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アバえもん

 丘を越え、景色が山岳地帯に変わる。

 木々は見られるが、やはり急な崖や岩肌が目立つ。

 こういった開けた土地には動物も少ない。鹿のような山で生活する動物ならばいるが、草原にいる動物はまずいない。

 故に、土地が余る。何もいない土地が多いとどうなる。そう、魔物が湧く。魔物が湧くとどうなる。そう、危険になる。


「うららららららららら!!!」


 行く手を阻む魔物を片っ端から殴って進んでいく。アバンの武器は短剣のようだ。探検だけに? ははっ、つまんな過ぎでしょ私。

 この辺りの魔物はゴブリンやコボルトのみ。人型なので最初は躊躇したが、三体を倒したあたりで気にしなくなっていた。あれはただの魔力の塊である。殺せ。


「ふいーーーーー! やりましたわ」

「結構奥まで来たねー。隊長はなんで短剣を使ってるの?」

「あまり戦闘の練習はしなかったのであります。吾輩が通っていた学校は運搬などのサポートに特化した勉強だったので、最低限戦える能力しか身に着けてないのであります。あ、それこそ魔獣を足止めしたりするのは得意でありますよ!」

「サポート……わたしと被ってるぅ!!」


 確かに。サポートと言えばポコ。ポコと言えばサポーターだった。

 回復も、今日かも、防御も、ポコがやってくれた。私は攻撃に特化した役割だが、ポコは色々なことをやっている。もうポコなしでは戦えないのではないか、そう思ってしまうほどに助けられていたのだ。

 そこでいきなりサポートが二人になったら、ポジションを奪われてしまうかもしれない。ここは気を使った言葉を選ばなければ。


「あー、ポコとはまた違ったサポートなんじゃないかな?」

「そ、そうでありますよ! 魔術師のように華麗に美しい技は使えないであります! 吾輩が使えるのは、道具を利用した狩りであります!」


 道具を利用した狩り? ポコが錬金術を使って作る道具を、アバンが利用する……これはなんて効率的なんだ。アバン自体も嫌いな性格ではない。当たりを強くしているのはまだアバンという人間を知らないからだ。

 仲間になるとなれば、評価がさらに変わってくる。今まではいきなり現れて偉そうにしていたので辛辣だったが、仲間なら優しくする。エファ、嘘つかない。


「ていうかさ、学校? ってなに?」

「ふふーん、説明しよう! 学校とは、そこに通って知識を得る……勉強を大人が教えてくれる施設のことだよっ! 学校に通ってたってことは、隊長、ガチだねっ!!!」

「そうでありますそうであります! 吾輩は基本的には有能なんでありますよ!」

「自分で言うんだ」


 まだ有能そうなことはしてないけど、まあ魔獣とかと戦ってみないと分からないよね。


「例えば……ほいさ」


 アバンはふとポケットに手を突っ込むと、何かを取り出した。ボール? 縄? 次々出てくる。

 止まらない。無限に出てくる。何そのポケット!? 何次元ポケット? 何次元に繋がってるのそれ。


「なにそれぇ……」

「すごーい!」

「このロープは罠に使えるであります。次にこの玉は煙玉であります。これを使えば魔獣に気づかれることなく近づくことができるんでありますよ。次に……」

「ストップ! スターーーップ! 違う、そうじゃない。なにそのポケット。おかしいじゃん、どうやって入ってたの?」


 明らかにおかしい。入るわけがない。全て入り切る空間は、ポケットの隙間にはないはずだ。

 ここまで考えてハッとする。空間、精霊、運搬。


「これこそが精霊の加護であります! このポケットの中は精霊によって空間が歪んでるんであります。限度はありますがそれでも大量の道具が入るんでありますよ!! どうでありますか? 使えるでありますよね??? ね??」

「正直びっくりしてる……すごいね」

「やったー褒められたであります!!」


 わーいわーいと早歩きになるアバン。

 この二人をまとめるとなると、私の負担が大きくなりそうだな……。仲間に向かえるのなら、覚悟を決めなければ。

 なんて悩みながら歩いていると、行く先に大きな壁が見えた。かなり横に広がっている。これを登るのは難しいだろう。

 近くまで来てさらに登れないのがわかる。回り込みますかね。


「ありゃー、高いねー」

「登れそうにないし、別の道を探そうか。それともこの辺りを調べる?」

「うおおお! 崖であります! さあ二人共、行くでありますよ! ファイヤーーー!!」


 アバンは突然ポケットから先端にかぎ爪のついたロープを取り出し、崖の上に投げた。

 上の木に引っかかったようだ。ロープは崖を撫でるようにピンと張り、落ちる気配がない。

 わあ、すごく安定してる。人がぶら下がってもびくともしない。というかアバンがぶら下がっている。


「えっ何してんの何してんの!?」

「なにって、登るんでありますよ」

「おバカ! 危ないから下りなさい!」


 私がアバンを叱りながら手を伸ばすと、アバンはその手から逃げるようにロールを手繰って登り始める。


「大丈夫でありますよー、ほっ! ほっ!」


 慣れた手つきで崖の上まで登る。人って、あんなに早く崖を登れるんだね。


「早く来るでありますよー!」


 バカが崖の上で手を振っている。崖の上のバカである。

 あんなに危険なことをしなくても、どこかから登れるかもしれない。登りやすい坂になっている場所を探して、あそこまで行こうか。


「…………ポコ、どうしようか」

「今行くー!」

「嘘でしょ!?」


 別ルートを探すことを決め、視線を横に向けると、ロープにぶら下がるポコがいた。

 『バカ』は『二人』居たッッッ!!

 呆れて声も出ない。バカには付き合っていられない。


「先行っててー、別の道探してみるからー」

「え? えっちゃん登れないの?」


 カチン。おそらく無意識だろうポコの言葉に、私の足は馬鹿正直に止まった。

 残念、私もバカだったらしい。バカは三人いた。


「そこで……待ってろ!! すぐ行くッ!」


 負けるわけにはいかない。この程度のロープ、全く怖くなんてない。

 アバンやポコに負けるもんか。そう思いながら、私は腕に力を籠めるのだった。

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