第4話:門までの時間
ここがプリメランか…
始まりの街とかいうらしいが正直、街というより砦みたいだ。街といえば俺の世界で当てはめるのもアレだが木やコンクリート、レンガの壁に屋根があるイメージであるのに対しここはエアーズロックみたいな一枚岩を人が住めるように穴を開けたようなものが何個も見える。防壁の外にいるので上の方しか見えないがおそらくそうであろう。
「大昔は人間族の三大砦の一つだったのですよ。しかし、今から約二千年前に地殻変動によって急激に変わり砦の意味を失いましたが、一部の兵士がここに残り街として再建し重大な交易路となり砦としての機能は終わったため「始まりの街」と言われるのですよ」
ふむ、だが、
「砦として使用されていたのなら強い魔物が辺りにうろついてそうですけど…」
「プリメラン辺りのモンスターは地殻変動で個体数の少ない強力な魔物が姿を消し、あまり強くない魔物がここへ住み着いた模様です。おかげで経験の浅い冒険者の経験値を高めるのにうってつけなんです」
なるほど、そういうわけでプリメランなのか。最初の説明だと明らか強い魔物が辺りにいそうなイメージだったが、
「ですが、油断してはいけません、冒険者いつどんなとき死ぬかわかりませんから、幸せな結婚生活を送る前に屍にならないでくださいね」
「もちろんです。しかし、サラさんは博識ですね、そこまで細かく覚えれませんよ」
「魔王として君臨する際、地形、気候把握をしていなければそこでの戦い方で後手に回ってしまいますからね。己を知り敵を知れば百戦危うからずですからね。まぁ、敵というより地形なので少し違う気もしますけど」
たしかに戦の場の地形や気候を知らなければうまく攻めることもできず下手すると逆手に取られてしまうな。俺も今から覚えておかなければ…
「それより春月殿…そろそろ離れてもいいと思いますけど」
ん?そういえば、ここに着いてからずっと抱いたままであった。
「あぁ!すみません!」
パッと腕を離すのと同時に謝った。
さっきまでは抱くのすら躊躇っていたのに。
サラさんの方はというと、
「あ、いえ、嫌とかではないですよ?ただ、その…恥ずかしいでございます」
ものすごくテンパっていた。
俺も正直恥ずかしいですよ。人生で女性を抱くなんて経験は一度たりともないのだから。
まぁ、これからも生きていればこのようなこともあるんだ。いちいち中学生の付き合いたてではないのだから堂々としよう。それよりも早く街に行こう。流石に剣の振り方もわからないのにここにいるのはまずい。サラさんは強いであろうからいいとして問題は俺だ。
「そ、それはそうと街に行きましょう。ここは安全ではありませんし」
サラさんもそれには同感し、俺たちは急ぎ足でプリメランの門へ向かった。
途中、門番に何を聞かれるかを聞いておいた。
「基本、人間族ならあまりしつこくは聞かれませんよ。持ち物検査くらいですね。
逆に魔族の場合、かなり面倒ですよ。
善良な魔族の方が多いのに偏見からいちいち街に来た理由を逐一聞いてきますから」
こっちの世界も偏見というものがあるのだな。
そうなるとサラさんも…
「あ、私の方は見た目からほぼ人間族なのと門番の方は意外とシャイの方が多いので急かせば大丈夫だと思いますよ。
実際何度も街に行ったりしてますし」
多分それ、貴女のダイナマイトボディのせいであると思います。
この人は無自覚なのだろうか、いや自覚しているはずだ。
自分が門番だったら目のやりどころに困り早めに持ち物検査を切り上げるであろう。
「それでは大丈夫ですね」
「ええ。その後、街へ入れたらギルドに向かいましょう。強くなるまでしばらくこの街に滞在しなければいけないでしょうし、稼ぐために登録しておきましょう」
「住所とかないうえにサラさんは魔族ですがギルドに登録できるのですか?」
その瞬間、何か言おうとしたようだが少し考え込み冷たい口調で説明し始めた。
「住所は無くてもなんとかなりますよ。実際、ギルドにはスラム街の人の割合が多いのですよ。うまくいけば人生一発逆転できますしね。あと、魔族も基本できます」
最後のところは口調が荒々しくなった。
こればかりは鈍感な俺でもさすがに察した。これは口調から怒っていらっしゃる。おそらく「魔族は登録できるか?」というのが地雷だったに違いない。いわゆる外国人に「箸持てますか?」みたいなcanを使うものであり、馬鹿にされたようなものであり不快であろう。俺は即座に先ほどのことに対し謝り事なきを得た。
「いえいえ!私の方も少しカッとなってしまい申し訳無いです春月殿はまだこちらの世界に来たばかりに加え魔族に対してマイナス発言を私自身がしていたのに…」
いやいや、これに関しては俺が悪い。
こういう問題はかなり繊細なものであるのに不用意な発言がよくなかった。これは余裕ができたら文字だけではなく歴史を勉強しなければいけないな。
少し重々しい空気になってしまったがしばらくすると門が見えてきた。
「…あ、そろそろ着きそうですよ」
先ほどのことを気にしてか無言である。
この状態で門番のところへ行くのは良くないな。
「あの先ほどのことは気にしなくていいですよ?それに僕は魔族にいい人が多いのだってわかってますから」
実際、ほんの短い間だが居心地は悪くはなかった。
婿として親切だけだったのかもしれないが、少なくとも俺は彼ら全員悪い奴らではないことはわかっている。
「もし、この旅を終えたら魔族と人間族との共存のため、たとえ生きている間は不可能でも何十、何百年後のための架け橋になれるように誠心誠意取り組みます」
あまり人前で公言したことなどなかったから恥ずかしかったが、そのおかげかサラさんの表情が緩んだ。
「やはりあなたでよかった」
その表情は反則である。女神かよ。
ただただプリメランの門へ向かっていただけであるのに随分と密の濃い時間を過ごした気がした。
そのくせ、原因となった門番の持ち物検査は1分足らずで終了した。
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