうなんですよ!」



「な、なんですとぉ~~?? …や、やばくない?」



「何がです?」



「地殻断崖って成層圏まで達しているから、途中もの凄い極寒になるし、空気だって…」



「詳しいですね。でも空気は問題なく吸えるみたいですよ? まぁやってみなきゃ分かりませんけど、とりあえず極寒の為の防寒対策だけはしておきますかね」



「あ、アナタこそ詳しいのねぇ~~、あ、アタシ感激しちゃうわぁ~~うぇへへ」



『かつて魔王の時、断崖の天辺も峡谷の奥底も興味本位で行ってみたことがあるなんて絶対に言えない!!』



「ま、まぁそもそも帝国からのルートは、帝国軍が独占していて通れないはずだから、ね」



 小川のせせらぎと鳥の鳴き声を聞きつつ、背の高い木々が並ぶ林道を2人は行く。ここまで半日歩いてきたが、特に魔物も出ない安全な道というのは本当のようだった。陽の光もそろそろ西日に差し掛かる頃、ようやく林道の先に何か大きな物影みたいなものが現れた。



「人?……」



「!? いや違う!! あ、アレ、大きな魔物??」



 人にしては大きすぎると思いきや、とっさにクレステルが身構えた。次第に近づいてくるソレは人の4倍程の大きさの銀の毛並みの狼だった。



「銀狼族!?!?」



「待ってくれ!! ちょーっと待ってくれ!! すまんすまん、脅かしてすまない!!」



 銀狼の後ろからオッサンが現れた。彼は銀狼の前へ出てこちらへ歩み寄る。両手を上に上げて大きく振り、武器を持っていないというアピールをしていた。



「おじさん、誰?」



 相変わらずの半開きの眼が、更に気が抜けた感じになったクレステルが問いかける。彼女は警戒を解いたようだ。



「アンタら冒険者か。俺も冒険者だ! ワイブルス・ヨークマン。商国アバンテの冒険者さ」



「アバンテ? クルス・オグナを通って来たの?」



「そうそう、そうなんだが… 実は俺、クルス・オグナに商いで用事があったんだが、今クルス・オグナは厳重警戒態勢でさぁ」



「厳重警戒態勢?」



「なんでも良くない兆しとかで先日から亜人以外は国境を通してくれねーんだよ」



「お、おじさん人だよね。さっきアバンテから来たって…」



「商人通行証で無理やり国境経路を通してもらって、ノグルシアへ進路変更ってところだ。この際仕方ねぇ、ノグルシアで売りさばく! アンタらもこの道通るってぇことはクルス・オグナ目指してんだろ? 悪いことはいわねぇ、ここで引き返しときな。亜人じゃねーと何がなんでも通れねぇよ。



「…ん? んん? 良く見ると、アンタぁエルフ、いやハーフエルフか! こりゃたまげた、俺もそれなりに長く生きてるけど、ハーフエルフなんて初めてお目にかかったわ! 珍しい!!」



 如何にもな商人気質なのか、よく舌の回る男ワイブルスは本当に珍しそうにクレステルを観察する。



「は、恥ずかしいからヤメテ///」



「す、すまんすまん、つい。ってぇーことはアンタは多分通れるな。でもそっちの聖女さんは人だろう?」



 流石に二人ともハーフエルフということはないよなと、観察しつつワイブルスは眼を細めながら言う。



「あ、ハイ! 人です私!!」



『上位魔人です! だなんて言えない!!(というか私自身の肉体は人なんだから紛れもなく人よ人!!)』



「だよなぁ。じゃあ2人で通るつもりなら引き返しな。行くだけ損だぜ」



 ワイブルスは自分の商品を積んだ大きな荷車へと戻ると、荷車を手綱で引いている大きな銀狼の頭を撫で始めた。



「銀狼族ですよね? 魔物に近いとされる」



「おうよ、俺の相棒エルテイルだ。銀狼族は魔物に近いと言われてるが~~…魔物の定義はその野生動物が持つマナ量と、それを制御出来てるか否かと残虐性の有無、そのあたりらしい。その点、銀狼族は賢い!」



「野生動物としての残虐性はあるが、無闇に人は襲わない。魔法力の暴走のままに人間を襲う魔物とは別物さ。それに俺はビーストテイマー(獣使い)ってヤツだ。コイツとの意思疎通はもちろん、人を襲わせたりはしないさ」



