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シアリーズ

 深い森の中にある錬金術師が集う村で、錬金術に使う道具の作成を生業としていた私は、ある日、『今後は、この二人の住んでいる場所をお前の工房として、そこで住み込みで働くように』と村長に言われ、ふたりの若い女性を紹介された。


 透けるような白い肌を持つ美しい女性が雇い主のアイテール、そして彼女の側で直立不動の姿勢を保っているのが、彼女の助手でコスモスというらしい。


 新しい私の工房だとして案内された建物は、想像していたよりはるかに壮麗で、ところどころ年代を感じさせるところがあるものの、手入れは行き届いており、鈍い輝きを湛えてそびえ立っていた。


 その威容を前に圧倒されてしまった私は、まるで魂に羽が生えて飛んでいってしまったかのように、言葉をなくして立ち尽くすだけだった。


 新たに始まる、これからの生活に対する期待と不安すら、軽く打ち砕いてしまうこのあふれるスケール感と場違い感。


 いろんな意味で身震いさせられてしまう、そんな衝撃(インパクト)を目の前の建物は私に与えてくれた。


 あの二人は実験場と呼んでいたけれど、巨大な尖塔を持つその建造物は、お城のようであり、要塞のようであり、また神殿のようだった。


 元となった建物は、私の祖先が一族の〝恩人〞である、ガイアス師のためだけに特別に築き上げたという、いわくつきの代物だ。


 いや、恩()という表現は正しくないのかもしれない。


 なぜなら、ガイアス師は人ではなく、正真正銘の(ドラゴン)だったのだから。





 ――今より千年以上も前のこと。


 呪いによって翼を折られた白い竜が、この木々に埋め尽くされた樹海の最奥に墜落した。


 怪我と呪いで、身動きをとることができなくなった竜は、森からの転移を諦め、心ならずもその森に住み着くことになった。


 錬金術師の集まりだった私の祖先は、墜落した竜の素材を目当てにこの地へとやってきた。


 森に落ちた竜は、もう死んでいるに違いないと思ってのことだと後世には伝えられてるけど、本当のところはわからない。


 両者の不幸な出会いは、けれど、悲劇には結びつかなかった。


 災厄の代名詞として語られることの多い竜だったけど、傷心の底に沈んでいた()の竜は、私の祖先を滅ぼそうとはしなかった。


 利害の異なるはずのふたつの存在が、紆余曲折の末に選んだ道が、『共存共栄』。


 強力な呪いによって折られていた竜の翼は、疑う余地もなく、もはや二度とは元に戻らないとわかっていた。


 竜はこの地で生きるため、そして私の祖先は竜から叡智を授かるために、お互い共に生きる約束を交わした。


 私の目の前にそびえるこの建物こそ、契約の証として私の祖先がただ一匹の竜のためだけに建造した大きな贈り物。


 ――それともうひとつ、私の一族が竜に贈ったのは、私たちの神の名前にちなんだ『ガイアス』という名前。


 私の一族は、世代を連ねていくごとに、この地への結びつきを強くしていく。


 そして、知と技を授けてくれる偉大な存在に対しては、やがて尊崇の念を込めて「ガイアス師」と呼ぶようになった。


 これが、気の遠くなるような、長く永い物語の始まり。


 私の名前はシアリーズ。


 この物語を今に引き継ぐ、錬金術師の一族の末裔だった。



      *   *   *



「あら、おはよう、コスモス、シア」

「おはようございまーす」

「うぃっス」


 いつもと同じ面子と、変わり映えのない朝の挨拶。


 世界から隔離されたこの箱庭の中で、ただ与えられた役割をこなしているだけのからくり時計のように、ここでは毎日がほとんど同じことの繰り返しだった。


「じゃあ、始めましょうか」


 私がこの〝実験場〞に住むようになってから、かれこれもう10年の歳月が過ぎる。


 だというのに、ここではまるで時が閉じ込められているかのような錯覚すら覚えてしまうほど、いつもと変わらない毎日がつづく。


 それは日常という名の螺旋階段。


 長い道のりを歩いたつもりになっていても、ただ同じところをぐるぐると回っているだけで、実際に動いた距離に直せば、せいぜいほんのわずかに昇っただけにすぎないのと同じこと。


