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愛する旦那よりも先に、愛しい息子が出来ました  作者: メグリくくる


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第68話

「それでは、ラルヴァ男爵の要求に従い、新たな証人を――」

「馬鹿な、こんな事、許されるわけがない!」

「無効だ! こんな裁判、無効だ!」

 クラムラクモリック伯爵の言葉を、オスコとトデンダーが遮る。

 クラムラクモリック伯爵はその声に眉をひそめ、木槌を鳴らしながら口を開いた。

「静粛に、静粛に! 審議はまだ続いているのですよ」

「クラムラクモリック伯爵。この二人の証人から聞きたい話は、今しがた全て聞き終えました。この耳障りな犯罪者たちを、即刻強制退出すべきだと吾輩は愚考いたしますが、いかがですかな?」

 その言葉に、クラムラクモリック伯爵は重々しく頷く。

「そうですね。では、憲兵は即刻その二人を――」

 

「ちょっと、お待ちになってくださいませ!」

 

 そう言った私に対して、この場にいる全ての人間の視線が向けられる。

 その視線の殆どは、オスコやトデンダーのように両の目を見開いていた。

 突然彼らの退出を止めた私に、驚いているのだろう。

 一方僅かながら、忌々し気に目を細める人の姿もあった。

 その筆頭となるのが、ラルヴァ男爵だ。

 しかし、唯一一人、全く違う反応をした人がいる。

 それは――

 ……ユーリックブレヒトは、気づいておりますのね。私のやろうとしている事に。

 淡々とした表情を浮かべ、ユーリックブレヒトはこちらを一瞥すると、僅かに立上があり、座る位置を直した。

 まるで、お手並み背景とでも言っているかのような態度だった。

 きっと彼も、先ほどまでのやり取りに、重要な情報が含まれていると知っているのだろう。

 ……そういう態度が出来るっていう事は、だいぶ調子を取り戻しましたのね。

 そう思っている私に向かって、クラムラクモリック伯爵が木槌を鳴らしながら口を開く。

「どうされたのですかな? セラ公爵夫人。進行を妨げるのであれば、あなたであっても退出を命じなくてはなりませんが?」

「それはいい。是非そうして頂きたいものですな、クラムラクモリック伯爵」

 そう言ったラルヴァ男爵を睨みつけた後、私は口を開く。

「生憎、進行を妨げる発言ではありませんわ? ラルヴァ男爵。むしろその逆で、裁判を進めるために発言を求めたのです」

「どういうことでしょうか? セラ公爵夫人」

 首を傾げるクラムラクモリック伯爵に向かい、私は大仰に頷いた。

「簡単ですわ、クラムラクモリック伯爵。裁判に証人を呼んだということは、それはすなわち証言を求めるためですわね」

「それは、今しがた済ませたでしょう。ユーリックブレヒト公爵が、ジメンドレ前公爵夫人をどの様に毒殺したのかについて」

「つまり、ラルヴァ男爵の質疑が終わった、ということですわよね?」

「簡潔にお願いできますかな? セラ公爵夫人」

 クラムラクモリック伯爵に、私は微笑みかける。

 そして求められた通りの、簡潔な答えを口にした。

 それは――

「つまり、私の証人に対しての質疑ですわ!」

 そう言った私の言葉に、オスコとトデンダーが狼狽する。

「あなたが……」

「わたくしたちへ、質問を?」

 オスコとトデンダーの戸惑いの声に、ラルヴァ男爵は苛立たし気に声を荒げる。

「何をおっしゃいますやら、セラ公爵夫人。彼らは吾輩が呼んだ証人ですぞ? それなのに、一体何の権限で彼らと言葉を交わそうというのです!」

「あら? あなたがおっしゃったことですわよ? 弁護人席に座っても結果は変えられない、と。つまり、あなたはこの場で、私がユーリックブレヒトの弁護人であるという事を認められたわけですわよね? でしたら当然、私にはラルヴァ男爵が呼んだ証人の発言について、質疑をする権利が与えられていると思うのですけれど?」

