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深淵聖女(ディープマリア) ~転生魔王は勇者ご一行~  作者: 恩谷
JUPITERIAS(ジュピタリアス) 第二章 ~悠久の刻のテトラ~
49/61

48.北の針葉樹林、レンストン村

お待たせしました。第二章も終盤です。

キャラクター紹介(23) ナハト・レイラルド


挿絵(By みてみん)





魔王軍との大戦、後にロギア大戦と呼ばれた歴史的な大戦の後、人と魔人はそれぞれの領域に留まりお互いの衝突を避けた。


それからしばらくは、人は人、魔人は魔人、各々の内部へと関心を向けることとなる。2年前のグランゾーラ侵攻時のフローレンツィアの襲撃事件然り、


大戦で兵力を一点に集結させれば、それを機に悪党が動きを活発化させるのが常識だった。ロギア大戦後に各地の悪党が活動期に入ると、各地の冒険者ギルドのクライアントオーダー掲示板は依頼だらけであり、それは冒険者たちにとっても稼ぎ時であった。



「ちょっと前まではグリンタールの奴らの依頼だらけだったよなぁ」


「2年前に頭のザムリオが投獄されてから大人しいよな?」「あぁ。今は当時No.2だった輩がまとめ上げてるっつー話だが、パッとせんなぁ」



北アルパインマギアフィールズの剣の館では冒険者たちが、次の仕事を見繕う。ノーブルムースのカフェ付きロビー程ではないが、そこらの席という席に集まっては、情報交換をしていた。



「クルスオグナとアバンテに点在する旅団スカルクラーケンとか?」「奴ら亜人は砂漠地帯限定だろ。こっちに来たら目立つからあまり活動してないって聞くぞ」


「ダッパルバスのスラムに潜む刺客集団クロス・ダリアとか…」「この時期あそこ活動しづらくねぇか? 寒ぃし」


「アサシンつったらやっぱりはぐれ逆十字だろーが、クロス・ダリアなんて可愛いもんよ」「ばーかいつの話だよ。お前知らねーのか? はぐれ逆十字は解散したんだよ」


「えっ? じゃあ今はそいつらどこ行ったんだよ?」「噂によれば裏社会で暗躍する秘密結社ってのにほとんど移ったみたいだぜ?」


「でも神速のライエンは投獄されてるしなぁ」「No.2は? あの神速以上にヤバいかもって噂の魔女いただろう?」


「ああ、あの『マハラジャの首領』か。行方不明だとか」「マハラジャの首領? なんだよそれ?」「お前それも知らんのか。はぐれ逆十字は元々ライエンのギルドとNo.2の女のギルドが統合してできたんだよ! どちらも同格のアサシンギルドで、それらが統合したから誰も手を出せなくなったんじゃねーか!」


「おいおい。とりあえず消失した奴らのことよりも今は… あいつらだろう」「あぁ。今のトップアサシンギルド『レーヴァテイン』だな」






48.北の針葉樹林、レンストン村






[北アルパインマギアフィールズ 剣の館 ギルド長室]