 ――だけど、今日は少しだけいつもと違うイベントが用意されていた。


「あっ、ちょっといいっスか?」

「どうしたのー? おやかたー」

「コスモス! アンタそろそろメンテの時期がきてるっしょ。そんなわけで先生、今日の実験、早めに切り上げたいっスけど、いいスかね?」

「あら? もうそんなに経ったの?」

「そうっスよ。もう実験データもだいぶ溜まってきてるっしょ?」

「そっか。じゃあ、一区切りついたら、しばらく実験から離れて、データの整理と分析を集中的にやりましょうか」

「やったー?」

「一区切りがついてからよ。わかってる? コスモス?」

「わかってますよー」

「んじゃまっ、あっしは今日の分、準備(セッティング)してきますんで、お先にっ」

「あっ、待ってよぉ、おやかたー! いっしょに行こうよー」


 私はそのまま足早に部屋を(あと)にして、実験道具が置いてある工房へ向かう。


 その(うしろ)を、弟子(コスモス)がいつものように騒がしくついてきた。


 私の無駄に優秀な耳は、先生が漏らしたらしい、小さなため息の欠片をひろっていた。



      *   *   *



 ――魔法士兼、航空工学博士アイテール。


 この地で行なわれる研究の全責任を負っている、いわば女王とでもいうべき存在。


 彼女は、翼の折れた白い竜の『樹海の底を抜け出し、もう一度大空の自由な空気に(いだ)かれたい』という強い願いによって生み出された、実験用人造人間(ホムンクルス)


 白竜(ガイアス)の一部から作られた彼女は、この森の中にいる限り、不老不死の存在だった。


 彼女は、ガイアス師の弟子であり、娘であり、研究のための被験体だった。


 生みの親であるガイアス師のために飛行魔法の研究を続け、その結果として、彼の希望を打ち砕くことになった。


 そして()の竜が諦観の中で世を去った後も、ずっと助手のコスモスと二人で研究を続けていた、ある意味世界から呪われた存在だった。


 ――その助手、コスモス。


 彼女は助手以外に、実験場の家事全般を兼務している。


 元は実験用人造人間(ホムンクルス)アイテールの世話をさせるためだけに作られた自動人形(オートマータ)


 ガイアス師が研究から身を引く決断を下したとき、彼女はその知識と技能のすべてを引き継いだ。


 すでに失われかけていた叡智の欠片すら結集して作成された、私の一族の総力を注ぎ込んだ錬金術の最高傑作、それがコスモスという人形の本来の姿。


 先生(アイテール)が竜の願いの結晶なら、弟子(コスモス)は錬金術の結晶だといえた。


 彼女は、ただ(アイテール)のためだけに存在意義を与えられた、同じく世界から呪われた存在だった。


 ――そんな彼女が食料と称し、動力となる魔石を調達に訪ねてきていた村こそ、彼女を生み出した錬金術師の村。


 もう10年も帰っていない、私の生まれ育った故郷(ふるさと)だった。



      *   *   *



 今日も実験はいつもと同じように進められる。


 (シアリーズ)が準備し、先生(アイテール)が動かし、弟子(コスモス)が観測する。


 ただ、それだけのこと。


「じゃあ、始めるわね」


 先生が船に乗り込む。


「船の大きさと形状は前回と同じで、翼の素材も同じっス。翼は4枚でサイズが前10、後ろ3の2枚づつ。少し位置を変更してバランスをとってるっス。そのあたりの詳しい詳細は渡した紙に記載しておいたっスよ」

