10.亜人娘タリアの憂鬱
小説初心者ですがよろしくお願いします。序章全7話構成を順次投稿、新章は序章よりも長めの1話構成で順次投稿いたします。更新遅めです。イラスト画像と共にご想像していただければ幸いです。
[亜人国家クルス・オグナ 国境北側 ヴァナンの関所]
ノーブルムースを旅立って3日目の朝、メサリアとクレステルはクォンタムハイドの出口へとようやく辿り着いた。早朝に小川で捕った魚を炙って小枝に刺したものを食べながらのくだり道は軽快で、はたから見ればただの旅行客のようだ。メサリアは白いフードをかぶり、既に二本角を顕現化させている。一方クレステルは、頭のあちらこちらを掻き毟っていた。あらゆるところからあほ毛が飛び出している。
「んあぁあああ! は、はやくお風呂入りたい!!」
「それは私も同じですよ先輩。いくら小川で水浴びをしたとはいえ、シッカリと汚れを落とすにはちょっと冷たすぎましたよねぇ」
「そうソレ。冷たすぎて長く浴びてると凍え死ぬから無理。あと、山の気温が予想以上に寒かった。まだ秋だけど。日中水浴びしても良かったんだけど、誰かに見られたくないし」
「人通り少ないですけどね。道中ほとんど誰にも会いませんでしたもん」
「あ、アタシがノーブルムースを拠点にしてたのは、温泉好きだから。毎日違う浴場を嗜んでたの」
「そう言えば私も一か所だけお気に入りの温泉見つけて、入り浸ってましたよ」
2人が話しながら足を進めると、森が途切れて眼前に景色が広がった。山の麓とはいえ高台のその場所からは、やや下の方に広がる街並みが見下ろせる。ノーブルムースとは一変し、明るい色のレンガ造りの街並みだった。
「ヴァナンの街だね。噂通りの鮮やかな街並み。綺麗…」
「うわぁ~ホント綺麗ですねぇ~。ってことはあそこにみえるのが関所ですかね?」
「そ、そのはず。じゃあ準備はいい? どういう検問か不明だけど、私は何も偽らずにこのまま通るわ。あ、あなたは打ち合わせ通りに…ね」
「わかりました。打ち合わせ通りで何とかなるでしょう。たぶん…」《ゴクリ》
『亜人が通行可能ってことは、亜人で通すしかない。幸いこの角は本物だ。上位獣化魔法アニマフレアでの変身は、中々見破れないものの所詮は偽物、不安定な部分がかなりある。しかし、どういうわけか私の場合は角が固定化出来ている』
『変化中最大の難点(魔法力)だって落ちついて安定している。道中で先輩も私の角を触って本物っぽいって言ってくれてた。恐らくは、私の魂の本来の姿だからだろうけど… 2年前グランゾーラも同じようなこと言ってたな…』
2人は道を下ると、石造りの巨大な通路に鉄格子が降りた、如何にもな門のある関所へと辿り着いた。関所の入口には片脇に兵士が一人配備されているだけで、その一人が声をかけてきた。
「そこの2人、止まれ。冒険者か?」
「はい。ノーブルムースから来ました」
兵士が甲冑のヘルメットを開くと、蛇のような瞳以外は人間と大差ない男の顔が現れた。恐らくはリザードレイス(蜥蜴人種)だろう。男は続ける。
「悪いが現在、クルス・オグナはとある理由で厳重態勢でね。亜人以外は国境を通すわけにはいかない。君たちは…人間ではなさそうだな。エルフと、獣人か? なんだその角は、見かけない感じだな…」
「バホック、通行人か? よーし俺の出番だ、久々にやっとかないとな。この関所、中々通行人が現れないからなぁ」
関所の端の従業員出入口から杖をもったローブ姿の男が出てきた。兵士と同じく人のような外見だが、瞳だけが蛇やら蜥蜴やらのものだ。
「バリクック、頼む。一応2人とも亜人のようだがな」