『ガタガタッ!』



1人の大男が腰を抜かして床へと尻もちを着く。剣の館のギルドマスターであるダニエル・オネストだった。彼の目の前にはSランク冒険者チーム『真紅の轟雷』と女が1人。



呪縛(じゅばく)の……… ぐ…グリフィンシア・マハラジャック!!?」



ダニエルはそのゴツイ人差し指で、目の前の女を指さす。その指先は震えで定まらない。



「お久しぶりです、ダニエル。5年…振りかしら?」



グリフィンシアが視線を天井へと向けて考え込む。



「な、何故君がここに?? それに君たち真紅の轟雷も??」



セシルが頭を掻きながら前へ出て来た。



「えーとですね。本来ならばメーデリアに赴いて、緑の渠底で手続きするべきなのかもしれませんが…」



セシルはダニエルに事情を説明した。説明には小一時間を要した。






「………冒険者に戻りたい…か…」



ダニエルは部屋の接待用の大きなソファに腰を下ろすと、額を手で押さえる恰好で考え込んだ。



「…正直に言おう。実は無理な話ではない。裏社会で暗躍する実力者や組織は沢山だが、その中で危険視されているのは無差別に殺戮をするような無法者たちの方だからな」


「各国の上層部は必ずと言っていいほど暗部の者を抱え込んでいるのも事実。そして、社会の秩序を乱すような荒くれものたちの大半はその首に懸賞金が掛けられている」



ダニエルはグリフィンシアを見る。彼女は、噂で聞いたようなぼろいマントの風貌ではなくしっかりとした服装と綺麗なフード付きの黒系統のマントを着ていた。その見た目は麗しく、男なら誰もが振り向いてしまうであろう程には魅力的だった。



「フゥッ………実はね。君の所属していたアサシンギルドはぐれ逆十字は知名度こそあるが、驚くほどに悪事を犯したという証拠がない。徹底して証拠を残さないというのもあるだろうが、暗殺者なりの秩序を守っていたことになる」


「懸賞金が掛けられているのは2年前のフローレンツィアの強襲あたりで堂々と悪事を働き始めたライエン・ソフリシエラくらいだ。だからその点で言えば懸賞首でない君は白だと言える」



グリフィンシアがため息を付く。



「その辺りから私は彼の元を離れたわ。実質ギルドの解散と言ってもいいかもしれない」



「それは何故だい? 方針などで彼ともめたとかかな?」



ダニエルが尋ねる。



「彼はそのころ自分を認めなかった冒険者ギルドへの復讐と、自分の知名度を上げることに躍起になっていた。なんならギルド時代クリスタル級まで上り詰めた私に嫉妬までしていたわ」


「だから度々意見が衝突したりしたのは事実。めんどくせぇから私だけ勝手に抜けたら、マハラジャ時代の私の部下たちも抜けたりして、あとはお察しの通りよ」



セシルが考え込む仕草をする。



「なるほど。そういう経緯があったのですね」



ダニエルがカラカラになった喉をお茶で潤すと、再びグリフィンシアと向き合った。



「わかった。先ほども言ったが、神速のライエンの危険思想以外に特に君の元アサシンギルドに含むところはない。なんなら君は冒険者ギルド時代に認められてクリスタル級になっているからな。実はプラチナプレートまでは案外人格免除で手に入るが、クリスタルプレートの交付は厳格な人格の審査が入るんだ。君の復帰は君のプレートが手助けしてくれるだろう」


「だがそれなりに詳しい者ならばこういう噂も耳にしている。あの神速のライエンの強さの大半はグリフィンシアのバフ掛けの恩恵だと。1対1でやり合えばライエン以上にヤバいのがグリフィンシアという魔女だと…ね」



ダニエルの目つきが少しだけ鋭くなる。グリフィンシアが軽く両肩を上げてそれを受け流すと、再び真面目にダニエルに問うた。



「何をすれば、冒険者に戻れますか?」



「そうだな。とりあえず_____






-------------------------------------------------------------------------------------






[北の針葉樹林 レンストン村郊外 人界最北端領域]




「あれか」



雪が深々と降り積もり続ける北の針葉樹林の夜。一際大きなゴツゴツした岩場に灯る松明。そこに忍び寄る3つの影。



「3人で来て正解でしたね」



セシルが後ろのキースへと投げかける。



「3人行動なんて懐かしく感じるなぁ。そもそも轟雷の三騎士とは、元々隠密性の高い僕とセシルとレイナの3人のユニット。真紅の3人には悪いですけど、彼らは目立ちますからね。特にナパさんは」



