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フェニックス計画――老兵たちの夢と若き継承者――   作者: 工程能力1.33


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第8話 元大佐の命令

 そして、フェニックスと共にカイとガルドは王都に連れてこられた。ミリアも一緒である。

 軍工廠の格納庫から少し離れた応接室。

 ガルドは軍医と共に病院へと搬送され、そこにはカイとミリア、そしてアーノルドだけが残った。

 窓の外では、夕暮れの光がフェニックスの装甲に反射し、金色にきらめいている。


「……さて、若いの」


 アーノルドが腰を下ろし、ゆっくりと背もたれに体を預けた。

 白髪混じりの指が机をとん、と軽く叩く。


「お前に話しておかねばならんことがある。――四十五年前の話だ」


 ミリアが眉をひそめ、カイは姿勢を正す。

 老人は遠くを見るような目つきになり、静かに口を開いた。


「かつて、この国には不思議な一族がいた。ガルドの一族だ。彼らはな、空気中から“フロギストン”という元素を作り出せた。おそらく生まれつきの特異体質だろう」


「フロギストン……って、昔の間違った科学のやつですよね?」


 カイが首をかしげると、アーノルドは口角をわずかに上げた。


「そうだ。物が燃えるのは酸素のせいだと証明される前、人は燃素が燃えて消えると信じていた。だが、ガルドの一族は本当にそれを作り出せた。薪よりも高効率で、マナダイトにも頼らず動力を生み出せる理想の燃料だ」


 老人は少しだけ間を置き、低い声で続ける。


「蒸気機関が発明されそれで産業が発展した。だが、時代は変わった。マナダイト鉱石からエネルギーを抽出する技術が確立され、燃やすという効率の悪い方法はすぐに時代遅れになった」


「それで、全部マナダイトに頼るようになった……」


 カイの言葉に、アーノルドは重くうなずいた。


「私は、それが危ういと感じた。もしマナダイトが使えなくなったら、国は立ちゆかなくなる。だからガルドの一族に目を付けた。彼らの能力を使い、フロギストンで動くフレーム――フェニックスを造り上げた」


 ミリアが腕を組み、真剣に聞き入っている。

 しかし、アーノルドの表情は次第に曇った。


「……だが、その矢先に帝国との戦争が始まった。完成間近のフェニックスは戦場に送られる前に、ガルドの一族が暮らしていた施設が爆撃され……たまたま訓練で外にいたガルドを除き、全員死んだ」


 応接室に静寂が落ちる。

 その重い空気を断ち切るように、アーノルドがカイへ視線を移した。


「……カイ。親兄弟は?」


 唐突な問いに、カイは少し戸惑いながら答えた。


「両親は病気で亡くなりました。兄弟もいません。……残ってるのは、じいちゃんだけです」


「そうか……」


 アーノルドは目を細め、わずかに顎に手をやった。

 次の瞬間、あまりに予想外の言葉を口にする。


「――ミリア」

「は、はい?」

「カイと結婚しろ。そして子を成せ」


「……は?」


 ミリアの口がぽかんと開く。

 カイも反射的に椅子から立ち上がりかけた。


「ちょ、ちょっと待ってください! なに言って――」

「な、なんで私がこんな田舎の……っ!」


 二人の抗議を、アーノルドは片手で制した。


「これは命令だ」


 短く、鋭く。軍人としての声だった。


「ガルドの血は、この国の非常時に必要になる。お前たちの感情はどうでもいい。その能力を途絶えさせるわけにはいかん」


 ミリアは真っ赤になって立ち上がる。


「そんな理屈、納得できません!」


「納得などいらん」


 アーノルドの視線が鋭く突き刺さる。


「……だが安心しろ。これは戦略的な婚姻だ。愛情など後からついてくる」

「そんなの、どこの古臭い軍人の――」

「古臭い軍人だとも。だが国を守るためなら、私は何度でも古臭くなる」


 カイとミリアは同時にため息をついた。

 だが、二人とも否定の言葉をすぐには出せなかった。

 それだけ、この老人の言葉には重みがあった。


 アーノルドは立ち上がると、フェニックスの方へ目をやった。


「カイ、明日からお前にはパイロットとしての訓練を受けてもらう。当面、私の屋敷に住め」


「えっ……」


 カイが戸惑う間もなく、老人は続ける。


「場所はミリアが案内しろ。――では、私はガルドの見舞いに行ってくる」


 それだけ言い残し、アーノルドは背を向けて去っていった。

 残されたのはカイとミリアだけ。


「……あの、俺……軍人になるつもりなんて――」


 カイが言いかけた瞬間、乾いた音が室内に響いた。

 ミリアの右手が、カイの頬を打っていた。


「……ふざけないで。あんたは、あの戦場でフレームに乗って戦った。もう逃げられないのよ」


 カイは言葉を失い、頬を押さえる。


「でも……俺は、戦争なんて……」


「うるさい!」


 ミリアの目は怒りで赤くなっていたが、その奥に、別の感情が見え隠れしていた。

 彼女はドアの方へ歩み寄り、外に立っていた警備兵に声をかける。


「アーノルド大佐の命令よ。この人を家まで案内してあげて」


 カイは驚きに目を見開いた。


「は? でも……」

「行きなさい」


 冷たい声に押され、カイは警備兵に伴われて部屋を出ていった。

 扉が閉まり、室内に静寂が戻る。

 ミリアは背を壁に預け、深く息を吐いた。


 そして、誰に聞かせるでもなく、かすれた声でつぶやく。


「……エリアス……」


 その名を呼んだ瞬間、視界が滲む。

 ミリアは堪えきれず、両手で顔を覆った。

 大粒の涙が、制服の袖を濡らしていく。


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