「こっちは準備いいですよー」

「こちらも問題ないっス」

「そう。では、実験開始」


 先生がフレームに設置してある4枚の擬似翼に魔力を注入し、揚力を発生させる。


 船の内部にある制御版に手を置き、魔力を制御(コントロール)する。


 擬似翼に流している魔力自体は、船に積んでいる魔石から発生させていて、その魔石の出力を先生が制御(コントロール)しているのだ。


 つまり先生がやっているのは、魔力を制御(コントロール)して船を操作すること。


 こうすれば、理屈上は制御版を操作するだけで船を動かすことができるはずだった。


 ただし、やはり墜落のリスクが高いため、いざというとき、空を飛んで切り抜けられるアイテール先生が必然的に被験体に選ばれることになる。


 今では人一人乗せるだけのサイズのものだと、ただ真っ直ぐ飛ばすだけなら問題なくできるようにはなってる。


 ここ最近は、それぞれの翼に流す魔力の量を制御することで、方向転換できないかを試しているところだ。


 一般化を前提とした研究なので、操者にあまり高度な技術を要求しないように考えてはいるのだけど、ある程度は操者の熟練度に期待しなければいけないのはしょうがない。


 現実という壁の前に、こればっかりには目を瞑らざるを得なかった。


 船を空に飛ばすということを実現させるためには、それだけ繊細な制御技能が必要とされるのだ。


「直進に関してはバランス良好。では回頭実験に移行します」

「――っ!」

「りょうかーい」


 先生からの伝達で一気に私の緊張感が高まる。


 取り回しの実験は、もう何十回、何百回と繰り返しているのに、いまだに一度も成功していない。


 問題はバランスの調整。


 船の傾き、風圧の変化、刻々と変わる条件に、魔力量を調整するだけでどこまで対処できるかを確かめている。


 おそらくこの段階には、作業の分担を必要とすることはわかっている。


 船に乗り込むもう一人は、間違いなく私になるだろう。


 今やっている実験はその前段階、分担の範囲を確認する作業だ。


 転覆することを前提とした危険を伴う実験に、先生は躊躇うことなく突き進んでいく。


 こんなものを見せられたら、私だって逃げるわけにはいかないじゃない。


 ――いまさらだけど、これでは私も腹をくくるしかない。



      *   *   *



 私たちが日常的に行なっていた実験は、基本的にデータを採るためのもので、気が遠くなるような道のりを、ひたすら数字を積み重ねて歩いていくようなものだ。


 目先の一歩一歩を積み重ねて、雲の上まで歩いていくような、そんな途方もない夢物語。


 おそらくまったく意図していないと思けど、実験のたびにひたすら研鑽を積み重ねた先生(アイテール)の魔法の制御技術は、間違いなく世界最高峰だし、観測する助手(コスモス)はそのレベルに最適化しているため、毎度恐るべき処理能力を私の前で披露してた。


 たぶん、この二人が行なう実験は、ほかの人の100倍ぐらいの密度があったんじゃないかなという印象だった。


 私も彼女たちの要望を受けて、いろんなものを作成した。


 アイテール先生が目標に掲げる研究のコンセプトは、〝誰もが自由に大空を飛べるように、魔法を利用した飛行理論を確立する〞で、最初は〝個人の飛行魔法〞を目指したけど、いまは方向転換して〝空を飛ぶ翼船の完成〞を研究の行き着く先に定めている。


 今まで誰も考えなかった、『船に翼をつけて空を飛ばそうっ!』なんてことをやろうってんだから、当たり前だけど、最初の内はありとあらゆるものを、手探りで進めていかなければならなかった。


 『とにかく、失敗を積み重ねてゼロから積み上げていくっきゃない』――じつは最初の時点から、私は遥か長い道のりになるだろうことを覚悟はしてたのだ。


 竜骨の形、翼の位置、大きさ、形状、枚数、角度、etc。


 さまざまな組み合わせで実験を重ねてデータを採り、仮説を立てて分析、検証する。


 ちょっとした違いが、結果に大きな差として如実に現れてきては、私たちの頭を大いに悩ませた。


 ――なぜそうなるのか。


 ――なにがそうさせるのか。


 違う翼ごとにタイミングをずらして魔力を込めたときの同期の誤差の許容範囲を調べてみたり、とにかく呆れるほどの徹底ぶりで細かい差異を検証し、わき目も振らずただひたすら実験データを集めていく。


 素材ごとのデータは、私が参加する以前の、過去の実験から流用して使用してた。


 それも含めれば、この研究で得られたデータは、今あるものだけでも、とてもほかではまねできない貴重な財産だと私は思うのだ。



      *   *   *



 ――こうまでして彼女たちを突き動かす情熱の根源は、私の一族の伝説の中で語られていた物語の中に埋もれている。


 彼女たちは、飛べなくなった竜の『もう一度自由に空を飛びたい』という強い願いによって生み出された。


 白竜のガイアス師は、この地で1000年以上ものあいだ、大空を飛び回ることを夢見て空を見上げていたらしい。


 かつて、己が身を其処におくことに疑問を感じたこともない、当たり前に存在した自分のための世界(そら)