「あの男はなんなの? あの時もう少しで私串刺しだったのよ! 正直に言うけどセシルさんよりもヤバい!」



グリフィンシアが2人の後ろから話しかけた。



「ははは、正直私も彼にはもう敵わないような気がしてますから、気にしないでください。それよりも、お手並み拝見させてもらいますよグリフィンシアさん」



「シアでいいわ」



グリフィンシアはダニエルの言葉を思い出す_____



(最近勃発している帝国北部の食糧物資の簒奪被害、その原因を排除し主犯格を捕縛して欲しい。トップアサシンギルド『レーヴァテイン』傘下の組織『ヴォルフパイソン』その頭領の『人面(じんめん)』という男だ)



『人面か…心当たりがある。それに、いかにも北国育ちの奴らしいアジトじゃない』



「じゃあ……… 行くっスよ」



アサシンモードへと豹変するグリフィンシア。艶めかしい太ももに括りつけてあった短剣型の魔法武器を手に持つと、小声で唱え始めた。



「グランドプロテクション… サードアイ… マギアレジスト… スフィアフォートレス… マキシマイズスフィアフォートレス!」


「ふぅッ……… アビア・アクセル! インビジブルアーマー!」



3人の身体がぼんやりと発光すると、次の瞬間完全にその場から消えた。移動と共に雪の上に足跡だけが綴られて行く。


向かう先には左右に松明の灯った大きな穴倉。布で顔を隠した賊が2名、左右で見張り番をしている。各々が狼の毛皮と蛇の革で繕われた服を着ていた。



「ん?」



1人が森の暗がりを気にした。次の瞬間地面へと突っ伏す。



「ぐぼぁっ!!?」《ドサッ》



「!? おい、まさか…」


「敵襲ーーー!!! 敵襲だぁっ!!」


「何人だ!?」「えっ2人!?」



十人近くいる賊のうち一番巨体の男がねぐらの奥からその重い腰を上げた。顔の上半分を人の頭蓋骨で仮面にし、ドレッド状の髪の毛の先端に蛇の頭の剥製を沢山括りつけている。



「人面さま!」



「冒険者どもか? それとも帝国兵の奴らか? どちらにしろこの人面様のねぐらを襲撃したんだ…ただで済むわけねぇよな゛ァ゛!!?」



人面が分厚い大鉈を取り出すと、その背中に担いだ。



「ガハッ!」「うわっ!」


「こいつ等、見えねぇ!!」



『………不可視化と移動補助か。以前も同じようなことがどこかであったな…』


「ギョロ! 水でもなんでもいい、広範囲でばら撒け!!」



人面が賊の一人にそう言うと、その者はロッドを取り出して咄嗟に唱えた。



「グレーターアクアマリン!」《ドバァッ!》



辺り全体に下位魔法で水が拡散される。そして、人面は鉈を躊躇なく振り下ろした。



「そこだァ!!」《ズバアッ!》



《ガキィィン!!》



金属音が鳴り響く。



「クソっ、考えたな」「十分減らせました、普通に行きましょう」



セシルとキースの姿が露わになる。



「貴様ら冒険者か! 2人如きで乗り込んでくるとは舐められたものだ。お前らァ、囲んじまえ!!」



出口側からも賊6人に囲まれるセシルとキース。同時に攻撃を受けるが、その素早さに着いてこれる者はいない。



『この速さ、そうとう高位の補助魔法を使っているな。だがおかしい、どちらも装備からして補助魔導士というには…』



人面が考えていると、次々にその場にいた彼の部下たちが白目を剥いて力なく倒れて行った。口からは泡を吹いている。



「なんだ毒か?? まずい吸い込むな!!」



そう言った最後の2人のうちの1人が口を押える。その瞬間セシルが武器の柄で彼の首辺りに衝撃を与えると、彼も地面へと突っ伏した。



「これで、あと2人ですね」



セシルとキースが人面ともう1人を穴倉の壁へと追い込む。ギョロと呼ばれていた魔導士が人面のところへ駆け寄った。



「変だ人面さん。奴らの異常な素早さもだが、毒など撒いた痕跡がない! こいつ等どうやって…」



「………ふん」《ニヤリ》



人面はニヤリと笑うと、強襲者の後ろ側の、穴倉の出口を見据えた。穴倉の外から二対の手裏剣がキースとセシル目掛けて飛来する。キースは脇差で、セシルは宝刀でそれらを受け切る。



