吸血鬼・・・だと?
僕は今日二杯目のコーヒーを飲む。ここはノルンの実家、ネストリウス侯爵家の屋敷だ。
僕の隣にはクーリアが、向かいにはノルンが座っており、その傍らにはノルンの侍女さんが立っている。クーリアは美味しそうに出されたケーキを食べており、その姿はとても微笑ましかった。
「まずは自己紹介からしようかな。僕はコウタ。そしてこの子はクーリアだ」
「私はさっきしたからいいわね。ちなみにこの子はメリーナよ」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。じゃあ次に連続幼児誘拐事件の詳細を教えてもらおうかな」
「申し訳ありません。その説明をする前に資料を持ってきます」
そのままメリーナさんは部屋を出てどこかに行ってしまった。そして数分後、メリーナさんがたくさんの資料を持って戻ってきた。
「お待たせしました。こちらが資料になります」
メリーナさんが順番に資料を机に並べていく。おそらくこの順番通りに読めばいいのだろう。
「ありがとうございます」
僕は資料を手に取り目を通していく。その資料はとても分かりやすくまとめられており、ものの数分で全てを読み終えた。
「うん、大体の内容は分かったよ。それでなんで僕に声をかけたの?まったく関係ないと思うんだけど」
「それは私が説明します。コウタさんが今お読みになった資料にも書かれていたと思いますが、我が主でありお嬢様のお父上のルーカス様が重要参考人として王都に連行されました」
僕はうんうんと頷きながら話を聞く。クーリアは黙々とケーキを堪能しているようだ。
「しかしその証拠はとても少なく、そしてどれもこじつけのようなものでした。これでは王国側が早く事件を終わらせようとしていると、そう考えました。それに私たちはルーカス様がそんな事件を起こすとは思えません。よって事件の再捜査を私たちで始めることにしました。ここまではよろしいですか?」
僕はコーヒーを飲む。そして一つ頷く。
「それから私たちは調査を始めました。その調査により浮かび上がってきたのが吸血鬼の存在です。犯行時の状況や誘拐の動機からそう結論に至りました。そして犯人なら必ず昼間に獲物を物色するはずです。吸血鬼の性質と合わせて考えて日傘をさしている、またはローブなどを着ている人物を探すことにしました。そしてお嬢様が見つけたのがコウタさんというわけです」
「なるほどね……」
僕がそう呟くとノルンが単純な疑問を口にした。
「そういえば、メリーナはなんでコウタを家に招いたの?もしかしたら真犯人なのかもしれないのよ?」
「簡単な話ですよ、お嬢様。吸血鬼は他種族と交流しない生き物なのです。しかしコウタさんはクーリアさんと共に行動しています。だから吸血鬼ではないと考えたのです」
「な、なるほどね……」
ノルンは僕と同じように呟く。僕はノルンたちの会話を聞きながらも色々と考えていた。
(吸血鬼……だと?……あ、会いたいッッ!!)
吸血鬼なんてファンタジー世界のモンスターの代表格だ。会いたくないわけないだろう。
今ここでこのチャンスを逃すと吸血鬼をお目にかかれないかもしれない。邪な気持ちなので二人には少し悪い気もするが、ここは一つ、僕が吸血鬼に会うための踏み台になってもらおう。
「よし。事情は分かった。僕も二人に協力するよ」
「え!?」
「よ、よろしいのですか?」
「もちろんだ!クーリア、少し帰るのが遅くなってもいいか?」
「うん!紘太が決めたのならいいよ!」
そういうことで僕たちはノルンたちの吸血鬼探しをすることに決めた。
◇◇◇
「くそっ!なんでこんなことに……」
王城の中にある留置所。ここには裁判前の被疑者や軽度の犯罪を犯した者が拘留されている。
その留置所の一つに彼はいた。黒髪でそれなりに整った服を着ている。
「イルナ……ノルン……」
彼――ルーカス=ネストリウスはそう呟く。
あの日、理由を知らされずに王都に呼び出さたルーカスは王城に着いた瞬間に拘束され、この留置所に収容された。
(あの事件の重要参考人だと?ふざけるなッ!あの事件は俺が調査してたんだぞ!犯人な訳ないだろッ!)
ルーカスは必死に抗議した。だが、誰も聞く耳を持たず、ルーカスはただ裁判を待つ身となっている。
(おかしいとは思ったんだ。国から直接兵士が二人配備されるなんて……)
領地で起こった事件や事故などの調査を行う場合、基本的には領主が独自に調査した後に国へ報告するのだが、今回は調査中にルーカスの元に兵士が来たのだ。
当然、ルーカスはその兵士たちを怪しんだが、王国の兵士だと分かったので一緒に調査をしたのだ。
初めの頃は何もなかった。調査は順調とは行かなかったが、兵士たちはルーカスの指示に従い行動していた。ルーカス自身もその様子を見て、あの時の不信感は杞憂だったと思った。
だが、突然兵士たちは音信不通になった。ルーカスの元にも来なくなり、電話も繋がらず、王都に連絡しても返信は「分からない」の一点張りだった。
ルーカスが兵士たちと再び会ったのは、彼がこの留置所に来てからのことだった。
兵士たちはニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべながら留置所に入れられているルーカスに話しかけた。
「どうも、調査お疲れ様でしたっと」
「おかげ様でこっちは昇進しましたー!」
「「ギャハハハハハ!!!!」」
「お前ら……嵌めたのか?」
「嵌めた?今更ですか?」
「こっちは最初からそのつもりでしたよーー」
兵士たちは元からルーカスを犯人に仕立て上げるつもりで調査の手伝いをしに来たのだ。やはり不信感は杞憂ではなかったのだ。
「くっ……誰の指示だッ!」
「いやいや、教えると本気で思ってるんですか?」
「自分で考えてみてくださいよーー」
兵士たちはルーカスの予想通り誰かの指示で行っていたのだ。ただ、それが誰なのかはルーカスには見当もつかない。
「はぁ……」
ついにはため息が出てしまう。ルーカスはこれからどうすればいいのか、分からないでいた。
すると留置所にカツカツ…と誰かの足音が聞こえた。やけに響くそれはルーカスの元に向かっているようだ。
そしてルーカスが入っている場所の前で足音は止まる。ルーカスは静かに見上げた。
そこにいたのは少女だった。ルーカスの娘であるノルンと同い年くらいの彼女は、後ろに女の兵士を引き連れていた。
「どうも、こんにちは。私は羽島彩っていいます。少しお話ししませんか?」
ルーカスはとても訝しみながら呟いた。
「無理だ」
読んでいただきありがとうございます。
本日で投稿を一旦終了します。続きが気になる方、応援してくださっている方は来年の3月あたりに覚えていたら覗いてください。多分再開してると思います。
今まで本当にありがとうございました。しばしのお別れです。




