転生の間にて 1
「あーりーがーとー!! 私の世界を選んでくれてうれしー!! きゃー実物見るとほんとにかーわーいーいー!! え、可愛すぎない? 間違って天使かなんか連れてきちゃった?」
そこは白い部屋だった。少年は、ああ、ここはいつもの病院なんだ、この人は看護師さんなんだ、とぼんやりした頭で思ったが。意識がはっきりしていくにつれ、どうもそうではないことを理解してくる。
部屋は白いように思えたが、実際は白というよりは、柔らかい光に包まれた空間であるようだ。そして目の前の人物……20歳くらいに見える、長くふわっとした銀髪の、美しい女性。服装は見知った看護師のものではない。いや、ある意味では少年には見慣れた、そう……まるで異世界ものの漫画の中に出てくる女神様のような格好を……?
少年は混乱しながらも、恐怖はなかった。なぜなら彼にとって最も信頼できる男が隣に立っていてくれたからだ。
「………………えっ。センセイ? この人誰……? ここどこ……?」
「カタログで選んだろ? この女はその異世界の神様で、ここはいわゆる転生の間ってやつだ。言ってることわかるよな?」
「…………………………………………………………………………………………」
少年は数秒固まり、そして生前には決して出せなかった大声で叫ぶ。
「ええーーーーーーーーっ!!??」
◇
しばらく茫然としていた少年だったが、ようやく現状を飲み込み始めたのか、恐る恐る目の前の2人に質問をする。
「えーっとつまり……あの『異世界カタログ』、本物だったんだ……? センセイ、不思議な人だと思ってたけど……。もしかしてセンセイも神様、なの?」
「俺は人間だぞ? だが、ただの人間ではない。いわゆる霊力を持った人間、『霊能者』だ。だから色んな妖怪とか幽霊とか悪魔とか……神たちにもツテがあってな。あの病室に行ってない間、色んな異世界の神々を訪ねて、連中の世界をプレゼンしてもらった。それを俺が編集してまとめたのが、あの最後に読んでもらった本……『異世界転生カタログ』なわけだ。数多くの異世界モノを読んできたお前なら理解できると思うが」
「異世界うんぬんはともかく、神様にプレゼンさせるセンセイの方が理解不可能かなあ!? 霊能者ってそんなこともできるの???」
「んなわけないですよー。この男は異世界関係なしの元からのチート霊能者ですからー」
「そ、そうなんですね……チート……なら納得かなあ……」
「なんでもチートのひとことで片づけようとするのは異世界ジャンルのどうかと思うところだがな。善き魂には価値があり、神たちの多くは自分の世界に欲しがる。それをうまいこと売りこんだんだよ。お前相手だからこそできた話だ」
姿勢を正し、少年に向き直る女神。
「改めて自己紹介を。私は女神ルミナス。輝ける魂を導く者。初めまして、ふさわしき魂の輝きを持つ者よ。あ、そちらの自己紹介は不要です。過去視でだいたい全部見させていただきました~。神様ですから~」
「ほ、本当に女神様……だったんですね。どうりですごく綺麗な人だと思いました……」
かつての病院にも美人と呼ばれる女性看護師はいたが。少年の目の前にいる女性はその比ではない、この柔らかな輝きに満たされた神々しい空間の中心に鎮座するにふさわしい、柔和な気配を纏わせた人間離れした美貌だ。
「俺からすればお前だって負けてないけどな。いや、むしろお前のが可愛いまである。女神大小2人ってとこだ」
センセイの女神をも恐れぬ不遜な物言いに、イブは小さく抗議する。
「も―センセイ。女神様に失礼でしょ」
「いえいえー。いえいえー……まあ大人と子供の違いを考慮しても、可愛さで言ったらぶっちゃけあなたのほうが可愛い……世が世ならビーナスに嫉妬されてひどい目に遭わされるレベル……。でも容姿もそうだけど、こんな美しい魂の輝きは何年ぶりかしらかしら! 見た目とセットでギランギランで目がつぶれちゃいそう!」
「……て、照れますね…………ギランギランなんだ………先生もギランギランって思ってたの?」
「俺は人間だから神基準のギランギラン具合なんてわからん。お前はお前だよ」
「それで……えっと、確認しますけど! 私の世界に……そう、異世界転生、してくれるんですよね?」
女神がもじもじしながら顔を伏せ、上目遣いでイブを見る。
「そっか……ボク、本当に死んじゃったんだね」
「ああ。最後まで頑張ってたぞ。カタログ読んで、これがいいなって、そんでおまけに明け方まで雑談してたしな」
「最後はあまりよく覚えていないけど。……幸せな時間だった気がするよ」
「そうか。……そうか、なら良かった」
「安らかな最期でしたよー。それでその……確認……」
「あ、はい、わ、わかりましたっ! 転生お願いします!!」
「わーい承りましたー! それでは具体的なお話をしますね! あ、椅子用意しますので座って座ってー!」
女神が指を差すと、何もない空間に白いテーブルセットがふわっと現れる。
「わーすごーい」
「神様ぽいだろ?」
「神様ですけどー?」
◇
テーブルに座り、三角形に向かい合う3人。女神がこほん、と咳払いし、真面目な顔をして少年を見つめて言う。
「――では! 転生するにあたって、まず決めて頂きたいことがあります!」
「一番のお楽しみタイムってやつだな」
「あ、もしかして!」
イブが察し、パッと目を輝かせる。
「はいはーい、ご期待に応えまして! 転生特典であなたが私の世界で行使することができる能力……『スキル』を授けましょう! 私の世界も数多くの量産型異世界の例に漏れず、地球のゲームシステムをパク……参考に創らせていただいてまして、住人の多くはスキルと呼ばれる特殊能力を身につけています。そして! その今あるスキルの中でお好きなスキルをレア度を問わず3つ選んでいただきまーす! そしてそして! それに加えて世界にオンリーワンの、あなただけのユニークスキルを1つ、可能な限り自由に、ご相談のうえで授けましょう! 私の異世界転生の売りなんですよーこれ! やっぱこれが決め手になっちゃいました?」
「違うよな? 自分で決められるパターン、ザラにあるし」
「違いますけど……ほかにスキル65536個くれる世界とかあったし……」
「65536個スキル貰っても絶対持て余すでしょどこの神ですかそれーー!!!」
女神が神らしからぬ形相で目を剥いて叫ぶ。
「だがまあ、異世界神の中にはマジモンのクソスキルだけ授けて危険地帯へポイ、みたいなとこも珍しくないからな。そんなとこはカタログには載せてないが。一万個はともかく、全部でスキル4つってのは、平均からしてもサービスいい方だと思うぞ。貰えるスキルはよく考えるといい。とはいえ、1つは決まってるだろ? 昔よく話してたよな?」
「うん。ボクは元気になりたい。人並みに自由に体を動かしたい。健康な体になれるスキルを希望します!」
少年は女神の顔をまっすぐに見て、そう宣言した。




