東砦の戦い
迫り来る傭兵団アルタイルは、陣形と呼べるような隊列を組んではおらず、前方におよそ5千の騎馬、それに続いて1万5千の歩兵が縦長に連なって猛進して来る。
広域殲滅魔法で一気にカタを付けたいところだが、ラキ少年と王都守備隊4人の退却が間に合わず巻き込んでしまう恐れがある。
それ以前に、先頭の敵騎馬が襲来するまでに、術式の展開は間に合わない。
高圧爆風竜巻魔法で先頭の敵騎馬の足を止めるのが精一杯だろう。
王都守備隊の4人はヴァレリーを弓で牽制しつつ、どうにかラキ少年を引きずり、私の後方へと下がった。
彼らはそのまま後方から弓での牽制を続けてくれている。
これなら邪魔をされずに高圧爆風竜巻魔法の術式を展開する事が出来るだろう。
ヴァレリーの背後から敵騎馬が飛び出した瞬間、私の術式も完成した。
しかし、背後からの声が私の魔法を中断させる。
「アイリス殿、後退して下さい!」
敵騎馬の蹄の音で気が付かなかったが、私の背後からも騎馬の大軍が器用に私を避けながら突進して行った。
私は指示通り、その騎馬の後ろに続く歩兵部隊の間を縫って後退する。
傭兵団アルタイルに突進して行った騎馬部隊は、およそ2千の西方騎士団重装騎兵に間違いない。
彼らは雁行の陣で、敵に対して斜めに展開している。
重装騎兵の突撃で、敵の進路が東砦側に大きく逸れ、進軍の勢いも削られた。
そこへ砦の上に設置された大型弩弓からの強力な矢の雨が降り注ぎ、敵の先頭を走る騎馬部隊は完全に瓦解した。
「ヴァレリー、無事か!?」
「っの、クソ猿共が!!」
「あかん、完全にキレとる…。落ち着かんかい、ヴァレリー!」
「うっさいボケぇ!一人残らずブチ殺したる!!」
「無駄や、たった一人で何が出来んねん!」
「やかましい!散々コケにされて黙ってられるかボケぇ!」
「ここは一旦引いて立て直さな、全滅してまうで!デュオ、このアホど突いてでも後退してんか!」
「…クシャナは…どないする?」
「ウチは殿軍や。無事なヤツ連れて必ず合流する!」
「余計な事しくさんなや!ワシが団長やぞ!」
「ええから早よ行けや!頼んだで、デュオ!」
こうして、傭兵団アルタイルは北東方面へと撤退して行った。
西方騎士団歩兵部隊の追撃で半数以上の敵騎馬隊を殲滅する事に成功するが、団長ヴァレリー及び部隊長と思われる人物を討取る事が出来なかった。
しかし、西方騎士団に死傷者は殆ど出ておらず、迫り来る2万の傭兵団を撃退した。
まさに会心の勝利と言っても過言ではないだろう。
ラキ少年を押さえつける王都守備隊と共に、圧倒的な戦を傍観していた私の元へ、騎士団長ローレンスが駆けつけて来る。
「どうにか間に合いましたな、御無事で何よりです、アイリス殿。」
「本当にギリギリだったが、貴殿らの救援に感謝する。」
「滅相も無い…、我々はもっと早く気付くべきでした。護るべき物のため、逆風に向って立つ者こそが騎士であると…。それに気付かせてくれたのはラキ少年、君のお陰だ。」
「オレはオレの信じる事をしただけだ。それにオレはまだ、フェニキアのキツネ共と戦ってない!」
「いやいや、たった一人で大軍に立ち向かうなど、我々とてそう簡単に出来る事ではない。君の勇気が我々を動かしたのだ、この勝利は君が導いたと言っても良いだろう。」
「勝利?まだ終わった訳じゃない。フェニキアのキツネ共を完全に追い払うまではオレの戦いは終わらない!」
「確かにその通りだ、まだ終わりじゃない。南砦の戦況は御存知か?」
「いや、ここからでは何とも…。」
「なるほど、承知した。私は、すぐに南砦の戦場に向かわせて頂く!」
「では、我々も共に!」
「いや、ここは私一人にお任せ願いたい。先程撤退した傭兵団が再び襲撃して来る可能性が高い。貴殿らにはその迎撃をして頂きたいのだが、頼めるか?」
「承知致した。既に北と南の砦にも伝令を放っております。南砦の3千もすぐに出陣出来るでしょう!」
「それは助かるが、敵軍が瓦解するまで待機して頂きたい。私の魔法に巻き込んでしまうのでな。」
「では至急そのように伝令を発します。」
「済まない、では後は任せた!」
「御武運を!」
私を送り出す西方騎士団を背に、激戦が繰り広げられているであろう南砦の戦場へ向けて、私は全速で駆け出した。
兵数では勝るとはいえ、攻勢に不慣れな王都守備隊は苦戦を強いられているに違いない。
一刻も早く私が援軍に駆けつけなければ、撤退を余儀なくされてしまうだろう。
風雲急を告げる南砦の戦の行方は果たして、どのような戦況なのだろうか――
ご意見、ご感想、評価など頂けたら私の魔力も滾りますので、どうぞよろしくお願い致します!




