29.旧魔王城(ジュピタートライデント)
新章スタートです! 一カ月も更新空いてしまい申し訳ございません。
お楽しみくださいませ。
[旧ラナ王国領 深界迷宮 夜光の祭壇]
「外の情報が全く入ってこないわねぇココ」
眼の下に隈のある、血色の良くない魔女が呟く。目の前には薄暗く青白い輝きを放つ神秘的な祭壇。その妖しい光が照らす円形のフロアの端には、細かい芸術が刻まれた円柱がいくつも等間隔で設置されている。
地下だという事を忘れてしまうくらいただっ広い空間に4人しかいない。魔女は気を緩めて羽織りのローブを着崩すと、つやめかな両肩と、あまりにも実った乳房が顔を覗かせた。
「レジュ姉、依頼の報酬を貰ってきましたよ…ってちょっと、なんで脱いでるんですか!!」(///)
レジュアダへと駆け寄ってきたロウメイが顔を赤らめた。するとレジュアダはわざとやらしいポーズをとって少年をからかう。どうやらこの魔女はこういう時だけ顔の血色が良くなるらしく、先ほどまであった目の隈が見当たらなかった。
「あらん、坊や。ワタクシたちしかいないのだし、特に問題ないですわよ」
レジュアダはロウメイが手に持っているエメラルドの宝石をのぞき込む。
「綺麗ですわね。コレが報酬?」
「ああ、はい。先ほどの鉱石の中に埋まっていたようで。オズマさんに聞いたところ、これはマナを増幅させる高純度マジッククリスタルのレアな結晶らしいです」
エメラルドグリーンの妖しげな光を放つクリスタルは、形は歪だが確かに一級品のようだった。レジュアダが目を輝かせてのぞき込む。
「…ここの冒険者証を手に入れてから3回目の来訪ですけど、確かに外界にはないメリットが沢山ありますわね。何度か死にかけましたけど」
「まぁそこは、ナパームさんがいるから一安心的な流れはありますね」
「ロウメイ。外とは連絡取れないのかしら?」
「相変わらず外とはあらゆる面で遮断されてますね。僕たちがここへ来る前は確か、魔王軍の次の侵攻をウラナ姫様が予見したとかなんとか。ちょっとしたらまた本国へ戻るべきかもしれません」
すると、レジュアダが顔を曇らせる。
「本国ねぇ…」
『旧貴族氏族会会長の息子、サノア・トーラスからの求婚がウザいのよねぇ。私はまだ16歳だっつーの。権力を傘に着るトーラス家の坊ちゃまには興味ないし… 唯一トーラス家に感謝してるのはネフィ姉様とワタクシを出会わせてくれたことだけ』
レジュアダは自分より背の低い、未だに自分を年上だと勘違いしているカワイイ坊やをみつめる。出会ってから何カ月もの間共に過ごし、レジュアダも少しづつ少年に思いを寄せるようになってきていた。少々仲良くなる順序が間違ってはいるが。
『ネフィ姉様、今頃何しているのかしら。相変わらずシニシズム決め込んで孤高な暮らししてるのかしら…』
人界の魔窟、深界迷宮に出入りする魔女、吟遊詩人、狂戦士、炎聖、そして冥界の盟主。彼らが世間に関わってくるのはもう少し後の話である……………
29.旧魔王城
[魔大陸 マナヘイズ深淵峡谷 ムーンレフテン陸島麓 古代都市ベス]
地表よりも遥か地下へと続いているマナヘイズ深淵峡谷。その谷底は普通に考えたら太陽光すら届かない闇の世界。しかし、実際はミストレムリアの名がそれを示す様、谷底を充満している魔霧が妖しく発光し、あたりを淡く照らしていた。
魔霧は地表の日の光を奥底まで通し、真っ暗闇に淡い灯を与える役割を果たしている。ミストが濃い場所では視界すら揺らぐが、本来ならば視界すら存在し得ない深淵。マナヘイズ深淵峡谷の不気味な魔霧の淡い揺らめきが、狭い谷底の両端に連なる古代都市のアーケード街を浮き彫りにしていた。
かつて数千年前には繁栄していたであろう古代都市の遺跡は、もぬけの殻となり無人の廃墟として朽ちていた。
「これは…かつての魔王時代の遺産ですか?」
