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シャットダウン・アンサーズ ‐答想聖解王と問題解決部の少年少女‐  作者: 羽波紙ごろり
【みずがめ座の運勢、最悪の日】
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だからほとんど証拠が残らない

「被害亡き、通り魔事件? それは、まさか――」


「そう。一年前のクリスマス・イブを境に、市内で頻発している謎多き事件。最初の被害者はあなたも知っている通り、当時中学生であった我が校の生徒――九十九歩亜郎よ」



 冬休み前最後の登校日を迎えた土湖花野(どこかの)学園。その部室棟の一室にて、一人の少年が椅子に座って来客の話を聞いていた。話の中身はここ、四季市の市内で頻発している事件について、いかに生徒たちに注意喚起をするかという、非常に強い熱意が込められたものであった。



 少年はこの部屋の主、部活動組織の長だ。そのような理由もあって、生徒会やら風紀委員会やらから、生徒たちに関する情報や注意を持ち掛けられることが多い。来客の話は他の部員たちにも情報の共有はしておくとして――風紀委員とはいえ、突然やってきてトマトジュースを飲む邪魔をしないでほしかったと彼は思った。部活動開始前のお約束なのに、と。



「トマトジュースは良いぞ。何が良いのか全く知らないが、従姉がよく飲んでいる姿を真似していたら、いつの間にかトマトジュースが好きになっていた。従姉の場合は何故かティーカップにトマトジュースを注いで、そこにトマトケチャップまで入れているのだから、きっとトマトジュースが血管に流れているに違いない。考えたら、ちょっと怖くなってきた」



 そのような不思議な親戚がいる縁なのか、彼は幼馴染にトマトくんと呼ばれている。



「あなた、真面目に聞いていないでしょう。その態度を真矢さんに報告しようかしら」


「まあ、まあ、そう怒らずに。お前も飲むか、トマトジュース。リコがピンピンしてくるぞ?」



 そういうわけで、彼の名前は大和的当(やまとまとあて)。名前までもが、トマトから逃れられないこと以外は、四季市においてどこにでもいる高校生だ。一年生ながらこの組織の部長を務めている。



 まあ、この部活動組織を創設した人間は彼なのだが。創設者にして部長。良い響きである。



「その事件は俺も良く知っている。知っていなければならない事件だ。何故なら、その事件の被害者である九十九歩亜郎は俺の恩人にして、大親友だからな。知っていて当然だ」


「彼の友人を名乗る物好きは、あなたくらいよ。いい加減に目を覚ますべき」


「ところが俺はトマトジュースのおかげでリコがピンピンしていてだな――」


「真面目に話を聞かないと、部費でトマトジュースを購入していること、告発するけれど」


「そ、そんなことをした覚えは無い! お、俺は何もしていない!」


「ええ、知っているわ。あなた、不正をしないタイプというよりも、できないタイプだから」



 来客――彼女の名前は継内瞳(つぐないひとみ)。この学園の風紀委員であり、中学生時代から関わりがある女子生徒だ。正確に述べるなら、的当と関わりはそこまで深くない。彼の幼馴染と関わりが深いだけだ。だからといって、怒らせるわけにはいかない。この部のためにも、何よりも幼馴染――真矢のためにも。この部を、彼女の居場所を確保しておかねばならないのだ。



「今月に入ってから、この事件は特に発生が増えているようね。彼も十二月に襲われた」


「犯人は――【神殺し(シャットダウン)魔女(まじょ)】とか呼ばれている女は、クリスマスを狙っているのか?」


「さあ、どうでしょうね。犯人が【答想者(アンサラー)】を狙い続けていることは確かよ。あなたも気を付けることね、問題解決部(・・・・・)の部長。それでは――真矢さんによろしく伝えておいて」


「おう、サンキュー。あれ? トマトジュース、飲まないのか?」


「ええ、遠慮するわ」



 真面目で好き嫌いが無さそうな顔をしているが、実はトマトが嫌いなのだろうか。瞳はどこか渋い顔をしながら部室を去った。次の部室へ注意喚起をしに行ったのだろう。



 風紀委員は忙しそうで大変だ。的当は他人事のような感想を抱き、カップを片付ける。



「被害亡き通り魔事件、ねぇ――」



 その名の通り、被害者が受けた刺し傷や裂傷等の被害そのものが無くなって――いや、亡くなってしまう事件。だから、ほとんど証拠が残らない。歩亜郎の場合もそうだった。



 そう、一年前のクリスマス・イブ。歩亜郎は――左掌を突き刺されたが、その事実は亡くなってしまい、事件後には左掌の傷口は綺麗さっぱり消えていた。斬られたといいう事実自体が殺されてしまったのだろう。犯人の強すぎる殺意が、被害者の被害自体にまで過剰に殺し尽くしてしまっているのではないかと歩亜郎は考えているが、果たして。