 《オオン》



 大きな険しい風貌にしては可愛らしい声で、銀狼エルテイルが軽く吠える。



「可愛いですね!」「あ、カワイイ…」



 メサリアとクレステルがそう呟くと、ワイブルスは満足気に鼻を伸ばした。



「ふふん、そうだろそうだろ? なぁアンタら、折角だし俺の商品見てくか? なんなら買ってってくれや、お安くするぜ?」



 そう言うとワイブルスは荷馬車を覆う布をまくった。メサリアとクレステルが一緒に覗きこむ。そこには小瓶に入った液体が木箱に詰められてずらりと並んでいた。他にもマナハーブなどの薬草が沢山積まれている。薬草独特の香りがツンと2人の鼻を突いた。



「こ、コレはハイポーション!? それからハイマンドレイク!! しゅごい、結構レアアイテム」



「おっ、流石だな。ここら辺のアイテムを揃えられる冒険者はあまりいないんだぜ? 大抵は回復魔法士をパーティにひとり入れることが多いからなぁ冒険者チームは。よく知ってるなぁ嬢ちゃん」



「薬師がまず少ない… この世界、大抵魔法でどうにかするからね」「ハハッ、ごもっとも! コレは南方のとある薬師から仕入れた。市場で出回ってるポーションとは比べ物にならない効果だぜ?」



「そちらのハイマンドレイクは? 単体で使うものではないですよね?」「まぁな、そっちは回復魔法士の魔法の媒介になって効果を飛躍的にアップする代物ってところだ。回復魔法士がいないと使えないからな。メインの商品はハイポーションの方だな。そっちは誰でも手軽に使える」



「旅の途中耳にしたが… 一説によるとこの二つを組み合わせるとトンデモナイ回復薬が出来るとかなんとか… まぁ都市伝説みたいなものだが」



 ワイブルスがそう言うと、つい条件反射でメサリアが答えてしまった。



「エリクシルですね」



「は? エリク…なんだって?」



「あ!! いえいえなんでもないですなんでも!!」



 メサリアが慌てて否定をすると、ワイブルスとクレステルまでが食いついてきた。



「嬢ちゃん知ってるのかい?? 詳しく教えてくれ!! 頼む!!」「…メサリアちゃん、意地悪しないで教えて、アタシも知りたい」



「えぇ~~? ですからね、このハイポーションとハイマンドレイクをこう一緒に置いて…」



 メサリアが荷台の横の足掛け場に二つのアイテムを置いて唱えた…



薬 草 合 成(エーテルヒューズ)!!」《ボソッ》



 魔法発動時の独特な発光現象が起こると、先ほどまでそこにあったハイマンドレイクは消滅し、ハイポーションは緑から明るい蒼へと変色していた。小瓶は微かに発光している。



「ちょ、ちょっと俺の商品に何を…んん??」



「こ、これは? メサリアちゃん?」



「ちょっと待ってくれ…えーとなんだっけ、ディテクトマジック… アイテムリファレンス!」



 ワイブルスがアイテム鑑定魔法を唱えると、腕輪の翡翠晶に文字が浮かび上がる。それを見て突如絶叫に近い大声を上げた。



「はぁ?? なんだってぇええ!?!?」



「…おじさん、アタシにも見せなさい」



「み、見てみろコレ…コレ!!」



「…んと…エリク…シル? 人界では精製不可能とされる? は? ヘルフレイヤ高原の上位薬草から抽出可能?? 何…コレ…??」



「それも訳わからんが、ココ見てみろ…コレ!!」



「……ハイポーションの…約50倍のマナ量!?!?」



 一同「ええええええええええええええええええ!!!!!????」



 またしてもやってしまった、とメサリアは思った。思えば2年前から何も変わってない。



「あ、あああアンタぁ何者だ? 薬師か? いやそうは見えない… アンタ名前は?」



「…あー…メサリア・ノア・ヴァルフです……」《ガクッ》



「メサリア…… もしかして深淵の!!?? なんてこった…… そ、そっちのハーフエルフの嬢ちゃんは名前は!?」



「あ、アタシはクレステル・ユグドラ」



「な… 大解除魔導師!!?? なんちゅーコンビだ……」



 ワイブルスは力が抜けてヘロヘロと腰を地に着いた。彼は力なく続ける。



「なぁ、今の魔法は何なんだ? 誰でも使えるのか?」



「いえいえ、私にしか使えません」



「なぁ… 頼む、俺の積み荷のハイポーション、全部合成してくれねーか? 褒美はいくらでも弾む。この通りだ!!」



 ワイブルスが頭を地面につけて土下座をした。彼の身体は小刻みに震えていた。興奮とも驚愕とも混乱ともなんとも言えない様子だ。



「はわわわわ…、ねぇメサリアちゃん、ちょっと! ……………全部合成してあげて、幾つか譲ってもらお?? ね、ね?」《こそこそっ》



「……………う、うむ」



 なんとも言えない表情で、メサリアは眼を閉じ腕を組みながら頷くと、天を仰いだ。




 _____久々にやってしまったわぁ_____



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 陽は西日を強め、紅葉した木々を斜めに照らしていた。森林の木々の陰影がくっきりと浮かび上がる。ワイブルスは幾分か落ちつきを取り戻していた。彼の積み荷は全てエリクシルと変わり、蒼く発光している。


