38.頭が高いぞ平伏したまえ
キャラクター同士の絡みが勝手にストーリーを構築してゆく…
キャラクター紹介(17) ドゥラク・ヤクシジ(薬師寺 道楽)
[浦山エクスペリメント ダムトップ]
「この景色だけは変わらないでござるなぁ…」
かつてダムだった場所の上から光る地底湖を眺める山城立馬。遠い目をしながら千年モノの日本酒を片手にクィっと飲み干す。
「光線結界技術の崩壊と共に、氷の銀世界へと包まれる緑の大地『東雲山峡』。最後の人類は大地を捨てて、微かな希望の眠りへとついた…と」
ため息を付いて後ろを振り向くと、山城は手すりに寄りかかった。
(正直言うと微かな希望もなかったでござる。大規模地殻変動『核離』に次いで宇宙を封じられ、地核の異空間消滅、急激な寒冷化)
(遺伝子限界を迎えつつあった人類の人体実験、人体改良。その結果であるプルタノイドシリーズの誕生…)
「そもそもここは本当に地球なのでござろうか。スピッツノア博士の暴論『地球自体の異世界転生』には笑わされたものでござるが、あながち…」
「山デブ。ここにいたのね」
和服の黒髪美女がデブオタに寄って来る。
「ウホッ、テトラたんハスハス!」
「キモッ」
テトラが山城をガチで見下す。
「今、ちょうどプルタノイド計画の事を考えていたでござるよ」
「あら、私たちのこと?」
「でござる。計画の主任アッシュヴィルシュタイン郷ではないので詳しくはないでござるが、ここに収容されたプルタノイドはシリーズ全体の4分の1くらいだったお」
クゥエイスが日本酒の追加を持ってきた。
「私とユノレヴィアとジュピタリアでしょ?」
「だったと思うでござるが。実は記憶ではもう1人、ゆりかごを完全に閉鎖する2週間ほど前に滞在していた試験体がいたのを思い出したでござるよ」
「試験体!?!?」
「その子が施設を離れたって情報を聞かなかったでござる。もしかしたら、収容されていたかもしれない…」
テトラが珍しく焦りを見せた。
「誰よ? まさか、その子が地下で眠っている謎の生存反応1ってこと!?!?」
山城が真面目な顔で2人へと向き合った。
「その試験体のコードはNo.12、ネームは『イーファ』…ジュピタリアたんよりも更に化け物なコンセプトで作られた、褐色肌と銀色の巨大な竜の脚、その耳は身長の半分はある巨大な折曲がった銀の角、20メートル以上の巨大な褐色の尻尾、エメラルドグリーンの瞳、身長の2倍以上ある美しい銀髪。恐ろしいのが艶めかな褐色肌の又に巨大な肉食の第二食道…ようするに第2の口があるでござる」
「怖ッ…なによ…それ。私、知らない!」
「プルタノイドセカンドシリーズ最後の個体、イーファ・デスガイア。竜人の真祖でござる」
突如クゥエイスが目を見開いた。
「デスガイア!? まさか…」
「えっ、知ってるの執事さん!?」
2人の注目を浴び、滅多に開かないその瞳を向けると、クゥエイスは語り出した。
「ここ500年の間に魔王リディアス様がごひいきにしていた種族。土属性の褐色肌の魔人で髪は銀色、その名をデスガイア族といいます」
2人「!!!???」
「我ら魔人の強敵、西方の山界に生息する竜族の末端に位置すると言われています。まさかあの者たちと関係が!?」
3人は息を呑みこんだ。
「なんでそんな大事なこと、今まで黙っていたのよ、この…デブメガネ!!」《ドカッ》
「うわああああああああああああああああああああああ」《ドッパーーーーン!》
山城はテトラの蹴りで地底湖へと豪快にダイブを果たした。
38.頭が高いぞ平伏したまえ
[ノグルシア連邦 西端の街バレンタインムース]
ノーブルムースから一番近い帝国の国門は、北西に位置するバレンタインムースの街にある。賢者の館でのエスタリザ・クロノスの激励を聞いた冒険者たちのほとんどがこの国門へと終結していた。