「いえ。ここは古代都市ベスの跡地です。私が魔王城を築くよりも前から存在し、そしてもぬけの殻でした」
「ほぇ~~、神話の時代の産物がまだこんなに残っているなんて… それに、その造形からしてかなり高度な文明だったと推測できます」
メサリアがメルトの問いに答える。メルトが◇の口であっけにとられる。
「私が魔王城を築く前とかサラッとすんげぇ事を言うなぁメサリアの嬢ちゃんよぉ。でも当時のこの場所の保有者がこの場にいることが、この魔大陸の奥底にいるのにも関わらずすんげぇ安心感だぜ」
「わ、わかる。この場の全員の安全が保障されてるような安心感。何が起こっても怖く、ない」
「それは言い過ぎですよぉ! 私だって人間としてここに来るのは初めてなんですから!!」
オルデイルとクレステルに対してメサリアは抗議しつつも、落ち着きを払っていた。
「それにしても… やはり懐かしいのぅ。そう感じるということは、わらわはやはり人間を辞めてしまったのかや? そうは思わぬかクゥエイスや」
突然魔王口調になるメサリア。その様子をメルトは目で追う。
『いきなり口調は変わるし雰囲気もかわるし、その時垣間見える気配が尋常じゃない。今、目の前にかつての我が祖先の仇敵がいる… しかも一緒に旅をしているだなんて…』
メルトはまだかつてのジュピタリアと行動を共にしていることに慣れない様子だ。
「確かに懐かしいです。私も随分と長いことここには来てませんからねぇ。それにしてもメサリアさん…」
「なんじゃ、言うてみぃメデューサよ」
「かつての魔王様はそんな喋り方しなかったので、凄く違和感しかないのですが」
メサリアがずっこける。一緒に後ろを歩いていたメルトもずっこけた。思わず言葉を吐き出すメルト。
「えっ、ええっ? 魔王の時はその喋り方じゃなかったの?? 凄く威圧感があって如何にも伝説の魔王って感じだったけど!!??」
「魔王様は標準語の男口調で一人称は俺様でしたね」
「えええっ!? じゃあなんなのよその喋り方は!?」
「え、演技でございます」(///)
「はぁぁーー?? アンタ魔王ごっこでもしてるんですかぁーー??」
「は、はい。魔王ごっこしてます」(汗)
「あっはははははは!!! ホント、可愛らしいですよねそういうところ。ネフィと似てるなぁ」
メルトの緊張が一気に解ける。
一同「あははははは」〈談笑〉
「なんじゃあ、わらわの事をからかうでない!! この地の者たちになめられぬようにこれでも努力しておるのじゃわい! そこを評価せい!」(///)
一同「あははははは」〈談笑〉
「…その(この地の者たち)にココに来てからまだ一度も出会ってないんですけどね…」
一同「……………」
メルトが突如真顔でそう言うと、静寂が訪れた。街の中央を堂々と歩く5人に対して、人どころか他の生物の気配が一切ない。美しい古代文明の遺産がただそこに鎮座しているだけの空間は、薄気味悪いだけであった。
「この遺跡は少なくとも死霊系の魔物は存在するはずじゃが、わらわを警戒してか半径1キロ以内には入って来ぬのじゃろう。しかしそれだけでは不自然じゃ。別の理由もありそうじゃがな?」
メサリアがクゥエイスを見る。
「実は私の石化が解けたあと、魔王城はほぼもぬけの殻でした。良くも悪くも魔王城は主様のモノ。主なき後は城のあらゆる機能が制御不能になりまして、魔王軍の一族も既に別の拠点に移った後でした」
「もぬけの殻と言うたな。では貴様は目覚めた後、誰から現状を聞いたのじゃ?」
全員の視線がクゥエイスに集まる。クゥエイスは間を空けてから口を開いた。
「竜王ゼガンゾラです」
一同「竜王!?!?」
「あやつか!」
「め、メサリアちゃん、知り合いなの?」
「うむ。わらわが魔王城を築いた時、奥底のゼガンゾラ深奥窟を根城にしていた化け物じゃ」
「ぜ、ゼガンゾラ深奥窟? なんか聞き覚えが…ある」
クレステルが考え込む。