「手裏剣!?」「まだ一人いましたか…」



キースとセシルは両側の岩壁を背に前方と後方を警戒する。人面が叫んだ。



「遅いぞ不二丸! もうギョロと俺とお前だけだぜ?」



「わりぃな人面。レンストン村の村長と少し揉めてな…」


「………シデンの脇差と、紫色に光る刀身…そっちは御神楽(みかぐら)の宝刀、他国に流出した宝刀ライデンかな。こいつ等冒険者だぜ、恐らく雷鳴と公爵様だっはっは!」



セシルが驚く。



「…参りましたね。武器と風貌だけで見破られるとは」



「…… まぁ僕たちの風貌でシデン武器を扱うというのが稀ですからね」



キースが眼鏡の曇りを拭った。不二丸が続ける。



「アサシンの真似事をしても気配で分かる。本業の俺からしたら、俺らの猿真似をしているただのすばしっこい姿の見えない騎士さまだよ」



「冒険者が俺らを狩りに来たってかぁ? とりあえずソコの雷鳴だけ気を付ければ何とかなるか、確かクリスタル級だったか?」



人面がブンブン自前の鉈を振り回して構える。すると、咄嗟に後ろを振り向いて手持ちのクナイを構える不二丸。



「!?!?!?」《ガキィィン》



「………3人目だと? 馬鹿な気配はまるで………!?」



屋根裏番衆(やねうらばんしゅう)の抜け忍ごときに気取られるのは不愉快ッスね。やっぱり次回からは()()じゃないと」



「女!? 俺のことを!!?」



次の瞬間、不二丸は白目を剥いて雪の積もった地面へと突っ伏した。



「バカな… 不二丸様は私たちのNo.2だぞ。それをあっさりと」



「……………」



ギョロは驚き、人面は何かを考え込むように3人目を睨んだ。暗がりにマントから衣服を全部脱ぎ捨てる女。



「お、おいおい何やってるんだ!」



「ごめん、キースさま! 後でちゃんと回収するから!! アナタさまに買ってもらった大切なお洋服ですもの!!」



そう言うとグリフィンシアは姿を消す。咄嗟に人面がギョロに叫んだ。



「前方のみを警戒しろギョロ! 回り込まれなければなんてことない!」



「はい! 広範囲知覚化グレーターセンシビリティ!! 物理障壁(フィジカルレジスト)!!」



ギョロが魔法で作った障壁を穴倉の奥に隙間なく張り巡らす。そして人面が障壁の内側から攻撃を仕掛けた。



火炎刃(かえんじん)!!」



人面が大鉈で横なぎの一閃を繰り出すと、その刀身は火炎を帯び、攻撃を受け切った2人へと火炎を放出した。



「魔法武器か!?」「って熱くない!?」


「あらかじめマギアレジストとスフィアフォートレスを施していますからね!」



キースとセシルの被害は軽微だった。人面が顔をしかめる。



「チッ… 魔法対策済みか。随分と優秀なバッファーがいるようだなァ!?」



「今スフィアフォートレスと言ったか!? 上位補助魔法だぞ、正気か!?」



ギョロが驚いている様子だが人面は気にしない。



「気に入らねぇなァ!? 男どもを囮にして自分はアサシンの猿真似かァ、さっきの尼はどこ行きやがった!!」



人面がそう言い放つともう一度鉈を大きく振り回した。鉈の切っ先が岩壁に触れて、ゴッソリと岩が削がれる。



「!!??」



突如人面が後ろを振り向き鉈を薙ぎ払う。



