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深淵聖女(ディープマリア) ~転生魔王は勇者ご一行~  作者: 恩谷
JUPITERIAS(ジュピタリアス) 第三章 ~ハミルトンの魔女~
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60.異空の漂流者たち

すみません。展開に詰まってしまったのと色々過ごしていたら半年以上空いてしまいました。


今年最後の更新です。苦し紛れに挿絵描きました。後半の方の話のページもキャラクター挿絵を少々追加しております。


来年はもっとまじめに更新したいので、心入れ替えて臨みます。どうぞ気長によろしくお願いします。

挿絵(By みてみん)

オルシェンコ湿原にて


60.異空の漂流者たち




[ミストレムリア プラチナ凍土 天界の牢獄]




(約半年前、ロギア大戦直後)



《ハァッ、ハァッ》



満身創痍で肩で息をする褐色の竜人。緑翠の巨大な二本角を地面へと突き刺して身体の支えとする。



「まさか、これ程とは… ワシも迂闊じゃったか…のぅ!!」



《ブンッ》



そう言いながら巨大な尻尾を高速で薙ぎ払うと、たちまちその尾は目の前の乱れた黒髪の化け物の手前で音を放って弾け飛んだ。



《バキィィィン》



「クククッ、アハハハハハハッ!!」



地面を這うようによろめきながらも、軽々と尻尾を防いだ和服姿の妖怪のような女性にょしょう。額に開眼した第三の眼が悍ましい視線を竜人へと注ぐ。



「酔っ払いの私相手によぅやる。流石は私の妹といったところかしら?」



同じく満身創痍ではあるが、態度に余裕の見れるテトラ。ふらふらしながら両足で立ち上がった。



「ワシが妹じゃと?? まさか… 貴様も旧世界からの渡航者か。鬼人… と言ったな? まさか、この世界の礎を作った魂たちの母か」



竜人もよろめきながら立ち上がる。テトラが口を開いた。



「ククク。私らは元々仲間であろう? 何故敵対する? この世の子らの争いなど、この世の子らに任せればよい。ジュピタリアを見習え。奴は干渉しようとはしておらぬ」



「ジュピタリア!? 先代魔王か… やはり渡航者じゃったか。しかし何故今その名を出す。奴は500年前に死んだのじゃろう?」



問い返すイーヴァデッサ。



「………」



「…まさか、生きているのか!?」



『!?!? 生きている…まさかあの時の映像の深紅の魔人!?』



壁にもたれ掛かり休むリディアスがイーヴァデッサの言葉をきっかけに思い出す。



「私をこの世に解き放ったのはジュピタリアよ。あの子、今は人間に転生しているわ」



2人「人間に!?」「なんだと!?」



リディアスが立ち上がる。



「2年前にグランゾーラを滅した炎は神位魔法クラスだと聞く。そういうことだったか…」



「ふぅむ。通りでリディアス坊やたちでは手を焼いてたはずじゃ。ワシが魔人側こちらについておるのもある意味正解じゃったということじゃのぅ」



イーヴァデッサはよろよろのリディアスに歩み寄ると、その巨体を抱き寄せた。



「で、どうするんじゃお主。正直ここでやり合ってもワシは勝てる気がせん… このまま続けるのか?」



イーヴァデッサの問いに、テトラは手持ちの酒を一気飲みしてから向き合った。黒い眼球と紅い瞳が3つ。乱れた髪も相まってとても邪悪な姿をしている。



「つまらぬ………この姿になって気が変わった。旧魔王城で世界を傍観する予定だったが、暫くここでお前と魔人どもが成す事を見届けようかと思う。良いか?」



その佇まいからは、もはや変身前のテトラの雰囲気は感じ取れない。イーヴァデッサはフッと軽く笑いながら言った。



「ワシとリディアスの戯れだけは邪魔するでないぞ?」



「あら、混ぜてくれても構わないわよ?」



「………」《ハァッ》



『身が持たんかもなぁ………』




リディアスはイーヴァデッサの傍らでため息をついた_____






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[ノグルシア連邦 戦乙女の道 審判峡谷]