「国境警備隊の魔導師バリクックだ。まずはお二人の目的を聞かせてもらおうか」
メサリアとクレステルは視線でやり取りし頷き合うと、クレステルが前へ出た。
「あ… アタシたちは冒険者。珍しいマジックアイテムを求めてこの異邦の地へ来た」
「ほう、マジックアイテムか。では種族鑑定を行うぞ!」
「種族鑑定!?!?」
「ん? なんだ、当たり前だろう? 亜人しか通せないのだからな」
「そ、それはそうだけど。外見の特徴だけじゃダメ…なの?」
「ダメだダメダメ。偽装や変装の可能性もあるからなぁ…それとも何か? お前ら、種族鑑定を受けたくない理由でもあるのかぁ?」
バリクックという魔導師が疑いの眼差しを向けてくる。というよりは形式上疑ってみせたという方が正しいかもしれない。クレステルはメサリアに視線を送った。『大丈夫?』そう彼女は目で訴えてくるようだった。
「も、問題ない。続けて」
明らかにクレステルは動揺していた。少し発汗気味で息もはずんでいる。彼女自身の心配というよりはメサリアの心配をしているようだ。それもそのはず、メサリアは人間なのだから。
「よーし、久々の鑑定魔法だ、腕が鈍ってなけりゃいいがな。ディテクトマジック、バイオリファレンス!」
「……………」
「な、なんだってぇええ!?!?」
「……ん?」
「ど、どうしたバリクック、そんな声あげて!!??」
いきなり驚き声を上げたバリクックにバホックという兵士が駆け寄る。メサリアもクレステルも何が起こったか困惑気味だった。
「…この仕事をやっていると時たま珍しい種族などに巡り合うことがあってな、度々わくわくさせてもらったものだぜ、自分の知らない世界が広がるようでな…しかし」
「お、お前がハイエルフだと!?!?」
「なっ、ハイエルフだって!? マジかよ!?」
「はぁ!?!?!?」
その言葉に思わずクレステルとメサリアも声を上げてしまった。クレステルはハーフエルフだ、ハイエルフではない。しかし絶対基準の鑑定魔法がハーフエルフではなくハイエルフだというのだ。
「ハイエルフなんて初めて見たぞ俺。この国にゃあエルフはごまんと居るが、ハイエルフとなると別だ。妖精種のハイエルフは物語でしか聞いたことがないぞ」
「ち、ちょっと待ってよ。アタシハーフエルフじゃないの?? 見せて!」
「ハーフエルフ? お前ハーフエルフなのか? 確かに耳の長さから最初は俺もそう思った。でもコレみろよ。ここだ」
「種族名ハイエルフ。全てのエルフの真祖。エルフの里ユグドラシルの大樹に住むユグドラエルフがその詳細を知っている」
「んな゛あ゛ッ゛!?!?」
クレステルはその場で固まった。今の今までハーフエルフと思っていた彼女はその実ハイエルフだったのだ、無理もない。メサリアもこれには驚いているようだ。
『ってことは私たち、ハイエルフとハイデビルのコンビ!?!? やば!!!』
「嬢ちゃん固まっちまったぞ。コレ、今の今までハイエルフって知らなかったって反応だな。ぶっははははは!!! おもしれえ、ハイエルフさんおもしれえぞ!!」
「確かに… 伝説の種族が自分の正体に驚いて固まるとかっはははははは!!」
兵士と魔導師の2人が笑いだす。すると、笑い収まらぬまま、今度はバリクックがメサリアに向き合った。メサリアは身構える。鑑定魔法を使われたら恐らく彼女は人間とバレてしまうだろう。しかし、彼女には成す術がなかった。
「片やハイエルフときた。こっちの嬢ちゃんは何者かな? その角、見覚えがない。相当珍しい亜人の種族だと思うが」
「なぁ…魔人ってことはないよな、バリクック? この見た目、獣人というよりはなんだか…」
