第6話 戦争の悲惨さ
国境基地の格納庫に、夜明け前の冷たい空気が漂っていた。
そこに運び込まれたのは、無残に焼け焦げたフレームだった。
装甲は裂け、関節はねじ切れ、かつて威容を誇った機体は原型をほとんど留めていない。
だが、その機体がエリアスのものだということは、一目でわかってしまった。
ミリアは震える足で、ゆっくりと歩み寄った。兵士たちが敬礼して道をあける。
胸の奥が、張り裂けそうに痛い。
「……うそ、よね……」
声が喉から漏れた。だがその否定は、目の前の現実を覆すことはなかった。
整備兵が黙ってヘルメットを差し出した。砕け、血の跡がこびりついたそれは、まぎれもなくエリアスのもの。
その瞬間、ミリアの膝は力を失い、冷たい床に崩れ落ちた。
「……いやだ……エリアス……!」
震える声とともに、堪えていた涙が溢れた。戦場では泣かないと誓っていた。だが誓いなど、今や意味を持たなかった。
彼は兄のように、時に父のように、自分を導いてくれた。訓練の厳しい日々も、戦場の恐怖も、隣にエリアスがいたから乗り越えられた。
その彼が、もういない。二度と声をかけてくれない。
胸の奥で叫ぶように否定しながら、ミリアはただ泣き崩れるしかなかった。
周囲の兵士たちは沈痛な面持ちで、彼女の姿を見つめていた。誰も軽々しく言葉をかけられない。国境の空気は、まるで全てが喪に服したかのように、重苦しい沈黙に包まれていた。
やがて、コクピットから収容された遺体が担ぎ出される。
ミリアは、崩れ落ちるようにその場に膝をつき、血の気を失った顔で亡骸を見つめていた。涙が頬を伝い、声にならない嗚咽が格納庫に響く。彼女にとってエリアスは、戦場で背中を預けた戦友であり、それ以上に心を寄せていた婚約者だった。
少し離れた場所で、その光景を見ていたカイは息を呑んだ。戦場での死は実感できていなかったが、目の前で仲間が泣き崩れる女性兵士の姿は、胸を締め付けられるように痛かった。
「……これが、戦争」
そう呟くように、カイは握り拳を固める。自分がもっと強ければ、この悲劇を防げたのではないか――そんな無力感が心を苛んだ。
一方、ガルドは腕を組み、重苦しい表情でミリアを見つめていた。彼は言葉を選びかけて、結局、何も声を掛けられなかった。かつて仲間を失った経験のある彼にとって、その悲しみは痛いほど理解できたからだ。
「……これが戦争だ。だが、この痛みを背負ってでも進まねばならん」
心の奥でそう呟きながら、ガルドはミリアの背中に視線を注ぎ続けた。
ミリアの嗚咽と、格納庫に漂う鉄と血の匂いが、三人の心に深く刻まれる。ここから先、彼らの決意と関係性は大きく変わっていくのだった。