とはいえ、魔人と人間の力量差は歴然としている。国門まではやって来ても、ほとんどの者たちがここを通らずに引き返すのが恒例である。しかし、大半の冒険者たちにとっては集結した冒険者を野次馬することが目的であり、交流し、情報を集め、高め合うことこそに意味を見出していた。
報酬の賞金は魅力的だが、命を落としてしまっては元も子もない。結局、少数精鋭のラグロス軍と帝国軍の小競り合いで終わるのが常なのだ。
「例年より多くねぇか?」「そりゃそうだ。今回は規模がでかい!」「でもどうせ、大半が引き返すだろうよ。そいつらを呼び込んで商売だぜ」
「バカ野郎、あのエスタリザさまの喝を入れられたんだ、今回こそはって奴らはいるはずだ!」「いやいや、みんな自分の命がかわいいさ」「そもそも帝国軍が負けたら結局同じだろ、早いか遅いかの違いだ」
国門広場を囲むように展開される商店街の外席で、飲み食いしながら世間話をする者たち。そんな喧騒を掻い潜って目配りをする全身ローブの怪しい男が1人、足音すらたてずに外席の合間を縫ってゆく。
「!!??」
男は立ち止まると、広場の片隅にある路地の入口を凝視した。そこには野獣のような大男と、人形の様なフォルムのスタイルの良いエメラルドグリーンの甲冑の女戦士がいた。
『みつけたぞ! 時の番人と獣人…あいつら、一体何をしに路地裏へ??』
男は2人に気付かれぬよう、距離を置いて路地へと続いた。そして、家屋の角から様子を伺う。
「ひっ……… 久しぶりだなロウメイ? そのお荷物は一体なんだ??」《ヒクヒクッ》
人形のように整ったエスタリザの顔が引きつる。久々に再開を果たした吟遊詩人ロウメイ・リクタは自分よりも背の高い魔女を背負っていた。というか後ろから抱き着かれた状態だったのだ。
「や、やあエスタリザ! 本当に久しぶりですね!」《ヒクッ》
わざとらしく左手を上げて挨拶をするロウメイの顔もやや引きつっていた。
「せ、成長期だからか。心なしか男前になったな」
「文字通りぃ~~男として一皮も二皮も剥けたからに決まってるじゃないのぉ~~~?」
荷物の魔女がからかうように喋った。覆いかぶさりながらもロウメイの身体をまさぐっている。
「二皮だと!?!?」
エスタリザが目を丸くして、何とも言えない表情になる。
「レジュ姉! あんまり僕のリーダーをからかわないでください!」(///)
「あらん? 奥手の僕ちゃんの大人への指導者はワタクシでしてよ~~??」
レジュアダがわざと超巨大な胸をローブからはだけさせた。
「き、貴様!! 私のチームメイトから離れろ、この淫獣め!!」
「でも~~ロウくんは拒んでないわよぉ? おばさんにワタクシたちをとやかく言われる筋合いないわぁ~~?」
「お、おばッ………!!」《ビキビキッ》
エスタリザは頭を抱えると、振り向いて歩き出した。
《フンッ!!》
鼻息を荒くして去り行くエスタリザ。
「ロウメイ… あとで栄通り、赤ランプ亭、来る」
獣人バルゴスは片言でロウメイにそう伝えると、巨大な盾を背負いなおしてからエスタリザを追った。
「わかりました、バルゴス」
ロウメイがため息を付きながら頷いた。レジュアダがクスクス笑う。
家屋の角に隠れて盗み見していたローブの男は目を大きく見開いた。
『なんだ? 仲間割れか?』
突如ローブの男の身体が硬直した。
『何っ!? か、身体がッ動かねぇ!!』
男の背後からフックのような赤紫の取っ手が現れる。
「あなた、何者かしら? こんな場所で何をしているんですの??」
豊満な胸をさらけ出した紫色の魔女装束の女が男の前へと現れた。
