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山羊の謝罪回り

「申し訳ありませんでした、ミチルさん」


 上空から降りてきたミルクさんに頭を下げられた。


 なんかミルクさん、出会った頃も謝っていたよね。


 別に本人が悪い事をしている訳でもないのに、関りのある人のせいで謝ってばかり。ミルクさんは良い人だから、そういう運命なのかもしれない。


「つまり、この村の事は全て先輩の差し金だった訳ですね」

「……はい、その通りです」


 ミルクさん曰く、先輩は私が女神になって初めにこの村を訪れると思っていたらしい。


 そこで私に、女神ライフの厳しさと、女神らしい行い、そして救済を与えようと算段していたみたいだ。私に襲い掛かる村人も、病気になっていた子供も、アグロンの甲羅とそれに対するお礼も、全て先輩の思い描いた作戦だったという事だ。


 ただ、この村が先輩のお陰で救われたのは事実であり、ミルクさんはその時に帯同していた天使らしい。だからあんなに村の人達に慕われていたんだね。


 確かに、思い返せばちょっとワザとらしい展開だったかもしれない。


 いかにも先輩らしいやり方だ。

 バフォメットが来なければ、分からないままこの村を離れる所だったよ。


 流石の先輩も、私がバフォメットの悪魔を怒らせる事は予測していなかったみたいだね。


「先輩が私に努力しながら女神として成長してもらいたい、という思惑は分かりました。でも、ミルクさんは正体を明かすつもりはなかったんですよね? せっかくだから色々とお話しがしたいですし、最後にでも教えてくれても良かったんじゃないですか?」


 よく漫画とかであるよね、去り際に実は私の正体は、という奴が。

 シスターのミルクさんと、智天使のミルクさんでは聞ける話も変わってくる。


「いえ、その、それだとミチルさんにとって良くないらしいので……」


 ミルクさんは少し言い辛そうにしていた。

 ん? どういう意味?


「それはミチル様に災いが起こるという事ですか?」


 クロウサが真面目な顔でそう聞いた。


 いや、もう災いなら起きているよ。

 山羊頭の悪魔と物凄く強い邪神に襲われるって、もはや災害だよ。


「いえ、そんな事は決してありません」


 ミルクさんは慌てて首を横に振った。

 しかし、真面目なクロウサはそれを気遣いと受け取ったようだ。


「ミチル様に気を使って頂くのは有り難いのですが、既にミルク殿の正体をミチル様は知ってしまいました。なので、その良くない事を教えてください。私が全力でミチル様を御守りしますから」


 なんと主人思いなウサギなのだろう。


 クロウサの真剣具合に、ミルクさんは申し訳なさそうに答えた。


「いえ、その逆なのです……ハルコ様が仰るには、その、ミチルさんが私を智天使だと知ったら、色々と利用するからと……」


「なるほど、お主はお人好しじゃからな」


 バフォメットが納得したように頷いた。


 失礼な。

 なんと失礼な理由でしょう。


 つまり先輩はミルクさんが先輩の智天使だと知ったら、そのお人好しさを利用して色々と女神ライフを楽に進めるヒントを私が聞き出そうとするから、秘密にしようとしていたんだね。


 なんと嘆かわしい事だろう。


 先輩が後輩を信頼しないとは。これは侵害ですね。

 私でなかったら、裁判沙汰ですよ。


 ……うん、良い事を聞いた。


 ありがとう、クロウサ。

 存分に甘えよう。ミルクさん、助けてください。


「ミルクさん、こんな所で立ち話もなんですから教会に戻りませんか?」


 私はとても良い笑顔でそう提案した。

 貴族の令嬢時代につちかった作り笑い。

 騙し合いの中で生きた経験が私にはある。


 人の良いミルクさんは勿論、見抜けなかったようだ。


 手をポンと叩いて私の意見に賛同する。


「まあ、それはとても良い案ですね。疲れたでしょうから、緑茶を用意しますよ。バフォメットさんも如何ですか?」


「余は、もっと美味い物が飲みたいのじゃ」


「もちろん、御用意しますよ」


「やったのじゃ!」


 なんかこの邪神、普通にミルクさんと仲良さそうだね。


 先輩の事も知っているみたいだし、やっぱり悪い邪神ではなさそうだ。

 というか、教会に邪神が行くってシュールだね。


「あっ、そうじゃ」


 ミルクさんに付いて行こうとしたバフォメットが立ち止まって、急に駆け出した。


「少し、待て」


 そのまま倒れていた山羊頭の悪魔に近付いて行く。


「いつまで寝ているのじゃ、起きよ」


 バフォメットはしゃがんで、山羊頭の悪魔の後頭部をペシリと叩いた。


 そこ、クロウサが斬った所なのですけど。

 というか、もう深い眠りに付いて起きないと思うのですが。


「……ううむ、はっ、バフォメット様!」


 そう思っていたが、山羊頭の悪魔はあっさりと起きた。


 起きたかと思うと、バフォメットを見て真っ青な顔になり、すかさず土下座する。


 それはもう、早かったです。

 とても寝起きが良いようだね。


「申し訳ありませんでした!」


「うむ、その殊勝な態度に免じて今回だけは許してやろう。だが、迷惑を掛けた者達にも謝ってこい。終わったら、反省文を書いて提出せよ」


「はい、畏まりました!」


 ……なんか、見てはいけないものを見たような気がする。


 ゴツイ悪魔が小さい少女にペコペコと頭を下げている。

 まあ、それだけバフォメットが偉大な邪神という事だろう。


 山羊頭の悪魔は真っ先に私達に頭を下げてきた。此方が気の毒に感じるくらいに。


 いやね、確かにこの悪魔はやり過ぎたけれど、最初にやったのは私だし、なんというか可哀想になってきた……


「いや、もう良いよ……」

「ミチル様がそう仰るなら、私も良い……」


 クロウサも若干ひいている。


 地べたに額を擦り付ける土下座なんてされるとは思わなかったよ……


「有り難うございます、有り難うございます」


 そのまま山羊頭の悪魔は村の中に消えていった。きっと、恐がらせた村人達に謝りに行くのだろう。余計に恐がらせるだけだと思うけど。案の定、村人らしき悲鳴が聞こえて来たし。


「ちょっと、気の毒ですね……」


 あの悪魔に片翼を斬られたクロウサが、同情したように呟いた。


 それに対してバフォメットは冷たく言い放つ。


「ふん、余の評判を下げた罰じゃ」

「評判って、邪神にとって恐怖の対象とかが信仰の元じゃないの?」


 女神の私が言うのもなんだけど、山羊頭の悪魔は立派に悪魔らしい行為をしていたと思う。


「やり方というものがある。あ奴は品がない、困ったものじゃ」


 そう言って、バフォメットは溜め息をついた。


 そんなの、気にするんだ。

 まあ、ただの恐怖政治だとそんなに信仰してもらえないものね。


「あ奴の事はもう良い、さっさと行くぞ」


 村人の悲鳴と、山羊頭の悪魔の困ったような叫びが木霊した。


 バフォメットがさっさと教会の方に歩いて行く。


 ミルクさんはそんな悪魔に祈りを捧げていた。


「ああハルコ様、あの哀れな悪魔を御救いください」


 いやね、その祈りはどうかと思うんだ。

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