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#21 あ、最後に一つだけ

 メメント森廃教会を出発した的当と歩亜郎、一舞は、四季市市内にある病院へ向かっていた。的当は真矢と面会するため、歩亜郎は検査を受けるためである。



「じゃあな、歩亜郎。ちゃんと最後まで検査受けろよ。くれぐれも逃走はするな。いくら採血の注射針が怖いからって、急にいなくなったら、病院側も困惑するからな」


「努力、するのだ。努力は」


「そんじゃ、俺は真矢に会ってくる。雪上、歩亜郎を頼んだ」


「はい」



 面会の受付を済ませ、幼馴染である真矢が滞在している病室の前に着いた的当は、入ろうとしたとき、廊下で一人の医師と会った。



「やあ的当くん。真矢ちゃんと面会?」



 彼の名前は上手破雨。他の医師に比べるとまだ若いが、答想者を対象とした想造医学に精通した優秀な男性だ。真矢の担当医であり、的当はかなりの頻度で彼と会っていた。


 ちなみに彼は、歩亜郎の保護者である九十九振子と過去に何かあったようで――



「こんにちは、上手先生。真矢は元気ですか」


「会えばわかると思うけど、体調に問題はないね。ただ、やはり歩行が困難だし、記憶も混乱している部分がある」


「いつ、退院できそうですか?」


「行先にも寄るけど、一時退院くらいならそろそろできるかな? 順調に回復へ向かってはいるから」


「そう、ですか」


「あまり君が気に病む必要はないよ――それじゃあね。歩亜郎の診察があるから」



 上手が診察室へ向かったので、的当は病室の扉をノックした。すぐに返事があり、彼は部屋に入った。ベッドの上で、一人の少女が起き上がっていた。



「トマトくん、いらっしゃい」


「よっ、真矢」



 彼女――世知崎真矢は部屋から窓の外を眺めている。今日は、何を見ているのだろう。



「真矢、今日は」


「喫茶店、かな」



 長い黒髪を風で揺らしながら、真矢は呟く。



「喫茶店? ここから見えるのか?」


「トマトくんには、見えんよ」



 真矢は昔から的当のことを『トマトくん』と呼ぶことが多い。的当のフルネームが大和的当であることに由来しているのだろう。ヤマト、マトアテ――なんとなくトマトの様である。



「【未来予視(スポイルヴィジョン)】、か」



 真矢は自身の想造力(イマヂカラ)を宿した両眼で、誰かの運命や未来を見ることができる。きっと、今日もどこかの誰かの未来を見ているのだろう。便利な能力かもしれないが、見ている光景は絶対に起きることではない。数多の可能性を見ているだけであり、運命そのものを確定することは真矢自身にはできない。


 真矢は、傍観者の領域から出ることができないのだ。



「男の子と、女の子。デートやろか? ああ――そういうこと」



 一人呟き、一人で納得する真矢。


 彼女が見ている景色を、的当は一緒に見ることができない。彼はそれが悔しかった。もし、真矢が見ている景色をあの時一緒に見ることができたならば、彼女に襲い掛かった悲劇を予見することができたかもしれないのだ。そうすれば彼女を助けることだって、できたのに。



「また変な顔しているよ、トマトくん」


「悪いな、変な顔で」


「君がそんな顔をしていると、あの男の子が心配するよ」


「ああ、歩亜郎のことか」



 真矢はかつての同級生であった歩亜郎のことを忘れてしまっている。確実に忘れてしまっているはずなのだが、たまにこうして彼のことを気にしている様子が見られるのだ。



「そういえば最近はあの男の子、来てくれへんね。何か、あったの?」



 歩亜郎が真矢のことを無意識に避けているということを、的当は言えなかった。歩亜郎本人は否定しているが、彼が真矢のことを避けていることは明白だ。だから的当も無理に彼をここに連れてくることをしない。



「歩亜郎は――」



 歩亜郎は、真矢を救えなかったことを後悔しているのだ。



「ま、ウチに会うのが嫌なら、ええけど」


「そういうわけじゃ、ないと思うが」



 歩亜郎の大親友をやっている的当であったが、それでも歩亜郎のことがわからなくなる時がある。彼の本当の気持ちを、誰も知ることはできないのだ。


 だが、それは歩亜郎に限った話ではない。


 誰かが見ている景色と、全く同じ景色を見ることは不可能だ。同じ場所に立ったとしても時間が異なれば景色は変化するだろうし、条件が揃っても、同じ景色の違う部分を見ているかもしれない。他者を乗っ取りでもしなければ、同じ景色は見られないだろう。


 的当は歩亜郎ではない。それだけは、確実なことなのだから。



「なんてね。彼はトマトくんが思っているほど、悪い人間ではないんよ。ただ彼は、誤解されやすい。周りからも、自分からも」


「要は、お馬鹿ということだな?」


「せやせや」



 的当がウサギの形に切り分けたリンゴを、真矢は頬張る。その彼女の姿がウサギというよりもハムスターに見えて、的当は思わず笑ってしまう。そんな的当を気にすることもせず、真矢は話を続けることにした。的当が笑うことを予め真矢は知っていたので、今更驚かない。



「でもな、トマトくん。彼はきっと、この街で誰よりも優しいのかもしれへん。悪よりも悪い悪を目指しているのだって、世の中の悪意を全て自分で背負えるようになりたい、その気持ちの表れだと思うんよ。ただ、その優しさの使い方を彼はわかっていないだけ。心のどこかに、迷いを抱えておるんやろな」


「今のあいつは【明探偵(ディテクティブ)】ではなく、ただの迷探偵ってことか?」


「そ。迷いを捨て、己の命ずるままに明確な答えを出せた時、きっと彼は――」


「ああ、そうだな」



 的当は腕時計を見て時刻を確認する。


 面会の時間はそろそろ終了だ。歩亜郎の検査も終わった頃だろう。合流して、アンサーズの活動に戻っても良い時間である。真矢のことも大切だが、真矢が退院した後の、居場所作りも怠ってはいけない。


 的当は、座っていた丸椅子から立ち上がる。



「また来るよ、真矢」


「いつもありがとうね。あ、最後に一つだけ」


「ん? 何だ」


「あの男の子、ポアロくんを一人にしない方がええかもしれへん」


「どういうことだ?」


「あの子、殺されるかも」


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