「神聖魔法ギルティホールドは悪事を成す人の後ろめたさに働きかける精神系魔法。効果があるのはあなたに自覚がある証拠ですのよ。まぁ口だけは喋れるはずですから、ちゃんと名乗れば離してあげますわ」
「おっ… 俺はヴィンス・ピーターラット…情報屋だ! 怪しいもんじゃねぇ! 本当だ、信じてくれ!!」
「十分怪しいですわよ」
魔女はため息を付く。
「クオリア嬢! 大丈夫ですか? おっ、その怪しい奴は誰です?」
金髪ポニーテールに四角メガネで高身長の男性が寄って来る。
「ほらねぇ、キースさんも怪しいと思うわよね? 何をしていたのかしら?」
「時の番人の姿が見えたから、何かいい情報にならないかと覗いていたんだ!! 本当にそれだけだ、信じてくれ!!」
ヴィンスは必死に言い張った。
「あら…エスタリザさん? っていないじゃない………!?!? アレは!!!」
クォリアが目を離した隙にヴィンスは自由になった自分の身体を動かし、大袈裟にクォリアとキースから走り去った。
「おいお前!! ………まぁいいか。暗殺者とかじゃなかったみたいですしね、クオリア嬢。…クオリア嬢?」
キースが走り去るヴィンスの後ろ姿からクオリアへと視線を移すと、クオリアは目の前の2人を凝視していた。
「あらぁ? あらあらまぁまぁ、ウフフ、こんなところで会えるだなんて、不思議なこともあるものねぇ~~~??」
レジュアダがクオリアへと歩み寄った。
「クオリアお姉様~~? 相変わらずいやらしいおっぱいだ、こ、と♡」
「レジュアダ・オッドニッサ!!?」
クオリアが声を上げる。キースがその名前に驚いた。
「レジュアダ?? 旧貴族オッドニッサ本家のご令嬢の!?!?」
「あらん? いい男だと思ったらフラウデル公爵様じゃないのぉ~~、お久しぶりね!」
「あ、相変わらずですね、レジュアダ嬢」
キースとレジュアダが挨拶をする。ロウメイがゆっくりと後ろから歩み寄って来た。
「あなた、エウロプリエに籠ってなさいよ。なんでここに居るのかしら?」
クオリアがやや胸を強調して腕を組んだ。
「コラコラ! 分家の娘の分際で本家のワタクシに言葉遣いがなってないわねぇ!」
するとレジュアダはクオリアの胸をチラ見してから胸を張る。
「ウフッ、昔は妬ましかったけれども、今ではワタクシのおっぱいの方が一回り大きいみたいねぇ~~??」
そういうとローブをはだけてクオリアよりも更にデカいモノを強調した。舌を唇に這わせる。
《ブルルンッ》
「んなっ!!??」《ガーン》
クオリアがショックを受ける。キースは顔を赤くして手で隠した。レジュアダはふふんと鼻で笑う。
「成長期だからぁ~んッ♡」《フフン》
「う、嘘でしょ? なんて身体してんのよアンタ…あり得ないわよ…確か今年で…」
クオリアがそう言いかけて、レジュアダの顔色が一気に青ざめる。
「ちょ、ちょっとまッ!!」
「………今年の秋で16歳だったわよね。ホントどうなってるのよ…」
「えっ? 16歳?」《ポカーン》
隣で聞いてたロウメイが目を点にする。レジュアダが両手で顔を隠した。しかし乳は晒したままであった。
「え゛え゛ッ゛!?!? ぼ、僕よりも2歳年下ぁ!?!?!?」
ロウメイが噴き出す。
「出会った時は…15歳!?!? アレで!?!?!?!?」
「いやぁああああ、ばらされたぁあああ!!」
レジュアダは地を這うようにその場から逃げ去っていった。静寂が辺りを支配する。
「ちょっと悔しいけど、コレでお相子様ね」
クオリアが親指を噛みながら、残された少年の方を見た。
「あ、あはは。アナタが亡国の戦士、元『深紅の槍刃』のクオリア・オッドニッサ様ですか」
「ええ。昔のチームの名前なんて良く知ってますのね。坊やはどちら様?」