「人面さま、そちらは後ろですが… えっ?」



「………貴様。どうやって回り込んだ??」



人面は後ろの岩壁の上部を見上げた。そこには重力を無視して岩に貼りついているマントの女が1人。



「あ? 普通に回り込んだが?」



「ヒィッ!?」



突如女から鋭い殺気が放たれる。ギョロが軽く悲鳴を上げた。人面が激怒する。



「貴様ァ、同業者か!? 冒険者と手を組むとは何事かァ!?!?!?」



「アタシの殺気に耐えるとは中々やるッスね、(あか)(なた)のロッゾ」



「貴様、俺様の名前を…!!??」



睨み合う人面とグリフィンシア。人面が気圧されて、先に視線を逸らした。



『この女……… なんて眼をしているんだ。奈落の底みたいなえげつない目をしやがって!!』


『どこだ。どこで見たことがあるんだ俺は。この感じ…確か……』



人面は思い出す。3年前、ダッパルバス崩落水道の最深部にて、アサシンギルドの会合が開かれた。集まったのは当時名を馳せていたアサシンギルド。クロス・ダリア、スカルクラーケン、アンダースレイヴ、ランバルピクシー、蠍座集、はぐれ逆十字、そして、今のトップアサシンギルド『レーヴァテイン』の前進団体『鮮血のサーカス』


いずれもが当時の悪名高いトップアサシンギルドで、世間で言うところのプラチナ級以上の実力者だけが会合の席に着いて情報交換をする。それ以外の者たちは場の中央で話し合う11人をただただ憧れと尊敬の目で見ているだけであった。


その中で特に異色を放っていたのが、唯一の女にして会合の場の提供者でもあるはぐれ逆十字の女。その場に3人しかいないクリスタル級の中でもアダマンタイト級だとも言われた見目麗しい女。その名も…



「………お前………マハラジャの首領(しゅりょう)か?」



「懐かしい呼び方するじゃない、鮮血のところの坊やが。つか今『お前』って言ったか?」



グリフィンシアは黒いフードを取り払うと、その美しいブロンド髪を片手でマントから掻きだす。金とクリスタルでできたイヤリングがそこらの松明の光を反射した。鋭い目つきで人面を睨みつける。



「相変わらず… (ゴクリ) …俺ごとき下っ端の名前を覚えていてくれるだなんて光栄だぜ、呪縛(じゅばく)のグリフィンシア」



「え゛ッ!? 呪縛!? 人面さま、まさか」



「仲間たちが気を失って倒れていったのも、あんたの得意な呪縛シリーズのどれかだったってことか」



人面とギョロが体勢を維持しつつ近寄る。



「ギョロ…… 倒すのは無理だ、逃げ延びることを考えろ」《ボソッ》


「あんた程のアサシンがなぜ冒険者に手を貸す!? なぜ『神速』の元を離れた!?」



人面がギョロに目で合図をすると、ギョロは姿を消した。キースとセシルが警戒にあたる。



「…俺たち暗殺者が、再び陽の光を浴びれるとでも思っているのかァ!!」



「随分とまともなことを言うッスね」



どもりながらグリフィンシアが顔を曇らせる。穴倉の外へと駆けていく足音を追ってセシルは飛び出して行った。キースだけが残された2人のやり取りを見守る。



「あんたは俺たちアサシンの羨望の対象だ! 3人はギルドの壁を越えて敬われ、特にあんたはアダマンタイト級と称されていた。そんな陰の英雄が残された(・・・・)俺たちの邪魔をするというのか!!」