バホックが若干疑いの眼差しをメサリアへ向けると、メサリアはあははと笑い返す。『ヤバい、どうしよう』そう思っているとバリクックが聞いてきた。
「一応聞いておくが、お前さんはなんの種族かな?」
「西方の亜人、ウル・アルティオロス種です」『もう引き返せない』
「ふむ、聞いたことのない種族だな。よーし行くぞ、ディテクトマジック、バイオリファレンス!」
「……………」
「……………」
「…ほほぉ、本当だ。種族名ウル・アルティオロスと書いてある。そして詳細は…不明か。しかしこの鑑定魔法、種族名しか出てこないのがなんとも… 人種も出てきてほしいよなぁ」
「確かになぁ。だがよバリクック、さっきは自分で言っておきながらなんだが、やっぱり魔人てぇことはねーだろ。この嬢ちゃん人よさそうだしな。それに俺らの知識にない亜人なんて山ほど居るぜ?」
バホックがメサリアに暖かな視線を送る。
『え゛え゛ッ゛!? 鑑定魔法なのに本当にウル・アルティオロスって…私人間じゃなかったの!?!? それとも鑑定魔法って魂の情報を読み解くのかしら』
メサリアはクレステルの方へ再び視線をやると、クレステルも驚きの表情でこちらを見つめ返す。
「よーしいいだろう。最後に2人とも名前は?」
「く、クレステル・ユグドラ」
「じゃあ角の嬢ちゃん、あんたは?」
「えーと… タリア・メリサです」
「記録っと… よーし通っていいぞ!」
バホックが大きな鉄格子の門の横の通路へ2人を案内すると、そこから国境を通り抜けられるようになっていた。大きな門の方は余程のことがない限り開閉しないらしい。
関所からしばらく道を下ったところで、ようやくクレステルが口を開いた。
「ど、どうゆうことかな、亜人娘のタリアちゃん?」
「あっハイ、亜人娘のタリアです。どうゆうことってどゆことですか先輩? あはは…」
「あ、アタシてっきり偽装がバレて通れないと思ってたの。だって鑑定魔法使うって時点でもう無理じゃない? なのに…」
「あ~、まずですね? 種族は実際にある種族名にしました、見た目もそれに合わせましたし」
「そ、そのウル・アルティオロスって種族がまず分からないんだけど。メサ…タリアちゃんはどうやってその種族のことを知ったの?」
「…まぁ私、この2年間いろんな場所を旅してきましたからぁ……」
『ヤバイ、いろんな意味で限界かもしれない。さっきの門番たちも馬鹿で助かったようなものだもの、普通だったら知らない亜人を特定するまで通さないわよ』
「か、鑑定魔法は? ちゃんと種族名出てたけど??」
「そ、それは…偽装です…企業秘密です!」
「偽装できないから鑑定魔法なのに…… しゅ、しゅごいよメサ、タリアちゃん!!」
「いえいえこれしきのこと。それよりも先輩がハイエルフだってことの方が驚きなんですけど」
メサリアはすかさず話題をクレステルのそれへと挿げ替えた。ごく自然の流れだったので、クレステルもさほど違和感を覚えなかったようだ。実際、先ほど起こったことではメサリアの偽装がバレなかったことよりも、クレステルが実はハイエルフの部類だったということの方が余程衝撃的だろう。
「あ、アタシもそれには驚いてる。た、確かに他のエルフたちよりは能力高いかもって思ってたけど、それはアタシの実力なのかなーと…」
「あと、母親にはハーフエルフだとしか聞かされてなかったし、会ったことのない父親のことは何も知らないのアタシ。も、もしかしたらアタシの出生に何かあるのかも…」
「前から思ってたんですが、先輩の肌、白くてメチャ綺麗ですし、お人形さんみたいだし、存在感が違うなぁと。ハイエルフだったならその妖精のような魅力にも頷けます! 私、光栄です! 先輩、ホントに絵本から出てきたみたいです!!」