(そして現在より少し後)




数週間前、帝国の月詠姫ウラナ・ブリュンタールの不吉な予言を元に帝国を出発した調査団。SSS級ダンジョン『戦乙女の道』へ行ったきり帰らない時の番人エスタリザ・クロノスを探すため、ノグルシアのノーブルムースを経由してダンジョンへと向かう。


月詠庁直下の魔導士数名を中心に、冒険者を代表して剣の館の緋炎のアルヴェント、青天照のロウメイ少年、ギルド『天の祭壇』紹介の魔法剣士、魔法庁の紹介の槍使いと白魔導士、それらが陣を組んで登山する。目指すは最深部、人界で標高の一番高いところにある谷『審判峡谷』だ。



「ロウメイ様」



「あっ、はい。なんでしょう?」



月詠庁の眼鏡をかけた魔導士の1人が話しかけて来た。



「一応資料には目を通しているのですが… 時の番人様がおひとりで戦乙女の道へと向かわれた理由は?」



「それはですね。彼女は年に1回必ずここの最深部へと行く習慣があるのです。お供も連れずに只一人で出向く習慣が」



「何故、そのような危険なことを毎年?」



「それは………」



ロウメイが黙り込む。その様子を横で伺っていた魔法剣士が口を開く。



「そんなの決まっている。先輩が毎年ここを訪れるのは、ここが彼女の一族の故郷だからだ」



皆「なんと!」「戦乙女の道が故郷とは… まさか先人ヴァルキュリア人の末裔!?」「有名な話だぞ、知らんのかお前」



各々口を開く月詠庁の魔導士たち。ロウメイは意外そうに魔法剣士を見た。



「あなたはお詳しいのですね、エスタリザのこと」



「当然だ。私の恩師だからな先輩は… だからこそ、帰らぬというのが心配でしょうがない… 嫌な予感しかしない!」



魔法剣士は4色の宝石がはめ込まれた自身の愛剣に左手を添えた。



「エスタリザが恩師!? あなたはもしかして、バスティヤード様ですか」



ロウメイが驚く。



「何故私の名前を、吟遊詩人どの?」



「エスタリザが度々言っておられたのです。『私には後継者がいる… その者は既に私と同等か、あるいはそれ以上の高みに達している』と」



「…過大評価しすぎだ、先輩は」



優しく笑うバスティヤード・クルセイダ。ロウメイはザックリと辺りを見渡す。そして細身の槍使いを見つめた。



『アダマンタイト級冒険者、緋炎のアルヴェント。そして魔法剣士バスティヤード・クルセイダ。滅多に集まらない強者が今ここに集結している。あの2人… 魔法庁の紹介のあの2人もただならぬ気配ですね』



