表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/44

第05話 研鑽の十三年(2) 赤門の下で

皆様の声援が、三兄弟の戦いを未来へと繋げます。

ランキング上位を目指し、この物語を多くの人に届けるために、皆様の力をお貸しください!(↓の★で評価できます)


 令化二十三年、四月。

 長く続いた春の長雨が、ようやくその役目を終えた、穏やかな朝。雨に洗われた東京大学本郷キャンパスの赤門は、その丹塗りの朱を、一層鮮やかに見せている。門の両脇に立つ桜の古木は、まるでこの日のために満開の時を合わせたかのように、薄紅色の花びらを惜しげもなく空に散らせていた。

 その桜吹雪の下に、二人の青年が立っていた。

 一人は、洗練されたダークスーツを着こなし、周囲の喧騒から隔絶されたかのような、落ち着いたオーラを放っている。ヤマト・テル。二十四歳。

 もう一人は、黒い革ジャンに身を包み、その鋭い目で、行き交う新入生たちの、希望と不安が入り混じった表情を、どこか醒めたように観察している。ヤマト・カイ。二十二歳。

 そこに、一人の、少し緊張した面持ちの青年が、歩み寄ってきた。大きなリュックを背負い、その手には、真新しい学生証が、汗で湿るほど強く握られている。ヤマト・サク。十九歳。


「……テル兄、カイ兄」


 サクが、幼い頃からの呼び名で、小さな声で呼びかけた。

 テルが、にこやかに振り返る。


「来たか、サク。合格おめでとう」


 カイが、ぶっきらぼうに、しかし、その目には確かな喜びの色を浮かべて言った。


「待ってたぜ」


 あの日、灰色の瓦礫の上で、言葉にならない誓いを立てた三人が、それぞれの試練の時を経て、今、約束の地である東京で、改めて顔を合わせた。

 テルは、変わらない赤門を眺めながら、感慨深げに呟いた。


「長かったな。……あの誓いから、十三年か」


 その言葉を合図に、三人は、まるで一つの儀式のように、ゆっくりと、しかし確かな足取りで、赤門をくぐり、キャンパスの中へと、足を踏み入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