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#20 トマトを悪口に使うな

「久しぶりなのだ、保護者」


「そうね。半年ぶりくらいかしら?」


「ああ、お前たちも元気そうで何よりだよ」



 的当が淹れたインフィニ(ティー)を飲みながら、ほっと一息吐く振子。


 彼女の話を聞く限り、どうやら新しく入寮した一舞の様子を見に来たようだ。さらに歩亜郎や葉子、他の入寮者の様子も窺いに来たとのこと。



「いやぁ~、元気なのは良いが――アンサーズは一体何件の問題を起こしたんだ? 学園長や風紀委員会から、やたらと苦情のメールが届いているが」


「ちなみに、そのメールは?」


「全部、未開封でゴミ箱にぶち込んでやったぜ。いぇーい」


「いぇーい、なのだ!」


「ほら、葉子も! いぇーい」


「遺影」


「うーん……なんか違うけど、まあいいか」


「相変わらず仲が良いですね、振子さんたち」


「はぁ? どこが!」


「お前がそれを言うのか、歩亜郎! 十二秒前を思い出してみろよ!」


「そういう的当たちも仲が良いな。お前のような友だちがいると、歩亜郎も安心だろ」


「はぁ? どこが!」


「歩亜郎! 俺たち大親友だろ!」


「皆さん! 落ち着いてくださいよ! 一舞さんが困惑しています!」


「面白い人たちですね!」


「えぇー」



 鬼衣人がこの事態をどのように終わらせようか、頭を抱えて葉子の方を見る。彼女は朝食後だというのに、美味しん棒豆腐味を食べながら、スマートフォンを弄っていた。


 どうやら振子たちのテンションにツッコむ気力も無いらしい。



「それで? お前が雪上一舞――で、良いのか?」


「はい。挨拶が遅れて申し訳ないです」


「話題の転換が早すぎる。追いつけない」


「トマトジュース飲むか?」


「ありがとうございます、的当さん……」



 鬼衣人はトマトジュースを受け取ると、葉子と同じく、状況を静観することにした。



「ふーん……確かに雪上一舞、で間違いなさそうだな」


「あの、何か?」


「あ、いや、お前がそれで良いなら、何の問題もない。気にしないでくれ」



 トマトジュースを飲みながら振子たちの話を聞く鬼衣人。


 振子さん、どこか違和感を覚える発言をするなぁ。一舞さんに対して――呑気にそんなことを考えていた。何故、そこまで念入りな本人確認をするのだろうか。



「今、俺たちは雪上の依頼で、サンタクロースを捜しているんです」


「へぇー。でも、サンタクロースを捜すってことは、お前の親――」


「振子!」



 突如、葉子が振子を制止する。何か不味いことでも言おうとしたのだろうか。



「おっと、口がトリプルアクセル」


「ん? 何か言いましたか、振子さん」


「な、何でもない」



 極めて純粋な表情を浮かべ、どのようにサンタクロースを捜すか模索している的当に対して、振子は何も言うことができなかった。本当に、何も言えなかった。



「まあ、明後日はクリスマス・イブだし、こういうことは気持ちの問題だと思うぜ。アタシもほら、ゴーストハンターだし、一昔前まで非科学的と言われていたことを生業にしているわけだし」