「ごきげんよぉ、的当」



 頭に奇妙なハットを被った男子生徒が部室に入ってくる。噂をすれば、歩亜郎がやってきたのだ。扉をノックしない辺り、相変わらず少々常識が欠けているようだ。まあ、歩亜郎のマナー違反を指摘できる程、的当自身も素晴らしい人間ではないので、彼は沈黙を貫いた。



「あ、歩亜郎! お前、終業式を欠席してどこへ行っていた? また何かに巻き込まれ――」


「夢の世界へ行っていたのだ。現実に帰ろうとしても、彼女が帰してくれなかったのだ」



 どうやら非常におめでたい夢を見ていたようだが、要するに寝坊である。彼女とは、誰のことなのだろう。歩亜郎に女性の友人や恋人、ましてや許嫁とかいなかったはずなのだが。



 そんな的当の疑問を気にすることなく、歩亜郎はいつものように紅茶を飲み始めた。正確には紅茶ではなく、インフィニティーと呼ばれる怪しい飲み物である。彼は強烈なカフェインを摂取しなければ日中活動ができない。そうは言っても用法、用量を守ってほしいものだ。



「あれ? 他の部員はどうしたのだ? 何故、僕とお前さんしかいないのだ」



 今、部室には的当と歩亜郎の二人しかいない。他にも部員がいるのだが、今日は本当に的当と歩亜郎の二人しかいない。部室の大掃除をする日であるはずだが――逃げたのか。



 そんなわけがない――的当は欠席理由を把握している。だから誰も逃げていないのだ。



「ああ、メロンと乃鈴(のべる)は終業式には出たが、もうすぐ年末年始で忙しいから帰ったぞ」



 デカメロンと乃鈴の二人は実家が神社なので、その手伝いをするために帰っただけである。ちなみにデカメロンという名は識別名(コードネーム)であって、本名ではない。ちゃんと人間だ。



 もちろん果物では無い。絶対に果物では無いが、紛らわしいことにメロン型のフルフェイスヘルメットを被っており、その素顔を把握することは誰もできていないのが現状である。



「葉子とキートは?」



 葉子は歩亜郎の()で、キートは葉子の熱心な友人だ。二人はどこへ行ったというのだろう。



「さあ? デートでも行っていたりして。あっはっは!」


「うへっへっへっ――キート! 次、会ったらブットバス!」


「待て、待て! 俺の勝手な想像だ! 真実じゃない! 落ち着け!」



 歩亜郎なら本当にキートを文字通りブットバスに違いない。暴力沙汰は不味い。部の存続に関わる由々しき事態を招くだろう。ここは、焦らず冷静に歩亜郎を宥めるべきだ。



 相変わらず歩亜郎には冗談が通じない。そのくせ、彼自身は冗談を言うから質が悪い。



「はぁ、はぁ……今日は部室の大掃除をするのではなかったのか? 皆がやらないなら、誰が掃除をするというのだ? 業者でも呼ぶのか? それも美化委員会に頼むのか?」


「ふふ、聞いて驚け。掃除をするのは――俺たちだけだ!」


「えー」



 歩亜郎の感想は至ってシンプルな不満を示すものであった。彼の場合、掃除自体は好きなはずだが、周囲の人間が揃って欠席しているという事実に不満があるのだろう。



「まあ、お前だけでも来てくれて助かるよ――ほれ、箒」


「掃除を押し付けられるなんて、今日はみずがめ座の運勢が悪いのか?」


「部屋の汚れは心の汚れ――掃除をすることで、部屋も心も清らかになるはずだ」


「おぉ、なんか良いことを言っているのだ! 的当が輝いて見える!」


「ふふ、そうだろう? そうだろう!」



 言い忘れていたが、彼らは――この学園の、【問題解決部】に所属するメンバーである。



 この部活動組織では、街や学園で生活を送る人々の小さなものから大きなものまで、ありとあらゆる問題を解決する活動を行っている。部長の的当を筆頭に、現在六人程度の部員で構成されているこの部活動組織を、四季市の住民たちはいつの間にか【アンサーズ】と呼び始めていた。【アンサーズ】、良い響きだ――わかりやすくて的当は気に入っている。



 この日は年末の大掃除で一日の活動が終わるはずであったが――この後部室にやってきた、【季節外れの編入生】が持ってきた依頼によって、平穏な年末は在り様を変えてしまう。


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