通り魔に遭遇した
ああ、クリスマスは殺された。
街の喧騒を、賑わう聖夜を一瞬にして亡き者へ変えた首謀者は、悲鳴に塗れた群衆の中へと消えていく。彼は、ただその光景を地面に這い蹲りながら眺めることしかできない。
悲鳴は人から人へと伝染し、辺りを混乱に陥れた。その根源となっている存在が、彼自身であることに気が付くまで少々時間が掛かるだろう。それもそのはずだ。何故なら彼は先程まで意識を失ってしまっていたのだから。状況の把握は困難を極めていたのだから。
今この瞬間、認識できることはいくつか存在している。しかし、理解はできていない。
血塗れの彼を見て、この場に居合わせた通行人が悲鳴を上げている。彼自身、ここまでは認識できている。それでは、どうして彼はこのような血塗れになっているのだろう。ここからは理解できていない。何故、どうして、と彼は問答を繰り返し、認識の可能と理解の不可能が頭の中で踊り出し始めた頃、思考がようやく安定する。決定的な事実を思い出したのだ。
彼は通り魔に遭遇した。その通り魔は彼の左掌に刀を突き刺した後、何かを呟いた。魂だの、インストールが云々だの――そして、それらを呟く以前にこう言っていた。人違いだと。
通り魔は、彼と誰かを間違えたのだ。
彼の中で、ハノイの塔が完成した。同時に、通り魔である少女の姿が脳裏に映し出される。
彼女と初めて会った気がしない――わからないけど、知っている人物だと彼は思った。
自らの過去を解錠するように、彼は思いを馳せる――この女の子は誰だったかな、と。