メサリアは目をキラキラさせながら小さな先輩を見つめた。小さな先輩は少し恥じらいを見せて地面の方を見つめる。
「タリアちゃんの方こそ、なんだかその角生やしてからは凄くシックリいく姿で、妖艶で、まるで伝説の英雄譚に謳われる魔人かと思ったよ///」
「え゛ッ゛……………」
2人は手始めに情報の入りやすいとされる、ヴァナンの亜人食堂こと『カフェテリア・デ・ヴァナン』へ向かうことにした。特にクレステルは朝風呂に入りたくて何をするにも気が気でないらしい。時は一刻を争うようだった。
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カフェテリア・デ・ヴァナンと言えば、クルス・オグナ北の街ヴァナンの名所の一つとされている大規模食堂だ。北側から流れるクォンタム川(クォンタムハイド沿いの小川)がヴァナンの街の中心部を通っていて、その川を跨ぐように建てられた大型の水車を中心に拡大したテントハウスのようなものだ。雨よけになるシーツやテントが上部に継ぎ接ぎにされており、外席と中席の境界が曖昧なハチャメチャな構造をしている。中心部の水車回りが厨房になっており、シェフが食材を切り盛りしている。
冒険者ギルドと同じく24時間営業をしている数少ない施設で、国境付近ということもあり各地の冒険者はここに集いて情報を交わした。街の広場にあるソレは、特に夜になると満席に近い賑わいをみせるようだ。
「あ、朝だからかなぁ、人あんまりいないねぇ…」
「そうですねぇ。奥の水車の調理販売口へ行ってみましょうよ先輩」
「そ、そうね。朝の小魚だけじゃちょっと物足りなかったし、ここの名物でも適当に摘みながら考えましょ」
2人はカフェテリアの奥の水車場を目指す。夜は点灯しているであろうランプが全て切られており、あたりはうす暗かった。傍から見れば営業しているかどうか疑わしいほどだ。テントの切れ間や外側から差し込む朝日で丁度良いぐらいには見渡せる。
やがて水車が見えてくると、大きな鉄板のような調理台とも机ともとれるところにガタイの良い大きな牙をもつ緑黒い肌の大男が腰掛けていた。大男はコック帽のようなものを被っており、恐らくはこの食堂の調理人なのであろうことは簡単に察することができたが、それにしては見た目が凶悪であった。
「んお? お客さんかな??」
2人に気付いた大男は、その緑黒いガタイを起こして2人に向き合う。
「お、おじさん。もしかしてオーク?」
「え゛え゛ッ゛!? オークってあの、亜人の中でも最も魔人に近いとされる凶悪な!?」
「ガッはッはッはッは!! お゛うよ!! 俺はオークのガリアンだ。ここの料理長を務めている」
「料理長!? オークなのに??」
「ガッはッはッはッは!! そうよ、この街にきてから何度も繰り返したこのやり取り、もはや苦にも思わんがな! 俺はまぁ、アレだな、この街の名物ってとこだな! クルス・オグナの南には俺の故郷や仲間たちもいる。オークの中じゃ割と穏健派の部類だよ。まぁまぁ嬢ちゃんたち、何か食ってけよな! おうおう!」
オークのガリアンは陽気に笑うとメニュー表を2人に渡してきた。
「今の季節だとクォンタムサーモンとレモンの山菜ホイル焼きってのがおススメだぞ。んん?? そちらこそ珍しいな、エルフと獣人か? おもしれえ組み合わせだな」
「く、クォンタムサーモンとレモンなんたらを2人前。あとそこにあるアガッヘビール瓶一本」
「おっ、いいねぇエルフの嬢ちゃん、朝から一杯やるつもりかい」