 メサリアとクレステルは瓶詰めで10本分のエリクシルを譲り受けていた。



「ハァ… 何って日だ。とんでもねぇ、嬉しさよりも驚きの方が勝ってやがる。おじさん、まだ腕の震えが止まらねぇよ…」



 そう言いながらワイブルスは微かに震える自分の右腕に目をやった。



「こ、これからどうするのおじさん。ノーブルムースで売りさばくの?」



「いや、ノーブルムース経由で一度アバンテへ引き返すわ。こりゃ売れねぇよ、売ったらたちまち大騒ぎだ! 一度ゆっくり吟味して、知り合いの専門家にもあたってみるさ」



「うん。そ、それがいいわ。このエリクシルは…危険」



「……………」



「例を言うぜ、メサリア嬢ちゃん。アンタぁ底知れねぇ、噂通り深淵だよアンタぁ」



「あはっ…あははははぁ………」



「それと、先ほどのアイテム鑑定も気になる。一応メモったぜ俺ぁ、ヘルフレイヤ高原の上位薬草な。へるふれいやな! このデータ翡翠晶どうなってんだ? 人の知らないものまで…」



「き、聞いたことがある。そもそも翡翠晶は正式名称が『プリズムラルド』。この世界の遥か太古から存在するクリスタル。世界に点在する全てのプリズムラルドが繋がっているとされてる。その性質を使って、何処でも誰でもいつの時代の情報をも引き出せる…らしい」



「その情報は、誰かがクリスタルに刻んだということか?」



「そう。人界では帝国の魔法省がそれをやってる。だから、人以外の亜人や魔人なども情報を刻んでるはず。恐らくはこのヘルフレイヤ高原は魔大陸ミストレムリアの地名…のはず」



「とんでもねぇ話だな。その話、ソースは?」



「…エルフの里の知識。行ったことはないけど」



「…はぁ、やっぱりとんでもねぇぜ。おじさん、今日はもう腹いっぱいだわ」



 準備が整うと、ワイブルスは再び2人の前に立ち、右手を差し伸べてきた。



「これも何かの縁だ。商国アバンテの商人兼冒険者のワイブルス・ヨークマン、何かお探しの商品などあれば俺のところを頼ってくれ。あらゆる商品のツテを紹介できる!



 それと俺からも、クリスタル級冒険者とのコネが出来て光栄の至りだ。今後ともども是非よろしくしたい! …でっけぇ土産もできたしな! ははははは!!」



「亡国の解除魔法士クレステル。よ、よろしく……えへっ、えへへへ」



「同じく亡国の聖女メサリア。よろしくお願いします」



 《オオン》



 エルテイルが軽く吠えると、ワイブルスはノーブルムース方面へと消えて行った。メサリアとクレステルはある程度見送ると、逆の進行方向へと歩きはじめた。



「…とんでもねぇ…」



「え?」



「とんでもねぇぜ! メサリアちゃん!! あ、アタシ感動だわぁ~~!! ホントに何者なん?? ぐへっぐへへ」



「深淵のメサリアです」



『認めちゃったよおおおお!!!』



 メサリアは脱力感とともにふらふらと歩きだした。もしかして、トンデモナイことをしでかしてしまったのではないだろうか。そう思いながら夕焼けを眺める。



「んで、どうする? メサリアちゃんはクルス・オグナの検問に引っかかると思うんだけど」



「こうします」



「こうって?……… は? はえぇえええ!?!?!」



 クレステルはメサリアを見てたちまち驚いた。1、2歩後ずさる。



「しゅ、しゅごい! 何それ!!?」



「私の角です」



「……………」



「あ、もちろん部分的な獣化魔法ですよ」



「いや、獣化魔法ってアナタ… ほら、こんなに硬い。まるで、本物…」



 メサリアは魔王ジュピタリアの漆黒の魔牛の二本角だけを顕現させた。クレステルがさわさわなでなでする。気のせいでなければ、少しうっとりしているようだった。



「コレで私も立派な亜人ですよね」



「いや、それ亜人というより魔人… 種族はどうするの?」



「んー… 西方の亜人「ウル・アルティオロス種」とでもしておきましょうかね_____






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