隠し通路は男のロマン(主人公は女)
オーブ発見から二日、ついにオーブが五つ揃った。
つまり遺跡探索班総動員で残り四つの石像を制覇したということ。
私も何度か石像との戦闘に同行したのだが、想像していたよりも役に立つことができて自分でも驚いた。山に籠ってピッケルを振りまくってたからかな、筋肉がついたのだろう。嬉しいような嬉しくないような。
そんなこんなで、オーブも集まり、台座の穴にオーブを入れてみることに。
オーブを集め終わった次の日、一日空けて強い騎士や狩人が台座のある休憩所に集まった。
他の人がそれぞれ青、黄、緑、紫。のオーブを台座に入れる。最後に私が入れ、全てのオーブが台座に置かれた。
オーブが光り、同時に地面が揺れる。ここまでは想定済み、なのだが。
部屋の中央の地面が崩れ、数人が尻もちをつく。怪我人はいないようだ。何事だろうか。
「階段だ!」
「ナニィ? いやいや、瓦礫が邪魔で通れない隠し通路とかあるか普通?」
「古代文明だからな、それは仕方ない」
狩人とみられる人たちが階段を覆う瓦礫を運ぶ。確かにこういう隠し通路というものは一度発動するとすぐに通れる通路が現れるイメージだが、まさか通れなくなるほど崩れるとは。古代人め手を抜いたな?
だってあそこまで強力なトラップを作れるのにここだけ雑とかおかしいし。
「通れるようになったぞ!」
「しっかし広そうだな。分かれ道があったら分散でいいよな?」
「それでいいだろう。行くぞ」
私はよく知らないがおそらく強いんだろうなという人たちが階段を降りていく。
瓦礫を運んでくれた人を置いて先に進むのは気が引けたが、疲れてるようなので遠慮なく先に行かせてもらおう。
階段を降りると、その先には分かれ道がいくつもあった。またもやオーブ集めかとため息をつく。
「やはり分かれ道か。各自私の指示に従って分かれろ」
誰だっけあの偉そうな金髪。ダルクだ、思い出した。
ダルクの指示に従い複数の班に分かれる。私たち三人ともう一つのグループが組んで途中まで探索したのだが、その先でも分かれ道があったので実力からして安全と判断され、二手に分かれるように。
そうして結局私たち三人での探索になった。
「…………あ、階段だ」
何度かおなじみのゴーレムとの戦闘をした後、通路の奥に部屋を見つけた。
そしてその部屋の中心に地下へ続く階段があったのだ。
「どうするでありますか?」
「行けるところまで行ってみよう。危なくなったら報告しに行けばいい」
少しだけ、あのダルクとかいうやつに自分たちが実力者だということを見せつけてやりたくて、ちょっとだけ意地になっている。
こうなったら行けるところまで行ってやるさ。数体ゴーレムが来ても全く困らないのだ、まだまだいける。
「ねえ、なんか……変」
「何が?」
歩いていると、ポコがそう言いだした。私は何も感じてない。何が変なのだろうか。
「言われてみれば、確かに変でありますね」
「え、だからなんでよ」
「魔力が少ないの。階段を下りてから変だなって思ってたんだけど、二つ下りてから絶対おかしいって思ってさ」
「魔力が?」
魔力が少ないか……だとしたら原因は何だろうか。普通地下に行けば行くほど魔力は濃くなる。
ここは山の上なのでそれはそこまで関係ないとして、そうなるとトラップか、魔物か。
魔力を吸い取ってくる魔物がいるのかもしれない。それは危険だ、空気中の魔力も少ないので魔力回復ができないかもしれない。
「っ!?」
ゴオオオオオオオオ……と思いうなり声が聞こえた。人間ではない、魔物でもないだろう。
だとしたら魔獣? しかしなぜこんなところに。仮に魔獣がいたとして、それは私たちの手に負える相手なのか。
「いるね」
「うん。慎重に行こう」
慎重狩人だ。『この狩人が私TUEEEくせに身長小さすぎる!』
やかましいわ。小さくないわ。
先程のうなり声は下から聞こえた。ということはさらに下に降りる階段があるということ。
再びいくつかの部屋を見つけ、階段のある部屋を探し出す。また地下だ。どんどん潜っていく。
「ここ、魔力がもうほとんどないよ」
「うん、流石に私でもわかるよ」
三つ目の階段を下りた通路は、本当に魔力がほとんどなかった。
普段との空気の違い、力の入り方、それが丸っきり違う。この状況で満足に戦えるのか。
ゴーレムも一発で倒せなくなってきた頃、今までとは雰囲気がまるで違う部屋があった。壁の一部が黒く変色している。
「な、なにかあるよ」
巨大なその部屋は、暗くて全体がよく見えない。
いつもはポコに魔術で明るくしてもらうのだが、魔力が限られている今、それは得策ではないだろう。
「隊長、お願い」
「了解であります」
隊長に頼んで明るくしてもらう。使い捨ての照明らしい。
その道具を使用すると、部屋全体がほのかに明るくなる。今まで暗闇だった部屋の奥も、明かりをつけたことによってより鮮明に視認できるようになり……
「わあああああ!!!?」
「きゃああああ!!」
「なんですとおおおお!!!」
三人の悲鳴が同時に響く。
部屋の奥にいたのは、以前倒したドラゴンよりも大きい魔獣だった。縦の二本角で、背中に真っ黒なトゲがある。身体の色も黒ずんだ紫色であり、禍々しいことこの上ない魔獣だ。
魔獣をまじまじと観察できるのには理由がある。なんと、鎖に繋がれているのだ。
魔獣はうなるだけで動く気配はない。しかし鎖は今にも千切れそうなほどボロボロだ。
「えーっと、ベヒモスか……ベヒモス!?」
魔獣の姿に心当たりがあったので魔獣の本で調べると、そこにはベヒモスと書かれていた。
ベヒモス。厄災の獣。周囲の魔力を吸い取り、自分の魔力として使う魔獣。魔力はベヒモスの食糧でもあり、食事をしなくても生きながらえることができる。
まあつまり魔力が無いのはこいつが原因だ。
「どうするの?」
「どうするって、勝てるわけないじゃん。ここは戦略的撤退かな」
「まあそうでありますよね。ってきり戦うかと思ったであります」
「え、あれ勝てる? 無理だよ? 壁じゃん、めっちゃ獰猛な壁じゃん。しかもここ読んでみてよ、厄災の獣だってさ。王国滅ぼすのこいつでしょ」
王様が恐れていたのはこいつだ。中途半端に目覚めさせたらそれこそ王国が滅びかねない。
私のせいで滅びたとか絶対嫌だ。やるなら最大戦力で戦う。
「あーえっと、ドルクマ? ドル箱……ドルマ! じゃなくて、ダルクを呼ぼう。話はそれから」
「呼び捨てでありますか。流石であります」
「うむ。では撤退じゃ!」
魔獣を刺激しないようにゆっくり部屋から離れ、階段に戻る。壁に印をつけながら、他の狩人や騎士を探す。
こうして、明らかに戦力が足りていない私たちは協力者を求めて来た道を戻ることにした。