「料理長さんッ、先輩はエルフじゃありませんよ、ハイエルフですっ!」
「な、ハイエルフだとぉ!?!?」
「ちょ、ちょっとメサ、タリアちゃん!! あえて言う必要ないでしょ!!」
「いやぁ、ちょっと面白そうなのでばらしちゃいましたぁ。しかもオークとハイエルフってのがまた…」
「ぶったまげたわ! エルフですら珍しいというのに。確かにエルフにはない輝きみたいなのがあるな。角の嬢ちゃんの言うとおり、オークとハイエルフって組み合わせはなんというか、アレだよなぁ」
「アレですねぇ」
「言うなれば真逆の存在。こうして向かい合ってるのが奇跡ってな! ハイエルフの嬢ちゃんはオークが憎いかい?」
「そ、そんなことない。そもそも私は人里で育ったハイエルフ。種族間抗争とかとは無縁の存在。オークのおじさんも平気、寧ろ親しみやすそう」
「そっか。なんか嬉しいぜ。俺がここの料理長やってるせいか、エルフはあんましこのカフェテリア・デ・ヴァナンへは来ないんだよな。それがエルフの代表みたいなハイエルフの嬢ちゃんにそう言われるとなぁ///」
「よし、ここは俺の奢りだ嬢ちゃんたち、ちゃんと食っていきな!」
「おおっ!」「えっ、いいんですか!?」
「お゛うよ!!」
気前よく吠えると、オーク料理長ガリアンは目の前に吊るしてある大型のクォンタムサーモン数匹の中からひとつの尻尾を右手で掴んだ。そして思いっきり鉄板の調理台へと叩き落とすと、左手をかざして詠唱をはじめる。
「止まりし時よ進めえ゛! ヘイステッド!!」
先ほどまでピクリともしなかったサーモンが突如ビチビチと暴れだす。料理長は大きな包丁で剣撃のように瞬く間に捌くと、次は山菜を刻みだした。
「うわぁ、流石料理長って感じですね、先輩!」
「今の魔法は下位の解除魔法。あらかじめ鮮度を保つために生きたままストップ(時間停止魔法)をかけておいたサーモンの魔法を解除したんだわ。なかなかやるじゃない、うふゅふゅふゅ」
メサリアにとって、実に3日ぶりに聞く先輩の薄気味悪い笑い声だった。ガリアンはそんな中慣れた身のこなしで巨大包丁を扱う。野太い声を出してまるで曲芸でもしているかのようだ。
「ふん゛っッ゛!! オラオラオラオラァ!!」《シュカッ、トトトトトトトトン、トトトトトトトトン》
「ところで嬢ちゃんたち、ここには情報でも探しに来たんじゃねぇのか?」
「ハイ。この近場で朝風呂に入れる場所と、あとこの国にいると噂の妖精シルフェの亜人族を探してまして」
「お゛うっ。朝風呂ならそこの横丁をまっすぐ行ったところ100mくらいにあるぞ。んで、シルフェの亜人族ってーのはシルフだろ? だったら朝の客の中にひとりいたぜ。まだカフェテリアのどこぞで飲んだくれてると思うがな」
メサリアとクレステルは顔を見合わせた。重要な情報がいとも容易く入ったのだ。風呂場はさておきシルフというお目当ての亜人族が今、このカフェテリアで飲んだくれているらしい。まさにグッドタイミングだ。
「お、オークのおじさん。そのシルフの特徴は?」
「なんでぃ、シルフの特徴知らんのか嬢ちゃん。エルフと同じ長い耳だがその耳は垂れ下がっててな、背中に羽が生えてる! ほいお待たせ!! ホイル焼きとビールだ!! ガッツリ食べな!!」
「んおお~~んまそう! あ、ありがとうオークのおじさん!!」「御馳走になります!」
2人が料理を持って席へ持っていこうとすると、ガリアンがメサリアを引きとめた。ガリアンが耳元で囁く。
「角の嬢ちゃん。アンタぁ魔人じゃろ?」「!?!?」
「この辺の奴らは疎いがなぁ、俺の故郷じゃ魔人との交流も秘かにあってな、魔人を半ば崇拝しとる。だから分かるんだよなぁ。嬢ちゃんのその角、少し目立ち過ぎる。気をつけな!」