 翼を折られ、地に堕とされて以降は、目の前にありながら、決して足を踏み入れることのできない眩い楽園。


 たった一つの願いを、長い年月をかけて強く強く想いつづけるということ。


 その想いはいつしか昇華され、次第に呪いに近い観念へと変化を遂げていた。


 毎日たった一人で、追放された楽園を眺め続ける(ガイアス)の想いは、1000年という時の流れの中で、空を想う純粋な観念として結晶化し、アイテール、コスモスの二人に受け継がれていた――





 ――10年という歳月は、私にとっては長い。


 だけど、1000年という願いの中で生み出された彼女たちにとっては、束の間の出来事に過ぎないのだろう。





 ――それからさらに数十年の歳月を経て、私たちはようやく研究の成果をひとつの形に結実させた。


 悠久の願いの果てに生み落とされた、ひとつの結晶(カタチ)


 最後は、私の故郷の住人総がかりになってしまったけれど、それでも私は人生のほとんどを費やして()()に取り組んできたのだ。


 この中には、私の人生そのものが埋まっているといっていいだろう。


 それが、世界で初めての〝飛空艇〞の誕生だった。


 ――私たちはこの船を〝ガイアス号〞と名づけた――



      *   *   *



 ある日、私は丘の上で空を眺めていた。


 時折、私の頭上を三種類の影が横切っていく。


 鳥が、私の上に影を落とした。


 しばらくすると、また別の何かが私の上を通っていく。


 大きな胴体に、大きな翼。


 竜にそっくりのその(シルエット)は、私たちの作った飛空艇が落としていったもの。


 私の隣で草の上に寝転んでいた先生は、ゆっくり身を起こし、大空から丘の下に視線を移した。


「あそこはね……」


 先生が、いつにない優しい声音(こわね)で私に話しかけてきた。


 先生は、もともとおしゃべりだったはずだけど、飛空艇の完成以後は、あまり会話しているところを見かけていない……


 視線の先を追うと、草が生い茂った新緑の庭が広がっていた。


 あの辺りは、ちょうど先生の部屋の窓からよく見える場所だったなと、私はぼんやりと思い出した。


 ほんの少し前のことなのに、もう遠い昔のことのように思える。


「――わたしのお父さんが、いつも日向ぼっこしていたところ……」


 私は何気なく、曖昧なあいづちを返した。


「ガイアス師の……?」

「ええ……」

「そうっスか」


 私はもう先生の研究にはついていけないだろう。


 毎日、実験に明け暮れ、気がついたら、いつの間にか人生の終着点のすぐ側にまで来ていた。


 ――私はここで行き止まりだが、先生はまだ先を目指すのだろうか?


 そんな私の心の声が聞こえたのだろうか、先生は私に向き直って居住まいを正した。


 コスモスは、いまは調整層の中で眠っていて、丘の上(ここ)にいるのは私とアイテール先生の二人だけだ。


「シア――」

「はい」

「いままで、ありがとう」

「やだな先生。お礼を言うのはあっしの方っスよ」

「そんなことないわよ。あなたがいてくれたから、わたしはここまでこれたわ」

「はぁ……じゃあ、そのお言葉ありがたく受け取らせていただきます」


 私は、先生からいただいた直球(ストレート)な感謝の言葉がなんとなく気恥ずかしくて、思わず初心な小娘のようにうつむいてしまった。


 年甲斐もなく口元が緩み、顔とか真っ赤になっているのだろうなって思う。


 まあ、これはこれで、いい冥土の土産ができたと考えよう。


「それで、先生はこれからどうなさるおつもりで?」

「これから?」

「ええ、あっしはもう空っぽですけど、先生はまだこれからなんスよね?」

「これからは……もうないわよ?」

「えっ?」


 先生は出会った頃と変わらない、子供のような純粋な目で私を覗き込んでくる。


 ただ、その瞳の奥からは、ずっと燃え盛っていた妄執のような情熱が抜け落ちてしまっていた。


 その目を見てしまった私は、〝ああ、そうか〞と、悟ってしまった。


 〝先生はもう呪いから解放されたのだ〞、と。 


 空から堕とされ、地上という見えない檻に閉じ込められたまま、1000年以上の時を、空を見上げて過ごした哀れな竜の痛みと羨望を、一身に背負って生まれてきた先生は、世界からも呪われてきた存在だった。


