第24話 その後の話
判決から数ヶ月が経った。
冬が来て、そして過ぎた。
春の気配が漂い始めた頃、ウィンチェスター商会は、故郷の町から程近い港を新たな拠点として、本格的に動き出していた。
倉庫は整備され、新しい看板が港の入口に掲げられた。
アルバトロス号は修理を終えて帰港し、スワロー号とともに次の航海に向けた準備が進んでいた。取引先との関係も、ウェステリアが一社一社丁寧に回って、ほぼすべてを修復していた。
従業員たちは、生き生きと働いていた。
マーガレットは帳簿を完璧に管理し、トーマスは船員たちを統率し、ピートは倉庫を隅々まで把握していた。
ジャックとサイモンは若さを活かして各地を飛び回り、新しい取引先の開拓に動いていた。
ウェステリアは毎日、その中心にいた。
***
ある朝、ウェステリアが執務室で帳簿を確認していると、トーマスが顔を出した。
「ウェステリア様、今月の航路確認の件ですが——」
「ええ、見ています。スワロー号の出港は来週の火曜でいいですね。荷の積み込みは月曜中に終わりますか」
「問題ありません。ベネットが段取りを組んでいます」
「わかりました。では積み込みの確認は、私が月曜の朝に」
「承知しました」
トーマスは頷いてから、少し口元を和らげた。
「ウェステリア様、最近よくお顔の色がよろしいですね」
ウェステリアは、少し目を瞬いた。
「そうですか」
「ええ。前は——」
トーマスは言葉を選ぶように少し止まった。
「いつも、どこか張り詰めておいででした。でも今は穏やかに見える」
ウェステリアは、書類から目を上げた。
確かにそうだったかもしれない。あのハミルトン伯爵邸での八年間は、どこか落ち着かずに、常に気が張り詰めていた。エヴァンスとの歪も、その頃からはっきりと現れたのかも知れない。
誰かに認められようとしていたわけではないが、力を抜けば何かが崩れると思っていた。
――でも今は、違う。
「……そうかもしれません」
ウェステリアは、静かに言った。
「ようやく、自分の場所にいる気がしています」
トーマスは、深く頷いた。
「それが一番です」
***
更に数ヶ月度__
この頃には会社の経営が軌道に乗って、会社は滞りなく回るようになっていた。
昼過ぎ、ルーレンスが商会に顔を出した。
事業が軌道に乗ってからも、彼はこうして週に二、三度、こうして立ち寄るのが習慣になっていた。
事業の確認という名目もあったが、実際のところは、ただ話をしに来ることも多かった。
「業務は順調そうかな」
ルーレンスは、執務室の書類の山を見渡しながら言った。
「はい。来月の仕入れの見通しも立ちました。インドのルートが安定してきたので、香辛料の仕入れ量を少し増やそうと思っています」
「それは良かった。取引先の反応は」
「概ね好意的です。いくつかの先からは、新しい品目の取り扱いについても打診が来ていて——」
ウェステリアは話しながら、ふと気づいた。
ルーレンスが、帳簿ではなく、ウェステリアの顔を見ていた。
「……どうしたのですか」
「いや」ルーレンスは、少し目を細めた。
「仕事の話をしている時の君は、いつも楽しそうだなと思って」
「……そうですか」
「なんだか目が輝いている」
ウェステリアは、思わず視線を帳簿に落とした。
こういう時、どう反応すればいいかが、まだよくわからなかった。
***
夕方、仕事が一区切りついた頃、
ルーレンスが「少し外を散歩しないか」と言った。
港の外れに、海を見渡せる小高い丘があった。二人はそこに向かって、ゆっくりと歩いた。
夕暮れが始まりかけていた。西の空が橙色に染まり、港の水面が光を受けて輝いていた。
沖には、帰路につく帆船の影が見えた。白い帆が、夕日を受けてわずかに赤く染まっている。
「きれいですね」
ウェステリアは、思わず呟いた。
「ええ」ルーレンスは、ウェステリアと同じ方向を見ながら言った。
「昔からこの丘の景色を眺めるのが好きなんだ」
「良く二人で遊びながら来ていましたね」
二人は暫くの間、二人並んで景色を眺めていた。
幼い頃と同じように、仲良く肩を並べて




