第05話 研鑽の十三年(2) 赤門の下で
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令化二十三年、四月。
長く続いた春の長雨が、ようやくその役目を終えた、穏やかな朝。雨に洗われた東京大学本郷キャンパスの赤門は、その丹塗りの朱を、一層鮮やかに見せている。門の両脇に立つ桜の古木は、まるでこの日のために満開の時を合わせたかのように、薄紅色の花びらを惜しげもなく空に散らせていた。
その桜吹雪の下に、二人の青年が立っていた。
一人は、洗練されたダークスーツを着こなし、周囲の喧騒から隔絶されたかのような、落ち着いたオーラを放っている。ヤマト・テル。二十四歳。
もう一人は、黒い革ジャンに身を包み、その鋭い目で、行き交う新入生たちの、希望と不安が入り混じった表情を、どこか醒めたように観察している。ヤマト・カイ。二十二歳。
そこに、一人の、少し緊張した面持ちの青年が、歩み寄ってきた。大きなリュックを背負い、その手には、真新しい学生証が、汗で湿るほど強く握られている。ヤマト・サク。十九歳。
「……テル兄、カイ兄」
サクが、幼い頃からの呼び名で、小さな声で呼びかけた。
テルが、にこやかに振り返る。
「来たか、サク。合格おめでとう」
カイが、ぶっきらぼうに、しかし、その目には確かな喜びの色を浮かべて言った。
「待ってたぜ」
あの日、灰色の瓦礫の上で、言葉にならない誓いを立てた三人が、それぞれの試練の時を経て、今、約束の地である東京で、改めて顔を合わせた。
テルは、変わらない赤門を眺めながら、感慨深げに呟いた。
「長かったな。……あの誓いから、十三年か」
その言葉を合図に、三人は、まるで一つの儀式のように、ゆっくりと、しかし確かな足取りで、赤門をくぐり、キャンパスの中へと、足を踏み入れた。