「あなたの知り合いに良く聞かされていたもので…あ、僕はチーム青天照のロウメイ・リクタです」
2人「青天照!!?」
『ワタクシの知り合い… レジュアダかしらね。でもワタクシ、そんなにあの娘と絡みないけれど』
クオリアが首をかしげる。
「エスタリザさんのチームメイトですか…」
「はい。あなたは元『轟雷の三騎士』のキース・フラウデル公ですね」
「そうです。なんか懐かしいなぁ、そっちのチーム名を聞くのは」
キースが空を見上げる。
「あ! 僕、エスタリザと合流するんでした! すみません、機会がありましたらまたお会いしましょう!」
ロウメイが畏まってお辞儀をすると、先ほどエスタリザが去っていった方向へと小走りで去っていった。
2人「礼儀正しい少年だったね」「そうですわね。レジュアダの悪影響を受けていなければ良いのですけれど」
すると、路地裏の手前までかけて行ったロウメイが振り向いて声を張った。
「クオリアさん、そう言えばーー そろそろナパームクルスさんがあなたに会いに来るはずですよーーー」
そう言うとロウメイは、手を振り路地裏へと消えて行った。
「えっ、ナパーム…誰!?」
「お嬢の知り合いじゃないんですか?」
咄嗟にキースへと問いかけてしまうクオリアだったが、彼が知る由もなかった。
「ワタクシに会いに来る人なんて…」
クオリアは思い出す。
(あなたの知り合いに良く聞かされていたもので…)
「昔の知り合いで… ワタクシに会いに来る人って…」
咄嗟に大きく瞼を開いて少年が走り去った方を見るが、既に跡形もなかった。
『まさか………』
一陣の冬風が吹き、それを防ぐように左手で顔を遮る。クオリアは目をやや細めた。
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[メーデリア農国 ダッパルバス崩落水道 スラム街]
商国アバンテの東の国境を越えた先には、3つの川が合流する湿地帯がある。クォンタムハイドの山道脇にある小川から分岐したエデッツェ川、ノグルシア南部から流れるブルー川、アリシア西部から流れるロハンス川。それらが合流して形成した大湿地帯の水は、地盤沈下でできた約10メートルほど低い南部大地へと流れ落ちる際に、幅が1km以上ある巨大なダッパルバスの滝を作った。
湿地帯だがぬかるんだ沼地だけではなく、3つの川がヴァルキュディス山脈から運んだ準オリハルコン鉱石が長年にわたり滝の段差に溜まり結晶を成し、土砂崩れするはずの地盤と段差を強固にしていた。大地の結晶化が間に合わなかったもろい部分は大地の裂けめとなり、狭い空洞を複数形成し、それらの裂けめに河川の水が流れ落ちては出ていく。
西のクルスオグナを追い出された野蛮な亜人、東のホプスエリンの木の檻を逃れた盗賊の成れの果て、近隣に存在した古代フローレンツィア王朝に滅ぼされた小国の血筋の者が集う被差別集落の者。それらが次第に集うとやがて滝の中央にできた巨大な三角州を中心に、裂けめの空洞を繋ぎ合わせた大きな地下街が作られた。その名を『ダッパルバス崩落水道』という。
準オリハルコン鉱石でコーティングされた水道内の壁はとても頑丈で、これ以上崩落する恐れはないとされている。水漏れは滝に近づけば近づく程多くなり、遠ざかれば天井の裂けめから水がしたたり落ちる程度だ。地下とは言えど、天井の裂け目が多いので、日中は光がそれなりに降り注ぐ。夜間は発光系の魔鉱石を灯すのが主流で、主に白、緑、青の淡い光が洞窟内をまばらに散りばめる。よって、夜の滝は光を放って幻想的であった。
季節は初冬。凍える河川の真下の環境はやや劣悪で、ここの住人にとって春先に至るまでの間は一年で最も厳しい季節だ。水を避けて火を灯し、必死に守り続けることが何よりも大事であった。