ロウメイは仮面の槍使いと白魔導士を見つめる。すると、白魔導士が声を発した。



「皆さん、お待ちを。ここから先はもう審判峡谷です。ダンジョン特性は絶対零度。体温を奪われないように補助魔法を施します。月詠庁の…シェスタさん、手伝ってください」



「流石は魔法庁の食客魔導士さまですね。私も今それを言おうとしていたところです。では皆さまこちらにお集まりを」



シェスタという眼鏡をかけた魔導士が皆を一か所に集めると魔法を唱え始めた。



「暖かき大地の温もりよ、我らを守りたまへ… パトスオブガイア!」



白魔導士の女が続いて詠唱する。



「陽の温もりよ、我らを永続的に覆いたまへ… ヴェールオブサンシャイン・トゥエル・エターニティ!」



白魔導士の魔法に騒めく皆の衆。シェスタも目を真ん丸に開いて白魔導士を見つめた。



「おお!?」「なんだこれは。寒さを全く感じなくなったぞ?」



アルヴェントが自身の状態を確かめる。



「一般的に流行している補助魔法ではないな…これ程のバフ掛け、経験するのは初めてだ」



シェスタが口を開く。



「大地の加護ではなく天空のご加護… 上位補助魔法??」



「急ぐぞ。どうも魔人の気配がする」



白魔導士と共にいた槍使いが先に急かした。



皆「魔人ですと!?」「ここは人界ですぞ、なぜ!?」「本当なのか??」



『やはり… ただ者ではないですね』



ロウメイが槍使いに続いて歩き出す。



「どうかご無事で… エスタリザ」




時刻は正午を回ろうとしていた。晴れているはずの空を拝めぬほどの薄暗い峡谷。一同は異変に気付いて立ち止まった。



「戦いの… 痕のようですね。それも、新しい… かなりの戦闘のようだ」



大地が抉れた痕跡を多数見つけては、それらを観察する月詠庁の魔導士たち。緋炎のアルヴェントは自身の槍を持ち出すと何やら唱え始めた。



「灯せ、業火の如く! ぬぅん!!」《ブンッ》



虚空に向かって槍を素早く突き出すアルヴェント。槍の先に一瞬火が灯ったが、一瞬にして消え失せてしまった。



「とんでもない寒さのようだな。我が炎すらも保てぬ」



ロウメイが痕跡を観察して口を開いた。



「この戦闘痕、エスタリザのものではありません。彼女の戦闘には鋭利な切り傷しかできない。相手は一体何者でしょうか」



すると、仮面の槍使いが槍を前方へと差し向けた。



「見ろ! アレだ!」



「なんてこと…!!」



いち早く反応を示した白魔導士の女は両手で口元を覆う。その顔は悲壮だった。



皆「なんじゃと!」「なんという…」



驚く魔導士たちの合間を縫って駆けつけるバスティヤード。たどり着いた先には氷漬けになった石像が2体、お互いの胸を貫き合っていた。



「エスタリザアアアア!!! ああああああっ………」



その場で叫びながら膝を着くバスティヤード。



「まさか… 人類最強の戦士が… 相打ちだと!?」



険しい顔でその様を見つめるアルヴェント。仮面の槍使いが近づいて観察をする。



「相手は魔人だ。それも、ジュピタリアと似た種族だな。オロス系か…」



「ジュピタリアだと!? それは500年前の伝説の魔王じゃな! 何故外見を知っておるお主!?」



月詠庁の魔導士の老人が疑問を投げかけた。槍使いが目を見開く。



「まさか、コヤツは現在の魔王、リディアス・レゥ・ゾラン、そのものではないのか!?」



皆「!?!?」「魔王だと!?」「魔王が単独で人界へ来たというのか!?」



月詠庁の老人が口を開く。



「月読姫さまが言っておられた黒き牡牛タウロスとは正しく魔王のこと。ということは、エスタリザ様は魔王と刺し違えに!?」



ロウメイが雪の積もった大地に両手両膝をついた。



「エスタリザ… あなたは… 一人で魔王と戦ったというのですか……… なぜ、そんなことに!?」



涙を流すロウメイ。



「…石化している。刺し違えた後に石化魔法を使ったのか!?」



「私たちの時のようにね、あなた」



白魔導士の女が槍使いに近寄って話しかける。槍使いが考え込んだ。



「これは、先人の話を聞く必要があるな。この状態、あるいは」



皆「いやしかし、これは凄いことじゃ」「流石は時の番人さまだ、自身の命をもってあの魔王を討ち滅ぼしたのだからな!」「おお… 安らかに…」



「…おのれ、忌々しい魔人どもめ!!」



バスティヤードが地面に向かって叫び散らかした。



「エスタリザが成し遂げたこの偉業。早く本国へ! もしも、この魔人が魔王だというのなら、魔王陣営に何かしら動きがあるはずだ。奴らの動向を探る必要がある」


「どなたか私を帝国の者へと繋いでくれ。エスタリザの抜けた穴を私が埋める」



赤く泣きはらした目で真っすぐ前を向くバスティヤード。



「俺が取り次ごう。魔法剣士よ」



槍使いが応えた。



「有り難い。貴殿は何者か?」



「…帝国貴族に所縁のある者だ」



「貴族の方が取り次いでくれるのであれば、とてもありがたい話だ」



握手する2人。シェスタが声を上げた。



「皆さん、現状は把握できましたのでここはひとまず撤収致しましょう。じきに日も暮れる。エスタリザ様をどうこうするにも準備が必要ですし、なにしろ魔王と思わしき者と一緒では手出しができません」



