表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一方的に離縁を言い渡されたので、ほぼ一人で経営を任されていた貿易業からもお暇することにしました  作者: 秋名はる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/26

第23話 離婚調停2

審理が始まると、ウェステリア側の弁護士は証拠を順番に提示した。


まず、ハロルドによる調査記録。

エヴァンスがルイーゼの邸宅を定期的に訪れていたこと、邸宅の家賃をエヴァンスが負担していたことを示す証書。


次に、ウェステリアがエヴァンスの執務室から回収した手紙の現物。エヴァンスからルイーゼへ宛てたもので、その内容は二人の関係を明確に示していた。


そして最後に、殺人未遂の証拠として、現場に駆けつけた警官たちの証言が読み上げられた。

弁護士が証拠を一つ提示するたびに、傍聴席がざわめいた。



***



エヴァンスの弁護士は、正面から争うことを避けた。


代わりに持ち出したのは、奇妙な逆転の論理だった。


「ウェステリア・ハミルトン夫人は、ウィンチェスター侯爵と親密な関係にある。この事実こそが、今回の一連の騒動の根本にある。夫人は侯爵と通じ、商会を不当に奪取し、夫であるエヴァンス・ハミルトン伯爵を罠にはめた——」


法廷が、どよめいた。


ウェステリアは、顔色を変えなかった。

この手を使ってくることは、ある程度予測していた。


弁護士がすかさず立ち上がった。


「異議あり。被告側の主張は、証拠のない臆測に基づくものです。ウェステリア夫人とウィンチェスター侯爵の関係は、幼馴染としての交友であり、被告の不貞とは何ら関係がありません」


裁判長が、静かに制した。



「被告側は、主張を証拠に基づいて行うこと」



***



しかし、エヴァンスはそれでも引き下がらなかった。



証言台に立ったエヴァンスは、法廷を見渡してから口を開いた。


「私は妻を愛していた。しかし妻は、私の知らないうちにウィンチェスター侯爵と交流を深め、商会を乗っ取る計画を進めていた。私が強硬な手段を取ったのは、それに対する正当な抵抗だ」


傍聴席がまたざわめいた。


その時、ルーレンスが証言台に進み出た。


法廷全体の視線が集まった。侯爵という身分の人間が自ら証言台に立つことは、珍しかった。


ルーレンスは、静かに、しかし明確に語った。


「ウェステリア・ハミルトン夫人と私の関係は、幼い頃からの旧知の間柄です。彼女が困難な状況に置かれていることを知り、幼馴染として協力を申し出た。それ以上でも、それ以下でもありません」


「ウィンチェスター侯爵」


エヴァンスの弁護士が口を挟んだ。


「しかし、既婚女性と二人きりで会合を重ね、屋敷に住まわせるというのは——」


「彼女の身の安全が脅かされていたからです」


ルーレンスは、落ち着いた声で答えた。


「私がウェステリアと再開するより前に、彼女は自身の夫から離縁を突きつけられていました。彼女としてはそれを受け入れ、離縁の書類にサインを済ませていた。


にもかかわらず、エヴァンス自身がその書類を提出せず、不当に夫婦関係が継続していると言い張った。これは、エヴァンスが自身の私欲のために彼女を利用しようとしていたからにほかなりません」


ルーレンスは更に続けた。


「一度、彼は私の貿易会社の事務所に押しかけてきたのです。彼女を無理やり連れ去ろうと。私は、会社の経営者として従業員を守り、彼女を匿ったに過ぎません。

現に、被告は彼女に銃口を向けた。私の判断は正当なものだったと考えます」


法廷が、しんと静まり返った。


その沈黙の中で、ルーレンスはウェステリアの方を一瞬だけ見た。

目が合うと、ウェステリアはわずかに頷いた。



***



次に、証言台に立ったのはウェステリアだった。


裁判長から、エヴァンスとの婚姻関係について問われると、ウェステリアは落ち着いた声で答えた。


「結婚から八年間、私は夫の名義で営む貿易業の実質的な経営を担ってきました。船舶の維持管理、商品の受発注、従業員の労務管理——それらすべてを、私が一人で行ってきました。夫はその間、経営にほとんど関与していません」


「離縁の申し出は、どのような状況で」


「突然でした。理由として夫婦生活の倦怠を挙げられましたが、その直後、夫がルイーゼ・クロスという女性と町で親密にしているところを目撃しました。その後の調査で、二人の不貞関係が明らかになりました」


「屋敷への潜入については」


「不貞の証拠を得るために必要な行動でした。私はかつてあの屋敷の住人であり、不法侵入とは言えないと判断しています」

 

弁護士が、静かに補足した。


「この点については、法的な解釈として、夫婦関係が継続している間の配偶者の行動として正当性が認められます」



***



審理が進むにつれて、形勢は明確になっていった。


エヴァンス側の「逆不貞」の主張は、証拠が一切なかった。

一方、ウェステリア側の証拠は具体的で、警察の記録という公的な裏付けもあった。


最終的な判決は、三日後に言い渡されることになった。


法廷を出る時、ウェステリアは秋の空を見上げた。高く澄んだ青が、どこまでも広がっていた。


 ——もう少しだ。


そう思いながら、深く息を吸った。秋の空気が、肺の奥まで入ってきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