「御忠告、ありがとうございます料理長さん…」
メサリアはクレステルの背を追いかける。ガリアンはそんなメサリアの後ろ姿を眺めながら思った。
『こんな街中で魔人に会うなんざ初めてだぜ。しかも… あんな人懐っこく礼儀正しい魔人なんてもっと初めてだ』
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[亜人国家クルス・オグナ 国境北側 ヴァナンの関所]
蜥蜴人種のバリクックは暇を持て余していた。3か月ごとに担当の関所が変わる国境警備隊の鑑定魔導師は、基本的に通行人が現れれば身元鑑定はもちろん、持ち物鑑定などをして通行の可否を決める。クルスオグナが厳重態勢となった今では、種族鑑定を行うのが主だった仕事になった。敵が現れれば攻撃魔法も防御魔法も使うし、そして、誰も来なければ何もしない。
特に国境の関所の中でも一番人通りの少ないとされるヴァナンに配属されてからは、先日までの2カ月間、誰一人として来訪者はなく、何一つやることもなかった。よって、先日訪れたワイブルス・ヨークマンという行商人と、本日訪れたクレステル・ユグドラとタリア・メリサの3名だけにしか鑑定魔法を使っていなかった。
それだけにここ数日だけで3人も訪れたのにはバリクックも驚いていた。しかも、そのうち最後の2人は今まで国境警備隊として配属されてからというもの、一度も見たことのない亜人。片や伝説のハイエルフにして、片や見たことも聞いたこともない謎の見目麗しき獣人。
バリクックはそれなりに興奮していた。この仕事に配属されてから初めて、手ごたえのようなものを感じていた。
「おーいバリクック。昼飯だ、俺はハヤシライス食うぞ! もう我慢できねぇ。警備変わってくれ! 食堂に行ってくる!!」
突如外の扉が開くとバホックが顔を覗かせて、身勝手なことを言ってきた。
「おいおいおいちょっと待てよ。お前の昼休みまでまだ1時間あるだろ? その前に俺がハヤシライス食いに行くわ!」
「いーじゃねぇか別によーー。今日くらい先に食わせてくれよ。久々に警備兵らしいことしたから腹減ったんだよ!」
「なんだよ、それなら俺の方が鑑定魔法使って余程魔力消耗してるわ! しかもそれなりに驚いたから更にな!」
「あー、ありゃ驚いたわ。生まれて初めてハイエルフを拝んだからな。確かに他のエルフとは存在感が違ったな?」
「全くだわ。俺は今日のことを一生忘れねぇよ。しかも、後で気付いたことだがあの娘、クレステル・ユグドラってぇことはあの有名な大解除魔法士さまだぜ?」
「破錠のクレステル!?!?」
「気付いてなかったのか、お前も」
「マジかよ。大解除魔法士さまはハイエルフってか、そりゃ納得だわ。ってことはあの連れの角の嬢ちゃんの方も気になるな。そんな御方と一緒に旅されてるとなると…」
「聞いたことのない種族だったからなぁ…」
「……………」
2人は取調室の岩の天上を仰ぐ。
《ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!》
突如取調室脇に取り付けられた連絡用受話器のベルが鳴りだした。バリクックが慌てて駆け寄ると受話器を取る。
「あーっビックリしたぁーー!! 脅かせんなよ!! ったく」
「脅かせんなとは何事だ、俺に向かってその態度はどういうことだ??!!」
「んえっ、えええええっ!?!? こ、これはこれはリグナム様!! 大変失礼致しました!! 国境警備隊隊長殿とはつゆ知らず…」