己の無念さに、雪の降り積もる地面に着いた両手で、その場の雪を握りしめるロウメイ。シェスタの言葉を聞いて、皆はしぶしぶ下山をはじめた。


ふと、最後尾の白魔導師が氷漬けの石造へと振り向く。



『最前線で名を轟かせる戦士たちは人の運命を背負い、人知れず命の火を燃やしつくし、そして忘れられてゆく… いつの時代も同じものよね。私たちもそうだった』


『現代の戦士の中でも最強と謳われた時の番人エスタリザ・クロノスさん。私はあなたのことは知らないけれども、あなたの勇士は見届けましたよ… 安らかに………』




氷漬けになったエスタリザの背中には、まるで大きな翼が生えているかの如く氷の結晶が連なっていた_____






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[アリシア王国 鋼鉄要塞タイタン 地下入口]



(そして現在)





静まり返る夜のルグリスブランケ城下町とは違い、近づくにつれて蠢く稼働音とも呼べる微かな地響きが次第に大きくなって行く。


メサリアたち御一行は先頭のクリステラに導かれ、鉄の守りの要塞を秘匿された水中入口- 要塞の真横にある底の深いオホーリオ湖の最深部 -から要塞内部へと侵入を果たした。


驚くべきはアリシアベルの秘奥。クリステラは湖畔の陰に立つと、左腕に装着していた赤い宝石の腕輪をかざし、詠唱をしたのだった。



(行く手を守りし水霊よ、アリシアベルの鐘の元、道を印せ)



詠唱と共に水面は凍り、最深部への氷の階段と通路が現れる。それを降りると湖の底の洞窟入口へと辿り着いたのだった。魔法が込められた鉄の鍵を用いて入口から侵入を果たし、ダンジョンのような地下通路をひたすら歩み進める。


通路は鉄でできており、等間隔に設置された魔法の灯により照らされていた。進むに連れて稼働音が大きくなる。



「なんだこの音は? 僕たちは地底を蠢く竜の巣にでも向かっているとでもいうのか!?」



「ご安心を、殿下。この音は我が国が誇る英知の結晶、機械の稼働音でございます」



不安がるアークノイアに説明するリベルダ。



「機械音!? この世界にそんな技術が?」



咄嗟に反応するメサリア。



「おや、ご存知なのか…赤髪の壮麗なお嬢さん。この技術は我が国の中枢にしか浸透していない技術なんだが…」



「メサリアでいいわよ、そんな…」



「!? メサリアという名なのか?? まさかとは思うが、深淵の!?」



驚くクリステラに対して無言で返すメサリア。その様子で確信を得たのかクリステラは妙に納得したのだった。



(気配が尋常じゃないとアタイの研ぎ澄まされた感覚が警告をしていたのだが… なるほど、そういうことだったのか。噂に違わぬ深紅の髪と壮麗にして苛烈な印象、これは…期待せざるを得ないな。我が妹、鋼鉄のアリシアを看破してくれると!)



薄暗い通路の中で、クリステラが口元を緩ませる。そして、それまで微かであった希望が更に明るさを増したように彼女は感じたのであった。


クリステラ・ローゼン・アリシアベルの力は言うまでもなく英雄級。かつて肩を並べて戦ったデューラン閣下程ではなくとも遅れは取らない程であった。そして今回のインペリアルオーダーの的であるプリパレイダも共に戦った暗黒魔導士その人。


クリスタル級クラスの2人でもアダマンタイト級のアリシアに対峙するのは物足りないと感じていたが、明らかに自分よりも格上なオーラを放つ深淵のメサリアまでもが助力してくれたならば話は変わってくる。