「よし! そういうわけでお前たち! 今日もサンタ捜しをするぞ!」


「それは良いけど――的当、あんた今日真矢さんと面会する日じゃないの?」


「あ」



 葉子の指摘を受け、的当は用事があることを思い出した。それも極めて重要で、極めて外せない、幼馴染に会う約束を思い出した。


 葉子が口にした名前――真矢。的当の幼馴染で、現在病院に入院中の少女だ。的当は頻繁に病室を訪れて、アンサーズでの活動を報告しているらしい。


 今日も彼女に会うつもりであったのだろう。



「ま、まあ? 今日はまだクリスマスじゃないし? サンタクロースは、まだ現れないだろ! 今日は各自クリスマスに備えてくれ、以上だ!」


「こいつ、予定被りを誤魔化しやがったのだ」


「そういうお前も、今日は検査の日だろう。歩亜郎」


「あ」


「俺のこと言えないな、歩亜郎?」


「うるさいな、ポモドーロ」


「何っ? トマトを悪口に使うな!」


「僕はトマトをイタリア語で表現しただけで、ポモドーロという言葉が誰に対する何の悪口なのか見当も付かないな。お前の被害妄想ではないのか、的当」


「ぐぬぬ!」


「ポモドーロ。ポモポモ、ポモドーロ。あっ、それぇ! ポモドーロ! って――ん?」


「でも、お兄さんの発音は滅茶苦茶ですが……」


「やーい、歩亜郎! 発音、おバ滑舌男!」


「あんたも馬鹿兄貴と同レベルよ、的当」



 勝ち誇る的当に対して葉子が溜息を吐く。しかし、いつまで経っても歩亜郎は黙ったままだ。いつもならば、しつこく的当にネチネチと言い返すはずなのに――様子がおかしい。


 いつも厄介で面倒で、トラブルメーカーの歩亜郎がこのタイミングで黙り込む光景は奇妙である。鬼衣人は激しい違和感を覚えた。



「歩亜郎お兄さん? どうかしましたか?」


「いない……」


「え?」


「いない――いないのだ、歩和郎が。僕の心の中の、どこにもいない。いつもなら、ポモドーロの発言をした辺りで、トマトに反応して、魂が裏返るはずなのに」


「歩和郎のヤツが、いない? 魂が眠っているわけではないのか?」


「存在そのものが、まるで誰かに追い出されたように」


「今更気がついたのか、歩亜郎?」



 インフィニ(ティー)を飲み終えた振子が、静かに口を開く。どうやら彼女は歩和郎の存在が消失していることに最初から気がついていたようだ。



「保護者、歩和郎は何故」


「何故、いなくなっているのか。その理由はアタシにもわからん。ハッキリ言えることは、今のお前が【喰乱壊答(アンサーイーター)】を使えなくなっていること、そして、三日以内にお前の左腕は魂を失い、壊死同然の状態になるということだ」


「振子、何とかできないの?」


「アタシの想造力(イマヂカラ)、【百霊夜行(ファントムパレード)】で周囲の付喪神を総動員して、歩和郎の魂を捜すしかない」


「そうか! 振子さんのウイルスの力を使えば!」



 百霊夜行(ファントムパレード)はウイルスを周囲に散らし、現世に漂う魂の欠片と反応させることで、霊的存在を具現化し、使役することができる想造力(イマヂカラ)だ。前時代では非科学的存在とされてきた霊的存在を科学的に証明するキッカケとなる研究を発表できた振子であったが、その背景には、この想造力(イマヂカラ)を使うことができるという彼女自身の体質の影響が大きい。



「ただ、なあ?」


「何を渋っているのよ、振子! 馬鹿兄貴たちがどうなってもいいの?」


「違う、葉子。使いたくても使えない状況なんだ」


「どういうことですか、振子さん」


「四季市に帰ってきてから、霊たちの様子がおかしい。まるで、殺意に怯えているような」


「殺意を恐れ、保護者の命令を聞かないということか?」


「そういうことだ。アタシの相棒である暗狐(あんこ)のように、強い霊力を持った付喪神なら、ある程度この市内に蔓延している殺意に対抗できるが、強い霊力を維持するには大量のウイルスが必要だ。しかし、ウイルスを増殖させ続けると、アメイジング・グレイスの抗ウイルス作用が追い付かなくなり、アタシの想像が暴走する可能性がある」


「ならば、保護者。お前の想造力(イマヂカラ)は使わないことにするのだ」


「すまないな、歩亜郎」


「恐らく、市内に蔓延している殺意というのは、神殺し(シャットダウン)の魔女によるものだろう」


「そういうことでしたら」



 ふと、今まで黙っていた一舞が口を開く。



「サンタクロースの捜索は、中断しましょう」


「良いのか、雪上一舞」


「このままだと、ポアロくんの身が危ういということですよね? そのような状況で、サンタクロースの捜索を続行するわけにはいきません。ポアロくんは――その、歩和郎くんという人を捜すことに専念してください」


「そこまで、言うのなら」


「皆さんも、それで良いですね?」



 依頼人である一舞がここまで言ってくれたのならば、それに従うしかないだろう。



「俺は真矢の見舞いのついでに、病院で情報を収集してみる。無いとは思うが、歩和郎のヤツが他の人間に憑りついているかもしれないからな」


「僕も警察署で、情報を集めます」


「なら、アタシは乃鈴たちにも声をかけてみる。神社なら何か解決策があるかも」


「よろしく、頼むのだ」



 それぞれが歩和郎の捜索に向かう中、鬼衣人は出発間際、歩亜郎と振子の会話を耳にする。



「それで? 今回はいつまで続けるつもりだ? この劇場(・・)


「何のことやら、なのだ」


「お前、本当は全部知っているし、全部気が付いているんだろ?」



 丁度そのとき、鬼灯刑事から電話が掛かってくる。鬼衣人は会話の内容に首を傾げつつ、端末を耳に当てながら、急いで警察署へ向かうことにした。


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