第06話 アングラの誓い(4) 三本の矢
サクの謎めいた言葉が、食堂の喧騒の中に、不思議な余韻を残した。
テルは、弟たちの言葉の奥にある、常人には計り知れない知性の煌めきを感じ取り、満足げに頷いた。
「……見事だな。俺の想像を、遥かに超えている」
彼は、二人の弟を、誇らしげに見つめた。震災の日に、瓦礫の上で誓った、幼い子供たちの姿が、一瞬、今の彼らに重なって見えた。あの日の、か細く、しかし燃えるような決意が、これほどまでに巨大で、精緻な計画へと結実した。その事実に、テルは静かな感動を覚えていた。
「これで、俺たちの役割は、完全に定まったな」
テルは、テーブルの上に置かれていた割り箸を三本、静かに手に取った。
「古い話だが、ある戦国武将が、息子たちにこう説いたそうだ。『一本の矢は、容易く折れる。だが、三本束ねれば、決して折れることはない』、とな」
「そして十三年前、父さんは俺たちに言った。『技術の前に経済、経済の前に政治だ』と。あの言葉が、俺たちの戦いの、全ての設計図になる」
テルは、まず、一本目の箸を、自らの胸元に置いた。
「俺が放つ『第一の矢』は、全ての根源である『政治と経済』。この国の心臓を蝕む【貨幣の鎖】を断ち切り、国家再生の道筋そのものを作る」
カイは、兄の言葉を受け、自らの前に二本目の箸を置いた。
「俺が放つ『第二の矢』は、その独立を物理的に担保する『軍事』。テルくんの示す道を阻む脅威を排除し、【軍事の鎖】を断ち切る、鋭き刃だ」
最後に、サクも、三本目の箸を手に取り、自らの前に置いた。
「そして僕が放つ『第三の矢』は、テル兄とカイ兄が築いた盤石な土台の上で、この国に真の豊かさをもたらす『技術と資源』。飢えと欠乏の元凶である【技術の鎖】と【資源の鎖】を断ち切る力強い矢だ」
一本の矢だけでは、五本の鎖は断ち切れない。だが、この三本の矢が、父の魂に沿って、完璧な順番で束ねられた時、彼らは、この国を縛る、いかなる巨大な鎖をも、粉砕することができる。
光の指導者が道を示し、
闇の守護者が道を阻む障害を排除し、
沈黙の創造主が道を支える。
光と、影と、創造主。
三本の矢の、完璧な役割分担。それは、偶然ではない。十三年前のあの日から、三つの魂が、無意識のうちに、互いの役割を補い合うように、それぞれの道を歩んできた、必然の帰結だった。
それは、ヤマト家の三兄弟が、それぞれの構想を、国家再生のための、一つの揺るぎない戦略へと統合した瞬間だった。
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