それに加えてプラチナ級のリベルダに、明らかに手慣れた俊敏な動きを見せる賊のようなマントの女。武力のアリシアに対して説得を試みるならば、こちらも相応の武力を持つしかない。こちらが強ければ強いほど、アークノイアやプリパレイダ、そして自分が説得する時間を稼げる、そうクリステラは思いはせる。




一行は通路の突きあたりにある梯子を上ると、スライド式の天井の鉄板を静かに開けた。静かに上の通路へと出ると、そこは四方に厳かな鉄格子の檻が幾つも存在する地下監獄のようだった。ほとんどの檻は空であるが、そのうち幾つかはまだ囚人が鎖に繋がれているようだ。



「監獄…ですか」



リベルダが呟く。



「えぇ。アンタはここに来るのは初めてのようね。もっともアタイもこの入口が監獄に通じているのは今知ったのだけれども」



「今知った? 大丈夫なのかクリス。衛兵や見張りがいるかもしれないだろう??」



「大丈夫ですよ殿下。ここは全て機械で管理されていますから、衛兵はいませんしアタイの魔法認証で通行可能です」



言動とは裏腹に少々焦るクリステラ。なにしろ全てが問題ないということではなかったのだ。一つだけ大きな懸念があったのだが、とっととこの場を去れば良いだけの事。そう思い皆を導こうとするが… その懸念は的中してしまう。



「なんじゃ、随分とにおうのぅ。よそ者のにおいじゃ。こんな夜中に大勢で騒がしい。おちおち寝てもおられぬ」



奥の厳かな牢から歪な少女の声が囁く。牢の中に在るのにその尊厳を失わず、確かな存在を放つ歪な眼差し。皆は警戒しつつその声の方へと視線を向けた。


そこに居たのはみすぼらしい囚人服に身を包んだ、大きな鎖でがんじがらめにされた美しい少女だった。その見た目からは想像できぬ程の悍ましい気配を放ち、その赤い瞳は苛烈な意思の強さを物語っている。



「…はぁ」



ため息をつくクリステラ。



「誰??」



プリパレイダが一言こぼすと、少女は顔に浮かべた不気味な笑みを一瞬にして消し去る。そして口を開いた。



「におうのぅ。それも、物凄く濃い魔女の臭いじゃ… その風貌、貴様、バイエルか? いや違う、リューベルトでもないな… そうか、ハミルトンじゃな! 我が神聖なるアリシアベルの居城にノミ虫が土足で踏み入れおって!!」


「名乗るが良い小娘。もっとも、ハミルトンじゃということは理解したがな」



「…私? 私は幽玄(アストラル)・ラナ・ハミルトン王家第3皇女、プリパレイダ・ゴルザ・セイラ・ハミルトンよ」



突如少女の美しい桜色の毛髪が増殖し、光を放ちながら鉄格子の外の者たちへと襲い掛かる。咄嗟に身構えるクリステラたちだが、それも杞憂に終わる。意思があるかの如く襲い掛かった全ての髪の毛は、鉄格子に顕れた魔法防御(シール)によって防がれた。



「チッ。血迷うたかクリステラ! 汚らわしい血を引く者をこの地に導くなどと!」



「アタイは正常です。この地に血迷った者がいるとすれば、それはアリシアと貴方ですのよ、アリスお母様」



一同「アリス!?」「お母様だと!?」



そこに幾重にも連なった鎖に繋がれていたのは、アリシアに王位簒奪をされたばかりの元女王アリス・ローゼン・アリシアベル本人であった。アリスは俯き気味に激しく歯ぎしりをするとクリステラとプリパレイダを交互に睨む。



「血迷うておるのはワシではない、あのクソ娘の方じゃ!! 気付いておらぬのか?? あ奴はアリシアであってアリシアではない。ワシらが祖霊、古代タイタニアの帝王アリスドレイク・キャナパー・ジ・タイタンに取り憑かれておる!」