「何処だ!? 何処にいる!!??」
水除のマントにくるまりながら、一人の青年がスラムを行き来する。彼の焦りが、水たまりの上を長靴で歩くリズムから伝わって来る。
《ジャバッ、ジャバッ》
辺りに響き渡る水の音。世話しなく響いてくるその音は、やがて収束をみせた。
「マルシェを連れてくるべきだった。彼女の探索スキルであっという間に奴らを探し出せたのに! いやしかし、ここの治安は非常に悪い…そんな危険に晒すわけには」
《ヘッブシッ!》
青年がくしゃみをする。
「それに、何よりも寒い!!」
「そこの兄ちゃんよぉ、うっせぇぞぉ! 見てるこちらの身にもなれや」
少しばかり広い通路に設置されている大型の暖炉、その前で暖まる人たちの中の一人、ガタイの良いけむじゃらのオッサンが話しかけて来た。
「すみません、住人の方。外の街で窃盗がありまして、犯人を追ってここまで来たのですが…見失ってしまいまして」
「あんちゃん、その身なり冒険者さね? 悪いことは言わねだ、とっととここから去り。水道は迷路だに。もう見つからんけ」
けむじゃらのオッサンの隣に座り込むヴァッサゴ族の亜人が独特の訛りで話しかける。鱗とヒレのある魚の眼をした魚人だ。
「そういうわけには…」
「兄ちゃんみたいな正義感丸出しの若造は、ここにいちゃアカン。四方八方からスリに合うぜよ、ゲハハハハ!」「違いねだ、ヒャッヒャッヒャ!」
腹を抱えて笑う2人組。青年はそれに応えず、再び足を進めた。
昼間だということもあって、天井のひび割れからは明るい太陽光が注ぎ込んでくる。水道内は日向と日蔭の強いコントラストで、青年の眼に負担をかけた。
「目がチカチカする! 見づらい!」
両目を細めたり開けたりしながら、青年はようやくお目当ての犯人グループへとたどり着いた。
「ドンドラスとその一味! ウォールドミリスの街の鍛冶屋から盗んだ包丁を返して貰おうか!!」
青年の前を行く、大きなトカゲ亜人の背中の持ち主がゆっくりと振り返った。
「カァーーーッ、めんどくせぇ!! こんなところまで追って来たのかよ『ヘンリエル』、この暇人め!」
ドンドラスは青年ヘンリエルを勢いよく指を差すと、飛沫を飛ばしながらだみ声で怒鳴った。もう片方の手には巨大な包丁を頭の後ろに担いでいる。
「このダッパルバスの飛竜、ドンドラス・ザバース様を不快にさせた罪は重いぜ、クソガキ!」
「んだぁガキぃ! ボスを不快にさせるたぁ重罪だぞぉ??」「コイツ、前も突っかかって来なかったか?」
ドンドラスの取り巻きの人間2人が凄んだ。
「大人しくしろ!」
冒険者ヘンリエル・リリンスファウトはスタンダード武器のロングソードを構えた。
「丁度いい! この人切り包丁を試し斬りしたかったところでよぉ、げっへっへ! テメェをミンチにして魚の餌にしてやる!!」
そう言うと、突如手に持った巨大な包丁を振りかざすドンドラス。
「ドリャッ! ドリャッ!!」
「うっ!!」《バシャアッ》
ヘンリエルはロングソードでその攻撃を防ぐが、二発目を受けて、水溜まりへと吹っ飛ばされる。
「弱ぇえ! ゴールド級ハンターなんぞ相手にならねぇ! このドンドラス様ぁプラチナ級だからナァ、ゲハハハ!!」
ドンドラスは人斬り包丁を無闇に振り回してから、宙に放り投げると、高速回転する包丁の柄を再び掴み取った。手下2人が拍手する。
「流石に…強いな……」
ヘンリエルは水を吸った重い身体を起こした。
「しかし、強者だからと言って悪事を見逃していたら秩序が保たれないのです。いち冒険者として、責務を果たします!」
「カァーーッ、うぜェ!! 聞いたかおめぇら? 正義のヒーロー気取りが熱弁してんじゃあねぇ! てめぇみたいのが頑張ったってなんにもならねぇーんだよ!」