「あのグランゾーラが魔物を率いて人界へ侵攻した時、オルソリア島のホールオブラナに繋がっていた難度SSS級のダンジョンじゃ。旧魔王城の下に在り、ソコを支配していた竜王じゃな。わらわが支配下に置いたが、わらわ亡き後誰もあやつを止められなかったのじゃろう。何せ難度90の化け物じゃからのぅ」
一同「難度90!?!?」
「待って! グランゾーラが難度70だとか言わなかった?」
「はい。ちなみに私がせいぜい難度64あたりで、今の魔王リディアス様は難度78ほどです」
「現魔王よりも強い竜王!?!?」
メルトがクゥエイスの説明に驚く。そしてメサリアを凝視した。
「その竜王を支配下に置くなんて… アンタ、難度いくつなのよ」
「通常時120じゃな」
一同「はあ!?!?」
「無敵じゃねーか!!! メサリア嬢ちゃんと居りゃあ完全に安全じゃねーか!!!」
オルデイルが喚く。
「…1番の化け物が1番身近に居るのかよ…」
「メルトや。その化け物を封じかけた貴様がそれを言うのかや? ククク…」
「むぅ… それもそうですね」
メルトがやや不満そうに言う。
「で、じゃ。その竜王はどうしてるのじゃ?」
「私が魔王城の外に出たら、城を覆うように根城にしていました。魔王軍の行方だけご親切に教えてくれましたが、私ですら追い出されましたね」
「そりゃそうじゃ。あやつは自分より弱き者と戯れる性ではないからの。…そうか、あやつがわらわの城を」
「ちょっと! 難度90の化け物じゃ、完全にアンタに任せるしかないわ。頼むわよ!?」
「もとよりそのつもりじゃ」
メサリアは不敵に笑った。
メサリア一行はしばらく古代都市ベスのアーケード街を突き進んだ。あたりは次第に暗い濃密なミストに覆われてゆく。しばらくすると谷底の幅が開け、目の前に強大な岩の構造物の壁が現れた。両脇に巨大な円柱の岩柱が1本づつ、半ば壁に埋まった状態で聳え立つ。高さは1キロメートル程ある様で、それぞれ柱の上の方が灯台のように明かりが灯っている。
構造物の正面は立派な壁画のように彫刻が彫られ、微かにミストに照らされ浮きだっている。麓は横溝のように切り取られ、溝のはるか先に明かりが見える。1階が空洞で2階から上が構造物といった感じだ。横溝の空洞の先にどうやら入口があるようだ。
「あれが旧魔王城… ジュピタートライデントじゃ」
一同「コレが!!」「ぉぉお!!」
両側の岩柱と正面の縦長の壁画を合わせて三叉槍に見えなくもない。皆がそれぞれ感動を覚えたのも束の間。一同は魔王城の麓に巨大な影が佇んでいるのに直ぐ気が付いた。
「おいおい、何かいるぞお前ら!」
オルデイルがメサリアの後方に身を隠す。
「竜王ゼガンゾラ!」
《グォオオオオ》
メサリアが名前を口ずさむと、ゆっくりと巨大な影が動き出す。魔物特有のうねり声が辺りに木霊した。やがて影の先端部分がコチラを向くと、鋭い両眼が開き、青白い眼光が漏れ出す。
『久々の来訪者だ』
頭の中に鳴り響くような低い声が皆に語りかけた。
『2年ほど前に来た魔人はそれなりに楽しめたが… さて』
クゥエイスが前に出る。普段瞑っている目を見開いた。
「お久しぶりですね、竜王」
『ほぅ、これは珍しい。見た目は違うが、貴様あの時のメデューサか。今更何をしに来た? よもや城を取り戻すなどとは言うまいな?』
「その通りです」
『ん? 聞き間違えか?』
「城に入らせてもらいます」
突如、咆号が鳴り響く。
『抜かせぇ!!! 弱小なる魔人の分際が!!! 余の力を忘れおったか!!! 無駄口を叩けぬように魂まで粉砕してくれるわ!!!』
《グォオオオオオオオオオ!!!》
「きゃあ!」「ひぃぃ!」「オオォ!?」《シュコー》
咆号が鳴り止む。
「やれやれ、相変わらずやかましいわ」
『!?!? 貴様は…』
「久しいのぅゼガンゾラ。500年ぶりじゃ。…なんじゃ、わらわの事を忘れおったか? カカッ!」
