第7話 フェニックス計画
そして、国境の基地に、フェニックス回収部隊が到着した。
その中に、威厳ある白髪の老人――アーノルド・クラウスが姿を現した。軍服ではなく地味な外套に身を包んでいたが、その背筋はぴんと伸び、周囲の兵士たちが自然と敬礼してしまうような気迫を放っていた。
ミリアはその姿に、胸の奥がざわめくのを抑えられなかった。曾祖父の存在は知っている。軍を引退した後も顧問として絶大な影響力を持っている人物。それが、いま目の前にいる。しかも、自分の隣には素性の分からぬ二人――ガルドとカイ。
もしこの老人が二人を敵と見なせばどうなるのか。ミリアは緊張のあまり、拳を強く握りしめた。
だが、その不安はすぐに裏切られる。ガルドが前に進み出て、片足を引きずりながらもまっすぐ敬礼をしたのだ。
「お久しぶりです、クラウス大佐」
その声は、久々に古い友へ挨拶をするように穏やかだった。
アーノルドの口元がわずかに緩む。
「元だがな……ガルド元上等兵」
ガルドは礼を解き、フェニックスを振り返った。
「……大佐、この機体は四十五年前のままです。ですが、今回はこいつが、孫のカイを乗せて帝国軍を撃退しました」
淡々とした報告の中にも、誇らしさがにじむ。
アーノルドは黙って聞き、機体を見上げる。
「動かす決断をしたのは正しかった。そして、我々がやったことは無駄ではなかったということだな。よくぞいままでこいつを守っていてくれた。……だが、その足では無理が利くまい」
ガルドは笑って首を振る。
「まだ動けますよ、大佐。医者に寝ろと言われたって、寝てる場合じゃ――」
「軍の病院で治療を受けろ、ガルド。命令だ」
アーノルドの声は柔らかいが、有無を言わせぬ響きを持っていた。
短い沈黙のあと、ガルドは深くため息をつき、再び敬礼した。
「……了解しました、大佐」
二人のやり取りに、ミリアは目を見開いた。
――この二人は知り合いなのか? それどころか、軍隊時代の関係者?
ガルドが何者なのか、これまで考えても答えが出なかった。だが今、曾祖父の言葉で確信する。彼はただの工兵上がりではない。もっと深い場所で、フェニックスに関わる過去を持つ人物なのだ。
「なぜ……?」
ミリアの心に疑念が渦巻く。だが口には出せない。ただ黙って二人を見つめるしかなかった。
アーノルドは視線を移し、カイとミリアを交互に見やった。
「フェニックスを王都の軍工廠に移送する。そして、かつてのフェニックス計画に携わった者たちを再び呼び戻す」
淡々と告げる声には、戦場を幾度も渡り歩いてきた重みが宿っている。
「フェニックス計画……?」
カイは眉をひそめた。ミリアもまた、ただ困惑の表情を浮かべる。二人にとって、それはあまりに唐突で、遠い響きだった。
一方でガルドは、まるで因縁の歯車が再び動き出すのを悟ったように、静かにうなずいていた。




