第5話:呼び方
「なんか本当に緩かったですね......
彼らがいる意味ってあるんですか?」
「一応、形だけでも必要なのですよ。
それにここは王国ではありませんし、基本的に弱い魔物が入らないようにしているのが仕事ですから」
なるほど門番ではあるが役割が違うのか。
だが、あまりに緩いと治安はどうなのだろうか。麻薬とか運び込むことも簡単であろう。
「一応、そういうのは発覚次第ギルドによって売人、運び屋、使用者は駆逐されますので基本的には大丈夫ですが、問題はどちらかというと疫病などの類ですね。それに関してはギルドも対策しかねますが、その時は王国から神官が転移魔法により派遣されますのでご安心を」
なんか意外と王国って余程のことではない限り参入しないのだな。
ん?しかしよくよく考えればなぜわざわざ権力を分散させてしまったのだろう?
「鋭いですね。初代の人間の王は聡明で権力の集中はいずれ王国の崩壊を招くことを予期しギルドや教会などに権力を分散させたのですよ。あ、そろそろギルドに着きますよ」
初代王が賢かったのはわかったが子孫の方まで考えてなかったのであろうか。だいたい子孫が腐っていくというのがオチであるが......それとも何か契約魔法などの種による契約があるのだろうか、難しい話は苦手なので頭が痛くなってきた。それにいかつい奴らばかりが出入りしているのでギルドの方に集中しよう。肩がぶつかっただけで因縁つけられるのも嫌だしな。
俺は出来るだけ世紀末みたいな奴らを避け、受付の方へ向かった。
「ようこそ、今日はどのようなご用事でしょうか?」
「ギルド登録をお願いしたいのですが」
「かしこまりました。それでは手をこの石版にかざしてください…はい登録完了です」
え、ちょっとビリってしただけでもう完了なのか。名前とか書いてないし、絶対わからんだろ。
「ええ、これで完了です。
それでは説明に入りますね。先ほど右手をかざしてもらいましたがこれは魔力の流れを測ったのです。この魔力というのは個人によって全く異なり滅多なことでは被ることはなくそれにより個人を識別することが可能なのです」
人の指紋みたいなもので識別を可能にしているのか。
「ここからは重要なのでよく聞いてくださいね。ギルドの依頼を受ける際、依頼書に手をかざしてください。そうするとそれが赤い光がボヤッと輝くのでそしたら契約完了です。そしたら依頼終了まで大切に保管して依頼終了後にギルドへ提出してください。ちなみに無くしたら無効になってしまいますからそこのところはお気をつけて」
なるほど、ということは横から奪おうとする輩もいるってわけだ。
最初の頃は報酬賃金も安いであろうし心配はないがランクが上がるにつれて気をつけなくてはいけない。
金庫や預かり所の場所も聞いておかなくては。
「あと、ギルドランクというものがありまして現在…名前なんでしたっけ?」
「春月です」
こういうのは最初に聞くんじゃ......
「春月様ですね。えー、現在春月様は能力面の結果からFランクでありますので基本的に魔物討伐はなく、初心者冒険者育成に役立つような職種を受注してもらいます。基礎を作るための仕事ですし、しっかり報酬も出るのでたくさん受注してくださいね」
魔力量からどのくらいの力量かもわかってしまうのか。
確かに俺はこの世界に来てまだ3日目であり基礎もクソもない。いきなり実戦経験ではなく基礎を作ってくれるとはありがたい。
「では、早速これで」
俺は土方の仕事を選んだ。理由は単純明快、最も体の基礎を作るのに適していると考えたからである。 漫画やアニメでは剣や鎧の重量など無いようなもののように扱っているが、現代の若者ではほぼ不可能であろう。他の依頼はあまり効率的ではないし、のんびりしていられない。
「それでは一時間後、指定した場所へ時間厳守で集合してください」
「かしこまりました。あ、あと宿屋ってどこにありますか?」
少し時間があるのだから今のうちに探しておかなければ。
さすが受付嬢というわけで宿屋の場所に詳しく、細かい情報まで教えてもらい比較的安価で治安も悪くない場所を選んだ。
「良いところを選びましたね!見る目がありますよ。ここの夕飯はなかなか美味しいんですよ!」
どうやら少し前まで冒険者だったらしいが自分があまりにも抜けていることに気づいたようで早々引退しておいたらしい。
率直にそれは正解であると思う。
なぜなら受付ですら肝心な人の名前を聞き忘れるのだから。
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ギルドを出るとギルド前に人混みができており、男たちの目線はある人物に向けられたものであった。
あの美貌だ。目を奪われても仕方がない。
正直、このような様子を見るとなぜ俺なのか不思議でたまらないが、ナンパでもされるのは癪なので、
「サラさん、お待たせしました。先ほど早速依頼を受けたのですが一時間後なのでその間に受付の人に教えてもらった宿屋へ行き予約しておきたいのですがどうですか?」
我ながらよくやったと思うが彼らは男がいるとわかった途端、俺に対して軽く舌打ちをしたりボソッと毒を吐いてはどこかへ行ってしまった。
わかってはいたがそんなに露骨にやられると辛いものだ。まぁ、モテる男も辛いけどね?なんて言い聞かせて宿屋へ手を引いた。
その途中、
「春月殿、後で話したいことが」
え、突然どうしたのだろう。さっきのがまずかったのか。こういうものはボコボコにしてこそ男みたいな!?
そうこう考えているうちに宿屋に着いてしまった。少し憂鬱であるが、それと同時に少し気になっている自分がいる。
そのためか鍵を受け取り、借りた部屋へ小走りになった。
なんか、俺って余裕の無い男だな......
そう思いながら部屋に入ると突然、
「春月殿、私が先ほど言いたかったことがわかるでしょうか?」
えっ、言いたかったこと?急に何であろう…
「女性と泊まるのにこの宿はないだろう…とか?」
これしか思い当たらなかったが考えたら宿に着く前から言ってたし全く関係もなく的外れである。
「…違います」
でしょうね。
では何であろうか......女性と付き合ったことなどないのでかなりの難題だ。
一旦まず、先ほどの状況を思い出そう。
男たちがサラさん目的でギルドの前で溜まっていたので俺がサラさんを華麗に連れ出し無事宿屋へ到着、ってのがこれまでの流れであるが問題点がどこかにあったのだ。
......ダメだ、お手上げである。
正直に言おう。
「すみません、わかりません」
流石にこれはキレられてもおかしくないが予想に反して違う反応であった。
「これからは私のことを<サラ>と呼んでください。私たちはいずれ夫婦になるのですから他人行儀な話し方は今この時で終わりです、じゃなく終わり!」
あぁ、なるほどそういうことだったのか。
言われれば恋人を敬称で呼ぶ人は少ないであろう。
特にサラさん、いやサラは呼び捨てあう環境にいなかったので憧れみたいなのがあるのかもしれない。
俺も正直、タメ口の方がいい気がする。
いや、この流れだ。そうしよう。
「んじゃ、俺のこともこれからは<春月>でお願い、サラ」
さん付けしないとやはり違和感があるが、サラはよほど嬉しかったのだろうか、嬉しさが態度に滲み出ている。
というのもニコニコしながらベッドの上で鼻歌を歌い俺を見つめているからである。
この人綺麗なだけでなく可愛さもあってグッとくるものがある。
だが、時間は残酷であり集合時間10分前になってしまった。
「そろそろ集合時間だから行くよ」
「怪我しないようにね」
俺はコクっと頷き、死なない努力だけはしよう。そう思いながら集合場所へ向かった。
そんな日々の繰り返しが二ヶ月も続いた。
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