『余の幻覚か? フフフ、フハハハハハハ!! 偽物にしても中々の余興だな! しかし片腹痛い!! 奴はもうこの世にいないからな!! 余を騙せると思ったのが癪だ!!』
「私が証明になりませんかね?」
『黙れメデューサよ! 500年前に主を守りきれなかった愚か者が、今更偽物の奴を崇め始めたとでも言うのか!? 見苦しいぞ!! 貴様ら全て消し炭だ!!』
竜王が首を持ち上げる。口から吐息のように青白い炎が漏れだした。
「飼い主の真偽すら見抜けぬとは老いぼれたのぅゼガンゾラ 。わらわが久しぶりに鞭をくれてやろうぞ、ホレ。本物の飼い主の強鞭じゃ!」
メサリアは羽ばたいて、竜王の頭上へと飛翔した。
『馬鹿めぇ!! 調べが足りなかったな偽物よ、ジュピタリアはそのような口調でも一人称でもないぞ!!!』
_______俺様の命令が聞けねぇのかクソ蛇がぁ!!!_______
《ドゴオオオオオオオン!!!》
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[プラチナ凍土 天界の牢獄 零魔管轄の塔エグゼリュオン]
「何事なの? ここ数十年私の軍に被害が出たことなどなかったのに…」
イクシリス・ファウラは焦っていた。先程、南東偵察隊から被害報告を受けたからだ。魔大陸は魔人の世界。その頂点に上り詰めた魔王軍に逆らうものなど無いに等しい。逆らう事が出来るのは魔人の世界の西隣に住む竜族くらいだが、報告があった南東偵察隊は人界に隣接する地帯であって西側ではない。よもやまたしも人間の仕業かと、グランゾーラの件を頭に浮かべながらイクシリスは回廊を走る。
やがて報告者が待つ一室の扉の前にたどり着くと、勢い良くソレを開いた。
「ゼーペ!!!」
「…イクシリス様ぁ………」
そこには力なく肩を落として床にへ垂れ込む部下の姿があった。
「何があったの!? 報告しなさい!!」
ゼーペの両肩を激しく揺さぶるイクシリス。しかしゼーペは口を開いたまま何も発せなかった。
「イクシリス様。南東偵察隊アーリア・リア・クレシェント副長であります!」
「久しぶりねアーリア。一体何があったの? 報告しなさい」
「はっ! しかし実の所私もなんと報告したら良いのか… 人間が数名我らが領内へ侵入して来たと思ったのですが…」
「人間がとうとうコチラに!? 捕縛は出来なかったの??」
「はっ! 恐れ多くも… というかそこにはクゥエイス様もおりまして」
「クゥエイス!? 人界で行方不明になってた彼がコチラに!? しかも人間と一緒だと言うの!?」
「それが…人間というか… とにかく私の眼が記録した映像を観て下さい!! 観てもらうのが早いです。私からもイクシリス様に聞きたい事もございますし」
「お前の魔人特性の映像記録は本当に便利だわ。早速隣の部屋で上映しなさい」
「かしこまりました!」
2人はゼーペを残して隣の部屋へ移った。その部屋には多数の席の前に巨大なスクリーンが設置されていた。アーリアが席の中央にある台座に座る。イクシリスはアーリアよりも少し手前の席に座った。すると、2人が入って来たのとは反対側の扉が開く。
「話は聞いた。私も鑑賞させてもらうぞ」
「なっ……… 魔王様!?!?」
アーリアが台座から頭を下げる。魔王リディアスは片手に2本のビールと巨大な入れ物に加熱したトウモロコシの菓子を大量に入れた物を持参していた。
「構わぬな?」
「勿論です! が、部下の失態をそのままお見せするとなると少々、お目汚しとなるかと存じますが」
「ふ。魔人アーリマンのクレシェント副長とベルニカ族のヴィショップ部隊長と言ったら、お前の軍の中でも良く名前を耳にする優秀な二人組じゃあないか。その二人が失敗する程の事態。甘くは見てはならんぞ?」
そう言いながらもリディアスの足取りは軽く、イクシリスの2つ隣に着席した。席の両脇にある手すりの部分にビールを置き、もう一つのビールをイクシリスへと渡す。