「鮮血様はこの2年間独りで…」



「黙れ!」



突如怒りを露わにしたグリフィンシアが、人面の骸骨のお面を蹴りで破壊すると背中をなぞるようにナイフの切っ先を通した。



「ギャアアアアアッ」《ブシャア》



「捕縛と言われているが、余計なことを言うなら殺すぞ?」



倒れた人面に馬乗りし、喉元にナイフを突きつけるグリフィンシア。人面の腕が彼女の太ももを掴むと、たわわに実ったものが彼に押し付けられる



「へッ、めちゃくちゃいい女だぜ糞が。そんな最高な表情で表に戻れると思っているのか? てめぇの今の顔を拝んでみやがれ!!」



自分の顔をもう片方の手で触れるグリフィンシア。



「私…」



「シア!!」



叫ぶキース。虚ろなグリフィンシア。その瞬間、人面はもう片腕でナイフを掴むとグリフィンシア目掛けて刺突する。



《バキッ!!》



その場に血を吐いて動かなくなる人面。キースは寸前のところでナイフを防いだ。力なくキースに寄りかかるグリフィンシアを、キースが抱きしめる。



「キースさま、ごめんなさい。私…」



「…気にするな。過去との決別は安易じゃないし、どこまでも過去は追って来るもの。君はそれを背負ってこれからも生きていくんだ…僕と共にね」



「ありがとう」



強くキースを抱き返すグリフィンシア。



『………アサシンの羨望の対象。しかも、セシルよりは強いかもと思っていたけど、アダマンタイト級? 本当にとんでもない娘だな、僕の嫁さんは』



夜更けの暗がりが増す夜のレンストン村郊外。揺らめく松明の炎が、2人の影を不安定に岩壁へと映し出していた。






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[プラチナ凍土 天界の牢獄 玉座の間]




「リディアス様ぁッ!!! ご無事ですかぁッ!?!?」《ドガッ!!》



魔王の玉座の間を完全に覆いつくす謎の結界。既に色々試した解放形態のイクシリスが最後の悪あがきに結界に蹴りを入れた。



「どけ、イクシリス」



「!?!?」



殺気だったイクシリスが後ろを振り向くと、そこには大戦の傷が完全に癒えきらない大山羊の姿があった。



「グメエェェエエエエエ!!!」



大きな雄叫びを上げると、ラグロスは物凄い勢いで結界の張られた玉座の入り口へと突進をかました。



《ズドォォォォオオオンッ!!》



「おぉぉ」「ラグロス様…」



周りで観ていた数名の魔王軍の配下の者たちが、声を漏らす。結界はビクともしなかった。イクシリスが軽く笑う。



「病み上がりでよぅやる」《フッ》



「バカ言え… このような一大事、配下の者として当然のことよ!」



「お前たち… 侵入してきたのは異国の風貌をした黒い女ただ一人、そうだな!?」



イクシリスがその場にいた目撃者へと問う。



「ハッ! たった一人でございます!」



「貴様ら全員何をしていた?? 棒立ちでもしていたのか?? 返答のしようによっては許されぬぞ??」《ゴゴゴゴゴ》



イクシリスが物凄い怒りを露わにする。羽の生えた上級悪魔の1人が口を開いた。



「恐れ多くも… 私たちは全員迎撃に当たりました。ましてや相手は女1人、片手に酒瓶を持っていてフラフラで酔っている様子」



「聞いてください。我々は迎撃したんです。ですが……… 何一つ攻撃が通らないんです!」



横にいたもう一人の上級悪魔が訴えかけた。



「そして、手を出したもの全てが瞬時に衝撃を受け今の今まで気を失っております」



「貴様ら全員生きているというのがおかしいではないか!!?? それをどう説明する!!??」



イクシリスが噴き出す。



「それが… 圧倒的な力で無力化されたとしか… 相手も虐殺が目的ではなかったのではないでしょうか?」



五月蠅(うるさ)い!!」



イクシリスが考え込む。



『例えどんなに私に力があっても、ここに居る上級悪魔や兵士たちを無傷で無力化など出来るはずがない。それをしたということは、私よりも遥かに強い存在の仕業ということになる』



「一体… 誰が侵入してきたというのだ…」「リディアス様…」



玉座の入口で立ち尽くすラグロスとイクシリス。






-------------------------------------------------------------------------------------