一同「!?!?!?」「なんだって!?」



押し黙るクリステラ。アークノイアが問いかける。



「本当なのかクリス。それが本当なら、かつてのアリシアと別人だと感じた僕の勧は正しかったことになる! なんとかならないのか…」



「わかりません。一応アリシア本人はアリスドレイクの転生体だと言っておりましたが、そうだとしたら今までのアリシアが全く見えてこないのに違和感があります」



一同「転生体!?!?」



「その方、アーク坊か?」



「お久しぶりです、アリス様」



「フンッ、図々しく成長しおって。他国の問題に首を突っ込むほどに神聖皇国は暇なのか? 貴様如きが関与したとて、状況は変わらぬ。あ奴はワシ以上にハミルトンを根絶やしにすることを羨望しておる。まぁ、良い」


「ワシを蹴落としたことには腹が煮えくり返る想いだが、せいぜい我がアリシアベルのやり残した使命、魔女狩りの炙りカスを炙り直してもらうとしよう。王位に戻るのはそれからでも良い。ククク…それに標的自ら敵地に赴いてくるとは…飛んで火にいる夏の虫とはこのことじゃ」



アリスの細めた鋭い視線を浴びるプリパレイダ。先ほどからずっと我慢していたが、とうとう我慢の限界へと達したのか、黒い感情(パトス)が底から溢れ出してくる。しかし、彼女のその感情は、隣に佇む圧倒的強者の怒りの波動に免じて次第に治まって行った。


自分の他に自分よりも感情に駆られる者を見ると、冷静になれるというアレである。その者の美しくも乱れた深紅の毛髪は、先ほどのアリスと同様に発光していた。同時に恐るべき殺意をアリスへと収束させる。



「ヒッ!? な、何ものじゃ貴様! …それに、貴様からはそこのハミルトンの魔女とは明らかに違う、何倍も濃密なハミルトンの気配を感じる…」



冷や汗を浮かべて目を細めるアリス。怒るメサリアの肩に手を乗せ、一歩前に出るプリパレイダ。



「あなた達アリシアベルの悲願が達成したように、我らハミルトンも悲願を達成していたのよ。そして、この()こそが、その悲願の結晶」



「結晶じゃと!?」



吐き捨てるアリス。プリパレイダはチラリとメサリアを見やる。



「わらわの親を火炙りにした大罪、その矮小な躯体に刻み込んでやろうか?」



「ギッ…」



口調が変わったメサリアのひと睨みで突如目を虚ろにして大人しくなるアリス。その様子を見てメサリアを警戒するクリステラ。



「母上に何をされた?」



「言ってることが癪に障ったので黙らせただけよ。そのうち元に戻るわ」



元の口調で軽く述べるメサリア。クリステラは冷や汗を流す。



『メサリア殿の親を火炙りにしたのが母上? まさか母上が数年前にこの地で根絶やしにしたハミルトン本家の生き残りなのか…?』


「まさか、復讐のために此度の遠征を?」



軽く睨みつけるクリステラ。その表情に余裕はない。メサリアは肩をすくめた。



「まさか…プリパレイダを助けるために決まってるじゃない。ついでに貴方の妹さんの眼を覚ますのに協力しようっていうだけよ。ここで(アリス)に会ったのは事故でしょ、偶然なのよ」



「…そうか。疑ってすまないな。アタイもアリシアベルの端くれさね、一族のやって来た事を良しとして来たわけではないが、責任は生じている。しかし、だからと言って簡単に滅ぼされてあげる訳にもいかない」



クリステラは肩の力を抜く。



「そんなために来たんじゃないってーー!! 鋼鉄騎士、メサリア、ね。アリシアを説得するんでしょ!?」



「そ、そうですぞ! ここは気を取り直していきましょうぞ!」



「そ、そうだぞぉーみんなーー」



プリパレイダ、リベルダ、アークノイアが場の空気を和ませる。



(ひぃーおっかねぇ… 少しトラウマがフラッシュバックしたッスよ。メサリアだけは怒らせちゃダメよね)



後方で身をよじるグリフィンシアだった。


クリステラに促されて、牢の先にある扉へと歩み始めるメサリアたち。ふと、メサリアは小さな身体を両手で抱えて怯えるアリスの姿を横目にする。



(…ほとんど覚えていない両親の仇と言っても、正直良くわからない。火炙りにされたという事実が私を焚きつけはするものの、それは私の感情の奥底から来るものではないような気がする)