「言葉の揚げ足取りをっ!」

「クラムラクモリック伯爵!」

 私は両手を広げながら、クラムラクモリック伯爵に迫る。

「この質疑は、今回の裁判で非常に重要な証言となります。是非許可を」

「ふざけるな! そもそも、あいつらはセラ公爵夫人と敵対関係にあったのですよ? あの二人が、あなたの質問に素直に答えるわけがない!」

 そう言ったラルヴァ男爵を、私は鼻で笑う。

 ……全く、この男は、本当に人の気持ちというものが理解できておりませんのね。

 いや、そうでなければ、アシュを道具のように使おう、という発想は出てこなかっただろう。

 だからこそ逆に、そこが私がつけ込む隙になる。

 私はオスコとトデンダーへ視線を向け、腕を組んで対峙した。

「ラルヴァ男爵は、ああおっしゃっておりますけど、いかがです? 私の質問に、この場に残って、答える気はございますの?」

「……はい」

「……なんなりと、お聞きください」

「ば、馬鹿な! 何故だ? 今更何を言った所で、この裁判の結末は変わらないというのにっ!」

 意味がわからないとばかりに、ラルヴァ男爵が首を振る。

 オスコとトデンダーがラルヴァ男爵の言葉に従わなかったのは、男爵が彼らを裏切ったのも理由の一つだ。

 だが、一番大きな理由は――

 ……ユーリックブレヒトがいる場所に、少しでもいたいからですわよね。

 オスコとトデンダーの願いは、ユーリックブレヒトに仕えることだ。

 なら、たとえどれだけ私の事を嫌っていても、彼らはユーリックブレヒトがいるこの場所に留まる選択をするのは、自明の理というものだろう。

 特にラルヴァ男爵が、自分たちとの約束を果たすきがない、ということがわかっているのなら、なおさらだ。

 彼らは罪人であり、もうユーリックブレヒトの姿を拝めるのは最後になるかもしれない。

 であれば、その時間を一秒でも長くしたいと考えるだろう。

 ……まぁ、ユーリックブレヒトに陶酔しすぎて、アシュに手を出そうとしたことは、決して許しませんけれど。

 だが、私もアシュと、そして彼の父親であるユーリックブレヒトのためにならば、心の底から嫌っているオスコとトデンダーとも言葉を交わす準備がある。

 クラムラクモリック伯爵に視線を向けると、彼は木槌を鳴らして、口を開いた。

「セラ公爵夫人の質疑を認めます」

「ありがとうございますわ、クラムラクモリック伯爵」

 歯ぎしりするラルヴァ男爵をよそに、私はクラムラクモリック伯爵へ一礼する。

 そしてその後、改めてオスコとトデンダーへ向き直った。

「良かったですわね。もう少しだけ、ユーリックブレヒトと一緒にいられますわよ」

「……私たちに、恩を売ったつもりですか?」

 忌々し気な表情を浮かべるオスコに、私はハッキリと首を横に振る。

「いいえ、違いますわ。これはユーリックブレヒトにとって、必要なことなんですもの」

「ユーリックブレヒト様に?」

「それで? わたくしたちへ、一体何を確認したいというのでしょうか?」

「お二人は先程、ユーリックブレヒトがジメンドレ前公爵夫人を毒殺したと、そうおっしゃいましたわよね?」

 私の言葉に、二人はハッキリと頷く。

「はい、その通りです」

「では、その時ジメンドレ前公爵夫人は、どの様に亡くなられたのでしょう?」

「クラムラクモリック伯爵!」

 私とオスコの会話に、ラルヴァ男爵が割り込んでくる。

 男爵は喋りだした勢いそのままに、一方的にまくしたてた。

「ジメンドレ前公爵夫人がお亡くなりになられた時の状況については、すでに吾輩がこの場で明らかにしております! 同じ質問を繰り返すのは、明確な裁判の遅延行為ですぞっ!」

「セラ公爵夫人。質問を変えてください」

「では、こう言いかえますわ。ユーリックブレヒトの入れた紅茶を飲んだジメンドレ前公爵は、すぐに血を吐きましたの?」

「いえ、少しの間は粘っていたかと思います。スコーンも一口か二口は口にしていたはずですから」

「その後、奴は血を吐き出して死にました。拳のような、血の塊を」

「わかりましたわ。私の質問は、以上で結構です」

 そう言って私は、ユーリックブレヒトの隣まですました表情で戻っていく。

 そんな私の姿を、オスコやトデンダーだけでなく、クラムラクモリック伯爵を始め、全ての傍聴人達が意味がわからないという表情を浮かべて見つめていた。

 だがすぐに、ラルヴァ男爵の苛立たし気な声が響く。

 

「ええい、早く吾輩の新しい証人を呼べ! 今すぐにだっ!」

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