第二話
新蔵の言葉に五平と宗吉は一瞬目を丸くした。
そして何も言わずに二人はただ下を向いた。
忠次郎はこのような軽口は新蔵らしからぬとは言え、下手な戯言と捉えていた。
「ははは、何を言っているんだ、新さん。いくら人が来ないからって、ちと冗談が過ぎるぜ。」
忠次郎が困ったように笑いかける。
だが誰もそれには応えなかった。
重い沈黙がそこにはあった。
忠次郎はそこでようやく状況を受け止めるに至った。
「なァ、忠さん。あんたも苦しいんだろう?」
宗吉がその沈黙を破った。
だが年長者にはめったに言い返さない忠次郎ではあるが、このときは違った。
「だからってそいつは殺しじゃねえか。人を殺してまで客を集めたいのかい?」
「人聞きの悪いことを言うんじゃねぇ!」
暫く忠次郎の挙動を見つめていた新蔵が声を上げた。
新蔵は勢いよく立ち上がると、忠次郎の襟元を乱暴に掴み上げた。
「いいか?人殺しって言うのは、死にたくない奴の命を無理に奪うことだ。俺たちがやろうとしているのは死にたい奴を呼んで、ここで勝手に死なせるだけだ。」
「でも新さん。いくら俺が馬鹿だからって、死にたい奴を助けるのも人殺しと同じくらい悪いことだって分かるよ。」
忠次郎は半泣きであった。そこには最早、所帯を持つ還暦前の男の威厳はなかった。
「まァ、新さん。落ち着きなよ。忠次郎もここは年長者の言うことを聞きな。悪いようにはしないぜ。」
五平が二人を宥める。
「取り敢えず、今どのくらい死にたい奴がいるのかを倅に聞くことにするよ。あいつも東京で勉強出来るかは親の金次第てことくらいはァ、分かってるだろうよ。」
こういう時の五平の言葉には妙な説得力と安心感があった。
「そうだな、詳しいことが分かってから色々と決めりゃ良いや。」
「何も今日明日に決めることじゃねぇや。」
皆そう口々に言い、一旦は開きとなった。
奇妙なものではあるが、このとき皆どこか安堵していた。
やはり忠次郎以外も奥底では、自分たちがやろうとしていることは、人の道に悖ることだと認めていたのではないだろうか。
今日ではない、また今度。あわよくばこんなことは皆忘れてしまったら良い。
そう心の中で呟いていたに違いない。
しかしこの平穏は僅か五日で終わった。
五平の倅から電報が届いたのだ。
町へ買い出しに行ったついでに打った電報が、こんなにも早く返ってくるとは、五平自身も驚きであった。
「イイハナシアル オツテツタエル」
四人は、かくして否応なく覚悟を定めるほかなかった。
(続)