(そもそも、3年前の私の心の奥底に突如芽生えた新たな自我… 膨大な記憶の奔流と共に私の心に居座る強大なジュピタリアというもう一人の私。自我(それ)が生まれてからというもの、私の私である境界線が蒙昧なものになっている)


(話し合いのすえ力を好きに使えというジュピタリアだが、矮小な私(メサリア)にとって新たな自我(ジュピタリア)は膨大でありその影響力は私の全てに及ぶ。最近の私が私なのかなんてもうわからない)


(ひとつ言えるのは、レベルの高い戦いにおいて(メサリア)は役立たずだ。敵が現れたらジュピタリアの魔法を行使するし、自然とその言動も彼女(ジュピタリア)のものになる)


(かつて一緒に新たな魔王像を描けば良いと話し合いはしたが、結局のところ前に出てくるのはジュピタリアその者だ_____



『3年前みたいにジュピタリア自身が(メサリア)に話しかけてくることももうないし、もしかして既に精神が溶け合っているのかもしれないわね。結局どちらも私なわけだし』



《はぁ…》



軽くため息をつくメサリア。



「でもこうやって考える時は(メサリア)視点なのよね~」



「メサリーどうかしたの?」



プリパレイダが話しかけてくる。



「あ、いや。なんというか、私の中にいるジュピタリアってどこからが彼女でどこからが私なのか曖昧なのよ。アリシアさんが転生体なら似たような感じなのかな~~って」



「あ~、なるほど。どうでしょうね、彼女、周りの人の話では人が変わったみたいだし、アーくんやリベルダさんとのかつての記憶もないみたいなのよ。だから多分私とのことも覚えてないはず。転生体なのだとしたら、私の知ってる前例はあるけどね」



「前例?」



「あなたのことよ、メサリー」



「!」



プリパレイダは続ける。



「あなたは魔王としての記憶もあるし、メサリアとしての記憶もあるわよね。転生したら普通そうなるんだなーって思っていたわけ。だからアリシアのパターンはちょっと良くわからないわ」


「しかもアリシアってこういうことする人じゃなかったのよ。その上記憶もないとなれば、転生って言うのも怪しい。かつての古人の怨霊にでも取り憑かれているというのが私の考え…かな」



メサリアは思い出す、最初に前世の記憶に目覚めた時のことを。例えジュピタリアの膨大な記憶の奔流に晒されても、メサリアという自我はそのままだった。ただひたすら蘇った記憶に翻弄されていただけなのだ。


そう考えると、アリスドレイクのアリシアへの転生には疑問が残る。話によれば鋼鉄のアリシアからはアリシア自身が見えてこない。アリスドレイクに乗っ取られた後は豹変し、かつての記憶すらないようだ。文字通り、祖霊に乗っ取られた確率は高いと言える。



「まぁ、それを確かめるために私たち3人が来たのよね」



一同は牢の部屋を出て、いつの間にか目的地へとたどり着いていた。


メサリアはプリパレイダとグリフィンシアを連れ、アリシア女帝の待つ玉座の間の扉の前に堂々と横に並ぶ。



「待ってくれ。仮にもアリシアはアダマンタイト級。身内の私が最初に取次ぎを…」



クリステラがそう言うのを遮るプリパレイダ。



「大丈夫よ。私たち3人で十分。寧ろアリシアが可哀そうなくらい」



「た、確かにお前たちの力は相当なものだとお見受けした。それでも人類最強クラスを相手に無策で…」



クリステラの焦りを押しのけてメサリアが口を開いた。



「策を弄する程ではない。私たち3人は単なる足止め。説得の要は……… アークノイア殿下だ!」




「え゛ッ゛……… えええええぇえ゛!?!?!?」



突如、大役を任されたアークノイアは大きく開いた口が暫く塞がらなかった_____






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次話、未定です。


あと、感想と評価ほしいです!!

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