「ありがたく」
イクシリスが感謝を述べる。
「魔王様からのご評価、誠に光栄でございます」
アーリアが台座から更に頭を下げる。
「良い。それでは副長、上映を開始しろ」
「ハッ!」
リディアスの命令を受け、アーリアが部屋の照明を落とす。そして正面の巨大なスクリーンへと向かい合うと、黄金の左眼を大きく見開いた。映像がアーリアの輝く瞳からスクリーンへと照射される。
「ほぅ… 場所は、ムーンレフテン陸島ギュフテリッヒ岬か。久しく行ってないな」
「私もです。それどころか最近は天界の牢獄から一歩も外に出てません」
「フハハハハハ、引きこもり妖精王め」
「お戯れを」
リディアスが缶ビールに手をやると、蓋の部分を開封した。続いてイクシリスもそれに倣う。
《プシュッ!!》《シュカッ!!》
するとリディアスは豪快にそれを喉に流し込んだ。
「ゴクゴクゴクゴク、っぷはぁ! まぁまぁだな!」
「どこの酒ですかこれは」
「聞いて驚くなよ。コレは人界の里、クルスオグナ名産のアガッヘビールだ。コルモラ酒と迷ったんだがな、この前リーブラたちがオーガの里から持ち帰って来たものだ」
「人界の里のビール!? あ、でも一応亜人国家のですか。そんな下賤な者たちのビールを飲まれて大丈夫なのですか魔王様? あなた様が無類の酒好きなのは周知のことですが」
「良い! 酒に国境も人種も関係ない! 酒は平等だ!! 人種と違ってな、フハハハハハ!!…………… ぬ、コヤツらか」
「ハッ! 最初に5人、続いて3人が空から降りて参りました」
アーリアが補足する。
「チッ、クゥエイスめ… 人よりの姿になっておるが、コヤツは洗脳されておらぬ。正気だ! よもや人間共に寝返ったのか裏切り者め!!」
「魔皇四天王の3位の座を魔王様から承っておいて、その御恩を仇で返すような真似…許せないわ!! メデューサめ!!」
怒りをクゥエイスへと向ける2人だが、次に目にした光景に唖然とした。黒帽子の魔女が複数の属性魔法でクゥエイスを圧倒していたからだ。思わずリディアスが声を上げる。
「なっ?? 全属性を操る魔女だと!? それに仮にも魔皇四天王の一角を簡単に圧倒し………何っ!?!?」
「タイタンブロー!?!? 人間如きが、伝説の巨人の腕を召喚したのですか!? しかも見てください魔王様。この女の片目が!!」
「…魔人の瞳…だと??」
2人は沈黙する。その間にも映像内のやり取りは続き、とうとう黒い魔女が帽子を脱ぎ去った。突如イクシリスが大声で噴き出す。
「んなっ!?!?!?!? 水晶角!?!?!? どうして!!!!」
「バカな…アレは零魔の角ではないのか?? イクシリスよ!!??」
「そうでございます! 我々一族のみの…なぜ人間が……… んん?? ええっ!?!?」
「どうしたイクシリスよ、何を見て……… んん?? はぁぁーー??」
《ブフーッ!!!》
思わずイクシリスが口に含んでいたビールを吹き出してしまう。目の前のリディアスの顔面がビールまみれになった。
「ばっ……… 馬鹿な!!! 私と同じ…零魔だとぉおお!?!?」
先ほどまで黒い帽子を被っていた魔女がイクシリスと瓜二つの妖精王の見た目へと変身していた。
「おいっ、落ち着けお前! いや落ち着けるか!! どういうことだイクシリス。アレはお前の一族だろ、誰なんだ!?」
「一族は全員把握しております!! それに私と同じ解放形態になれる一族は私と弟のみなはずです、誰だ!? それにこの映像から伝わってくる魔力量…まさか…」
「おい観ろイクシリス、全属性を同時に操っているぞ!? それも天位魔法クラスのものだ、お前の一族にこれ程の使い手が…………なにぃぃい!?!?!」
リディアスが喋っている間に全属性の鉈攻撃を素手で掴んで止めた人間が映った。