「バリクックよ、ヴァナンの関所に配備されてからというもの、たるんでるのではないか!? 誰も通行せぬからと呆けおって!!」
「ハハーッ!! 申し訳ござらぬ!! しかし実はこの数日だけで3人、通行人が来まして…」
「なんと!? ヴァナンの関所に通行人など一大事だ!! ぐわっはっはっは!! 実は臨時巡回中でな、あと数刻でそちらへ着く。その連絡だ」
「数刻で!? か、かしこまりました! 今すぐ準備してお待ちいたします!!」
《ガチャッ》
バリクックは受話器を切ると、思いっきりバホックの方を振り向いた。
「リグナム様からか?」
「ああ! しかもあと数刻でこちらへ来るらしいぞバホック!!」
「なんだと!!?? やべぇ、事務室のエロ本片付けねぇと!!」
「俺は台所の酒瓶片して換気する!! 急げ!!!」
もの凄く散らかった関所の部屋を一掃すべく、バリクックとバホックは全身全霊で動き出した。片や事務所に隣国アバンテから仕入れた人のメスの裸の激写されたエロ本ばかりをちらかしているバホックと、片やカフェテリア・デ・ヴァナンから仕入れた大衆酒『コルモラ』の業務お徳用BIGサイズの瓶を台所にいくつも重ね置きしているバリクックの首を撥ねかねない大事態であった。
数刻が経ち、一通りの片付けが終わると、取調室の国内側出口の扉が叩かれた。バリクックが扉を開けると、そこにはバリクックやバホックよりも一回りデカイ、甲冑を身に着けた人狼が立っていた。
彼こそがクルス・オグナ国境警備隊隊長のリグナム・ゾン・ダリウ。屈強なる人狼族の戦士であり博識な男だ。2人は上官へ敬礼をする。
「うむ。警備任務御苦労である。そして、大掃除も大いに御苦労である」
「……………」
「……………」
「なんだ、バレないとでも思ったのか? 俺が臨時巡回の一報をあらかじめ入れておいたのは、醜態を見たくないからだ。見てしまったら上官としては処罰を下さねばならんだろう?」
バリクックとバホック両名は何もこたえられなかった。人狼は鋭い眼光で2人を見据える。
「定時連絡だ。隣の関所、商国アバンテ国境のアリオーヴでは5名の怪しい人族を捕えた。このご時世、亜人に変装して国境を越えようなどと笑止千万にして愚の骨頂。彼らは種族鑑定魔法の存在を知らないのかねぇ。実に愚かであった。恐らくは国の中枢の警戒する人族の組織の裏取引とやらに関係する5人だろう。引き続き国境の警備では人を厳重警戒、一人たりとも通すな。」
「但し、人だからと言って手荒に対応するなよ? 我々が敵視しているのはあくまでも組織の奴らのみ。他の人とは友好的で有り続ける。これからもな!!」
「ハッ!」「ハッ! 承知致しました!」
バリクックとバホックが背筋を伸ばして返事をする。人狼リグナムは取調室の事務机に腰かけると、取り調べ台帳を開いた。
「用は済んだ。バリクック、近日関所を通った3人というのはどれだ?」
「ああ、はい。この…こっちですな。そのページの最後の3人です」
「ふむ…このワイブルス・ヨークマンなる人のことは隣のアリオーヴでも聞いたな。商人通行証提示の上、特例で国境沿いの経路でアリオーヴからヴァナンへと通り、そしてクォンタムハイドへと抜けて行ったと…ふむふむ」
「で、この2人が本日の通行人か……… んん?? んんんんん????」
「……………」
「だ、だにぃぃいい!? ハイエルフだと!?!?」
『やっぱりそういう反応になるよな…』
「バリクック、お前の鑑定魔法でハイエルフと出たのか!!」
「ハッ、左様であります。私も最初は目を疑いましたが、鑑定魔法は絶対ですので、疑いようがありませんからね…」