「クソギルドの強ぇ奴らはみんな帝国に行っちまった。だからこの時期は俺様たちの稼ぎ時なのよぉ。力もねぇお坊ちゃんが、喚くのは勝手だが、他所でやれ!」
ドンドラスは包丁をヘンリエルに突き出しながら語る。
すると、ヘンリエルの後ろからマントを被った5人組がやってきた。先頭には一般人の短髪の少年。1人だけ背の高い男が混ざっている。
「おいてめぇら、見てわからねぇか? ここは今通行止めだぜ! 他の通路を使いなァ」
ドンドラスがダミ声で包丁を振りながら言い放つ。
「危ないですよ! 他の通路を使ってください、一般人の方々」
やや息を切らしながら、ヘンリエルが後ろを振り向いてそう言った。
「どうします?」
「穏やかではないな、どうした青年?」
後ろにいた男がフードを取り払う。目と鼻が隠れる厳かな仮面をつけた長い黒髪の両耳ピアス男が現れた。背中には大きな槍を携えている。
「冒険者の方ですか? ちょうどいい、手を貸しては貰えないでしょうか!?」
ヘンリエルと男が並ぶ。
「おいおいおい、どこのどいつか知らねぇが余計なことすんじゃねぇ! このダッパルバスの飛竜、ドンドラス・ザバース様の包丁の切れ味、その身で体験してぇのかァ!?」
「ダッパルバスの飛竜? 2つ名持ちの悪党か、肩慣らしにはちょうどいいか」
男は槍を構える。その姿は完成したもので些細な隙もなかった。ヘンリエルは見蕩れて、自分のロングソードを下げてしまう。
「ひ、飛竜って、地下の狭い通路で飛ぶ場所ないじゃない。デュフフフ」「先輩! 聴こえちゃいますって!」《ヒソヒソ》
「おいコラ!!」
ドンドラスが声を荒らげた。
「お頭、6対3ですぜ、分が悪い」
「バカ野郎、どうせ戦えるのはあの槍使いだけだ。この時期、こんな辺鄙な街にいる奴ァ帝国軍に参加すら出来ない残りモンよぉ。ゴールドかシルバー辺りが関の山よ、ゲハハハ!」
ドンドラスが吠える。
「青年、下がっていろ」
ヘンリエルは槍の男に従う。その視線は彼を観察し続けた。
「リーチが長いからって、いい気になるなよ、俺様の包ちょ……」
「轟雷…雷神の投擲!!」
《ゴォッ!!………バチバチバチ》
突如、低姿勢の構えから物凄い投擲を繰り出す槍使い。蒼白い電流を纏った真っ白い光の槍が、彼の剛腕で突き出された。投擲と思われたが、槍は彼の手に留まり、電撃だけが猛スピードでドンドラス一味を突き抜ける。水浸しの通路に電流がバチバチと伝わった。
《ドサッ》《ドシャッ》
ドンドラスとその部下1人が地面に倒れる。
「手加減はしたぞ」
「あ、あなたは一体何者ですか?」
ヘンリエルが目を丸くして槍使いを見つめた。
『じょ、冗談じゃねぇ! 俺だけでも…』
部下の最後の1人が通路の端を走り抜け、謎の5人組の脇を通り抜けようとする。
《ドカッ》
「キャッ!」「うわっ!?」
部下が最後尾の女にぶつかる、咄嗟に部下がその女を掴み、手持ちのナイフを剥いた。
ヘンリエルが叫ぶ。
「しまった!!」
「動くな! この女の命がどうなっても良いのかァ?
?」
必死なドンドラスの部下。
4人「あっ………」
「えっ?」
部下が自身の拘束した女へと視線を移す。その女は、深紅に染まった髪の美しい顔立ちで、物凄い邪悪な目付きで男を睨みつけていた。その目は真っ黒で深紅の瞳が輝きを放っている。
「俺に触れんじゃねぇ…!」
「ヒィッ!?!?」
男は泡を拭きながら意識を失った。
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次話、「浄化の主、槍と再会する」来週です。
あと、感想と評価ほしいです!!




