四属挟撃
深い夜の闇が街道沿いの林を包み、燃え盛る炎の柱が辺りを照らす。
大地に穿たれた大穴の中心には、敵の出方を伺う師匠が、そして彼女の周りを囲むように、精神論講師ブレア、貴族の息子リカルド、魔法学教授ザレン、そして学院唯一の友だったリザが敵意を向けている。
僕は炎に囲まれ、身動きが取れない。
4対1、いくら彼女が王国最高峰の魔術研究機関に所属していたとはいえ、圧倒的に不利な状況だ。
先程の爆発のダメージも、残っているに違いない。
爆発のトリックを看破したとはいえ、新たな敵の登場で、戦いの行方は想像もつかない。
ジリジリと間合いを測る5人の魔術師…、最初に動いたのはリザだった。
彼女の得意魔法、冷気の凍土が急速に周囲の気温を下げ、冷たい霧が師匠の膝の辺りまで立ち込めている。
やはり、対抗戦の時よりも強力な効果を発揮しているようだ。
リザの魔法発動に合わせ、ブレアが術式の展開を開始した。
術式を見る限り、先程の大地の槍撃を使った天然ガス攻撃で間違いないだろう。
「師匠!また天然ガスが来ます!」
師匠は無言で頷くが、行動に出る事が出来ない。
先程とは状況が違い、ブレア以外の3人の行動が予測出来ないのだ。
リカルドは炎の礫で攻撃してくるだろう。
リザは氷の吐息で拘束してくるだろう。
そして、ザレンの行動は全く予想が出来ない。
師匠は高速で術式を展開させ、自らに火の障壁と風の障壁を使ったようだ。
今更気付いたのだが、師匠は火と風、2系統の魔法が使えるようだ。
さすが王国最高峰の魔術研究機関に所属していただけの事はある。
と、関心している場合ではない。
リカルド、リザ、ザレンの3人は待機したまま、ブレアの術式が完成してしまった。
「大地の槍撃!!」
三度目の大地の牙が、師匠を襲う。
やはり師匠は跳躍して上空に回避しようとするが、リザの氷の吐息がそれを阻み、師匠の足を凍らせてしまった。
絶体絶命――
しかし、師匠は諦めていない。
青白い複雑な文字列が師匠の体を取り囲み、膨大な魔力を秘めた術式が展開される。
「高圧爆風竜巻魔法!!」
強力な風の魔法が、師匠に襲い掛かる大地の牙を粉砕し、辺りを包む冷気の霧すらも吹き飛ばす。
もちろんこの暴風ならば、あの天然ガスも霧散したに違いない。
師匠を取り囲む4人に、ダメージを与える事が出来ないながらも、充分な牽制にはなった筈だ。
後はこの状況を打開する方法を、早急に検討しなくてはならない。
いや、僕の考えは浅はかだった。
「リカルド君、今です!」
ザレンの呼び掛けに呼応して、リカルドの放った炎の礫が、師匠の周囲に大爆発を巻き起こす。
先程の爆発よりも凄まじい熱量を伴う爆風が、この場にいる全員に吹き荒れた。
大地の槍撃が発生させた天然ガスを、最大限に収束させたような大爆発。
師匠が暴風魔法を発動させた時、ザレンが何らかの魔法を使っていたに違いない。
爆発の煙が収まり、再び辺りは冷気の霧に包まれる。
師匠の影が、次第にはっきりと輪郭を形成する。
さすがに、無傷では済まなかったようだが、何とか無事に立っている。
「もう誰も殺さねー、殺させねーと思ってたんだがな…。どうやら本気を出さねーと、守りたいもんも守れねーな。これも運命と戦うってヤツか…。」
そう言って師匠は両手に嵌めていた黒いレザーグローブを投げ捨てた。
「私に会った事、あの世で後悔しな!」
師匠の瞳に真紅の輝きが宿る。
両の腕にはびっしりと、まるで悪魔が宿ったように邪悪な術式が刻まれている。
そして、右手の甲に刻まれた紋章…。
アルフォード王国で最強の魔術師が与えられるウォーロックの紋章だ。
千年に及ぶ王国の歴史の中で、たった24人しか与えられていない、最高の栄誉と畏怖を司る生ける伝説。
確かに聞いた事がある。
5年前、24代目ウォーロックの称号を与えられた女性がいるという事を。
それが彼女だったとは…。
僕は驚きと興奮の中、彼女の真の力を目の当たりにするのだった――
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