「ふふふ。この程度で私の友に手を出そうとしていただなんて」



テトラが顔を赤らめながら、艶めかしい表情で息を吐く。それが壁に右腕で押し付けられた解放形態リディアスの顔へとかかった。



「…この酔っ払いめがァ゛」



壁にめり込むリディアスは既に消耗しきっており、抵抗ができない。



「ごめんなさいね。この世で魔王を名乗るからには、相当な腕前と思っていたのだけれども、興ざめですわ」



テトラがリディアスの胸元から顎先まで指を這わせる。リディアスの頬にできた切り傷に舌を這わせて血を舐めとると、右手を彼の顔に添えた。



「でもこの程度でイキってる若い男の子、私は好みよ」(クスッ)



《ゾワッ》



リディアスの身の毛がよだつ。



「貴様… この圧倒的な強さ… 一体何者なんだ。最後に教えてくれ!」



「あら。殺す気はないわよ私。ちょっと生意気なお姉さんが、弟のところに暴れに来たくらいに思ってちょうだい」



リディアスの鍛え上げられた身体をまさぐる酔っ払い。



「ぐぅ… この私にこれ以上生き恥を晒せと言うのかァ…」



「あら。この世の中自分よりも強者がいたら生きるのが恥だというなら、だぁれも恥じずに生きれないじゃない。寧ろ我々生物はこの世界に生を受けたことに感謝し、生きるために糞尿たらし殺生することを恥じていくしかないのよ」


「…ん? これ以上?」



リディアスの表現に疑問を覚えるテトラ。すると、玉座の間にもう一人の魔人が現れた。



「あらら。結界内に他に人がいないと思っていたのに…」



「ミレイス!! どうしてここに!!?」



「ハッ。畏れながら、魔王様に身の危険が迫れば、駆けつけるのが配下の役目でございます」



褐色肌の魔人がしゃがんで深くお辞儀をする。



「よせ、コイツはお前には倒せない。地中を潜って逃げろ!」



「リディアス様!! ………この場には私たちしかおりませぬ。そう言うやり取りは要らぬと思うのじゃが(・・・)?」



いきなり雰囲気が凄む召使いミレイス。その様子を見て、テトラは2人から距離を取った。


ミレイスが壁にめり込むリディアスを引っこ抜くと、自分の胸元へと抱き寄せて抱擁する。



「玉座の入口まで側近たちが来ているのだぞ」



「ばぁか。大丈夫じゃ、この者の結界、何一つ音も通さぬようじゃ。それに、これ以上お前さまをコケにされたままでは、ワシが憤りで安眠すらできなくなるじゃろう?」



テトラが玉座を挟んで反対側からミレイスと向き合う。



「お主、何者だ? そこの魔王を名乗る坊やよりも力を感じる」



「ワシの力が分かるのが驚きじゃ。うぬが名乗ればワシも名乗るとしよう」



テトラが手持ちの鉄扇を開いて顔を覗かせる。



「私はテトラ・フィフテマス・ディエティ(※五十神 出寅)…と名乗っておくわ」



「ほぅ。テトラか」



突如大きく波打つようにミレイスに巨大な尻尾が現れる。何十メートルにもわたる巨大な太い褐色の尻尾が、膨れ上がった尻の付け根から顕現しあたり一面を蠢き尽くす。



プラチナブロンドの髪の合間から巨大なエメラルドグリーンの半透明クリスタルの大角が生えると、身体の腰のあたりまで弧を描いて伸びきった。



閉じていた両目を開くと、そこには炎の様に光り輝く金色と紅の竜の眼が現れた。



「なっ……!?」



黄金と純白の衣装に変身を遂げるミレイス。




「ワシはイーヴァデッサ・ウル・デスガイア……… 今の時代の本物の『魔王』じゃ_____






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次話、明日です。


あと、感想と評価ほしいです!!

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