 自分を生み出した願いのために、老いることも死ぬこともなく、ただひたすら実験を続ける毎日。


 元凶であるガイアス師がとうの昔にあきらめ、世を去ったあとも、彼女は『大空への想い』という呪いに縛られたまま、解放されることなく孤独という業を背負って、コスモスとふたりきりで世界に取り残された。


 だけど、悲願だった『すべての者に空を開放する』という目的を果たしたいま、永劫に続くかと思われた呪いの(くびき)から、ようやく解き放たれることになったのだ。


「ずいぶんと時間がかかってしまったけれど、でももう戻らないとね」

「どこへですか?」


 それは、答えのわかりきった質問だったかもしれない。


 先生はすべてが満たされたような微笑をうかべて空を見上げ、そこにある見えない何かを見つめながら私の問いに答えた。


「お父さんの(もと)へ」


 私の一族は、ガイアス師と交わした誓いによって、身命を賭して永遠に彼の娘(アイテール)を守り続ける役目を負っていた。


 代償としてガイアス師が差し出したのは己の(からだ)


 生きた竜である自分を錬金術の素材として差し出すことで、ガイアス師は一族から永遠の誓約を受け取った。


 先生の言葉は、私の一族がガイアス師と交わした誓約の完遂をも示唆している。


 樹海の底に堕ちた翼の折れた白い竜と、私の一族のあいだで紡がれてきた、永く長い物語が、いま、終焉のときを迎えていた。


 緑で覆われたお気に入りの丘の上に立ち、私と向き合う先生は、私以上に空っぽだった。


 この世に生み出された理由も、願いも、目的もすべてを果たし、自分に与えられた役割は、ひとつも残さずやり終えたということなのだろう。


「じゃあね、シア。わたしからお先に失礼させてもらうわ……」


 別れの挨拶を残し、ガイアス師のもとに旅立とうとしている先生は、いまや寂しさも、喜びも、葛藤も、情熱も、あらゆる感情が抜け去り、どこまでも澄み切った空のように、ただ、そこに在るだけのはかない存在と化していた。


 そして、私の前で存在を薄めつつあった先生は、そのまま空に溶けていき、完全に私の世界から消え去っていった。



      *   *   *



 ――気の遠くなるような時の果てに、彼女たちはついに悲願を果たした。


 もしかすると、それは本当に望んだ形ではなかったかもしれないけれど、それでも関わったすべての者にとって満足のいく結末だったのではないだろうか。


 私の時間も、もうすぐ終わりが来るだろう。


 だから私はここで筆をおこうと思う。




 ――最後に、この物語は、ハッピーエンドで終わったことを記しておきたい――






                 おわり

『空飛ぶ魔法の自由研究 ――かつてその地には竜が住んでいた――』いかがだったでしょうか?

元はひとつの物語を3人の視点で語る3本の短編集にする予定だったのですが、各話の結びつきが思った以上に強く、一本の話としてひとまとめにした方が読み手の人に親切だろうと判断して、元の短編を取り下げ、連載形式で投稿しなおしたものです。

一話ずつ完結した物語としても成立しているとは思うのですが、やはり連載形式でよかったと思っています。


たとえば、一話の冒頭は、後の話数に出てくるシアリーズというキャラクターに対する口説き文句のつもりで書いています。

「わたしはこんなことをやっているけど、あなたにも協力して欲しい」要約すると、こんな感じでしょう。

ちなみに一話のラストの語り部もシアリーズという脳内設定です。


最終話は、裏設定をすべて公開した上での構成にしてあるため、ほかの2本とは語り口が大きく変わってしまい、最初は作品の雰囲気が壊れてしまうことを危惧していました。

しかし、むしろその点も作品の一部だと、最後まで書き上げた後に気付かされました。


自分としては満足いく仕上がりにできたつもりですが、皆さんにはどうだったでしょうか?


最後まで読んで下さり、ありがとうございました。


感想などありましたらお気軽にどうぞ。大歓迎します。

よろしければこの下にある文法・文章評価、物語評価にもご協力をお願いいたします。

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