「バカな… この金髪女…人間か?? それにやはり目が魔人のモノです魔王様!」
「………」
「魔王様? リディアス様?? どうかされましたか??」
「おい、観ろイクシリス!」
「えっ?………」
イクシリスがスクリーンを見ると、そこには先ほどまで金髪だった聖女の髪が深紅に染まりあがった姿が映し出されていた。
「えっ…ええっ!?!?」
その者はたちまち翼を生やし、黒き角を生やし、今まで見たこともない神秘的で圧倒的な魔人の姿へと変貌する。
《ブフーッ!!!!》
今度はリディアスが口からビールを吹き出した。それらがイクシリスの顔面にぶっかかる。
「紅き…魔人だとぉおお!?!?」
「り、リディアスさま落ち着いてください! いや落ち着いていられるかぁ!!」
イクシリスとリディアスは訳の分からない程混乱し、白熱していた。
(あーあ。やっぱり魔王様たちでもそういう反応になりますよねぇーーー。でも、その反応はやはりあの2人とは知り合いではないという事ですよね)
台座に座って映像を映し出しているアーリアは眼前のやり取りを見て憐れんだ。
次の瞬間、紅き魔人が黒炎の魔法を手の平で凝縮し始める。
「何だあれは… 天位魔法? いや、まさか!?!?」
「ゾーラ系でも余のワルキューラでもない…まさかゾディアック系火炎魔法?? 神の領域か!?!?」
「神位魔法ですか!?!?」
「まさか…この者がグランゾーラを屠った者。この紅き魔人……………まさかウル・アルティオロス種か!?!?」
「ウル…… えっ、魔王様、それってもしや上位魔人でございますか!?!?」
『紅き上位魔人… そしてクゥエイスの寝返り… 奴は、奴だけは500年前に上位魔人の先代魔王に仕えていた… つまり、そういう事か!!』
《バキッ!!!!!》
突如リディアスは手に持っていたビールの缶を握りつぶした。残りのビールが泡と共に床に滴り落ちる。
「ふざけるなぁぁああああ!!!!」
『この余が…震えているだと!?!? 馬鹿な… 余は魔王だぞ!? だがこの紅き魔人の畏れ……… このお姿… なんと美しい。余が劣等感を抱くとは…解せぬぅ…解せぬぞぉぉぉおお!!!』
「ヒッ!?」
イクシリスが未だかつてないリディアスの鬼のような形相を目の当たりにして、思わず悲鳴に似た声を発する。
「ク゛レ゛シ゛ェ゛ン゛ト゛よ゛!゛!゛」
「ヒッ……… はッ…はいいっ!!」
リディアスがドスの効いた声でアーリアをビビらせたおかげで上映がそこで途切れる。
「映像だけで音声がないが、貴様は何かこの者たちの会話を聞き取れていないか?」
「かなり遠方からの収録だったため、ほとんど聞き取れなかったのですが… 固有名詞だけはどうにか… 確証は得られませんが!」
「言゛え゛!゛」
「ハひぃ! お、恐らく、白い方がネフィルロッツェ、紅い方がメサリア…だったと思われます!!」
「ほぅ………」
リディアスが立ち上がる。その表情は見えない。
「イクシリスにクレシェント副長、あと外のヴィショップ部隊長にも伝えておけ。戒厳令を言い渡す。このことは他言無用だ、誰にも話すな」
「はっ…はいいっ!!」「かしこまりました、リディアス様!」
アーリアとイクシリスは階級を忘れて並んで背筋を伸ばして良い返事をした。リディアスが部屋を出る。イクシリスとアーリアが部屋の片づけを無言で始めたが、放心状態のようだった。
『上位魔人ウル・アルティオロス種。余の種族の上位互換… 絶滅したと聞いてアレほど恋焦がれていたが、いざ目の前に現れてはこれ程許せぬ存在はない! 余が…仮にも魔王である余が!! 一瞬でもその姿に目を奪われ、魅了され、畏怖するなど…!!』
_____あってはならぬことだ…
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次話「残滓」明日です!
あと感想と評価ほしいです!!