「ぐぬぬ、この俺リグナムはあらゆる種族を知りつくす種族鑑定士でもある。この…ハイエルフか…会ってみたかったな。遥か彼方の地、ユグドラシルの大樹の下に住むユグドラエルフの女王だ。………なんと! 破錠のクレステル!!彼の人里のクリスタル級冒険者がハイエルフとは恐れ入る。これは…大発見だな!」
感心しながらも感激のあまりに驚こうとしている身体を、一つ一つの動作を慎重にゆっくり取ることで落ちつきを払っているリグナムは、最後の項目に目をやって凍りついた。
「は……………?」
「……ど、どうされましたかリグナム様?」
「……ああ、最後の娘ですね。見たことのない魔牛のような漆黒の角を生やした女性でして、なぁバホック」
「あぁ、あの嬢ちゃんはシッカリと覚えてるぜ。何せ俺のセンサーにビンビンきやがったからな。もの凄い別嬪さんでなによりあの乳が…」
「バカヤロウ!! 何言ってんだお前、リグナム様の前で……ん? リグナム様??」
リグナムはその狼の口を大きくクッパリ開けたまま静止していた。しばらくしてようやく言葉を紡ぎだしたリグナムは叫んだ。
「う、ウル・アルティオロス種だとおお!?!?!?!? 馬鹿なっ!!!???」
「な… ど、どうされたのですかリグナム様。知っておられるのですか??」
「バリクック!! お前この娘を通したのか!!!」
「ハッ! 通しました、聞きなれない名前の亜人でしたが、特に問題ないかと」
「バカヤロウ!! 亜人だと? 間違っているぞバリクック。コイツは魔人だ!!!」
「な、なんですと!?」「何ぃぃい!?」
「しかもただの魔人じゃない…上位魔人だ!! わかるかバリクック? バホック?? 上位魔人…ハイデビルだ!!!」
「んな゛ッ゛!?」「馬鹿な!!??」
「もう一度聞くぞバリクック。お前の鑑定魔法がそう紡ぎだしたんだな? ウル・アルティオロス種と??」
「ハハッ、左様でございます。見間違いは絶対にあり得ませぬ!!」
「マジか………こんなの腰が抜けるわ……… お前ら上位魔人、つまりハイデビルってのはな、神話や伝説にしか謳われない存在だ! 現在この世界で確認されている上位魔人はひとりもいない!歴史で最後に観測されたハイデビルは500年前の因果法帝ジュピタリアスただひとりだ!!」
「あの、伝説の魔王がハイデビル!?」
「しかもそのジュピタリア・メイザーが幻のハイデビル、ウル・アルティオロス種最後のひとりだ」
「伝説の魔王と同じ種族だと!? あの娘、タリア・メリサが??」
「む? タリア・メリサというのか…… たりあ・めりさ……じゅぴたりあ・めいざー……ふざけやがって、名前まで酷似してやがる。しかも種族名は偽装できねぇ、ヤツは本物だ。バリクック、この娘? どんなヤツだった、詳しく教えろ!!」
「ハッ…… って言われましてもね。ただの優しそうなお嬢さんでしたよ? なぁバホック」
「あ、ああ…… と、とてもそんなヤバイ神話の登場人物には思えないぜ。威圧感もなく、普通に俺らも会話してたからなぁ………あ! バリクックが鑑定魔法使うと言った時に顔引きつってましたね、あの嬢ちゃん」
「顔を引きつらせた?? ハイデビルが??」
「……………」
「わからん……お前ら2人とも昼飯はまだだったな? とりあえず食堂へハヤシライス食いに行くぞ。上官命令だ」
「御意!」「承知!」
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最近は女性キャライラストを描きたい欲が半端ないです。しばらくは男キャラ描きません、申し訳ない!!!
ここまでは書き貯めた原稿ですが11話以降は執筆途中です。投稿頻度落ちますがよろしくお願いします。




