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暗殺者たちの鎮魂歌(レクイエム) ―最後の依頼―  作者: レモンティー


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第十七話:雨の帰り道

雨は、相変わらず降り続いていた。

さっきまでの出来事が、嘘みたいに――

ただの街の音だけが戻っている。

車が水を跳ねる音。

遠くの信号機。

コンビニの自動ドアが開く軽い電子音。

ユウは、しばらくその場に立ち尽くしていた。

「……なあ」

ぽつりと呟く。

「今の、夢じゃないよな」

マリー・ブラッドが傘を差しながら、ちらりと見る。

「夢にしては、後味が悪すぎるわね」

ハンター・マイケルは、ポケットから煙草を取り出しかけて、やめた。

「現実だろ。残念ながら」

三人の間に、妙な静けさが流れる。

さっきまで“世界の外側”みたいな話をしていたのに、

今はただの雨の路地だ。

そのギャップが、逆に重かった。

「……帰るか」

ハンター・マイケルが言う。

ユウは少し考えてから、頷いた。

「……ああ」

歩き出す。

水たまりを避けながら、特に会話もなく。

しばらくして、マリー・ブラッドが口を開く。

「ねえ、ユウ」

「ん?」

「“戻れない”って言われたこと、どう思ってるの」

ユウはすぐには答えなかった。

しばらく歩いて、信号で立ち止まる。

赤い光が、濡れた道路に反射して揺れている。

「……正直、よく分かんねえ」

本音だった。

「でもさ」

続ける。

「前から、普通じゃなかった気はする」

ハンター・マイケルが小さく笑う。

ユウも苦笑する。

「だよな」

青に変わる。

また歩き出す。

「ただ――」

ユウは少しだけ、声を落とす。

「選べって言われたのは、悪くない」

マリー・ブラッドが横を見る。

「強がり?」

「半分は」

ユウは肩をすくめる。

「でも、半分は本気だ」

雨が少し強くなる。

足音が、水に沈む。

「今までってさ」

ユウは続ける。

「流されてただけな気がするんだ」

誰かに頼まれて。

状況に押されて。

なんとなく、その場で決めて。

「でも今回は違う」

立ち止まる。

小さな交差点の真ん中。

「自分で決めろって言われた」

顔を上げる。

「だったら、ちゃんと考えないとなって思う」

マリー・ブラッドは、少しだけ柔らかい表情になる。

「……らしくないくらい真面目ね」

ハンター・マイケルが笑う。

「成長ってやつだろ」

ユウは鼻で笑う。

「どうだか」

少しだけ、空気が軽くなる。


しばらく歩いて、コンビニの前に着く。

明るい光が、雨の中で妙に安心感をくれる。

ハンター・マイケルが扉を指す。

「コーヒーでも飲んでくか」

マリー・ブラッドが頷く。

「賛成」

ユウも、小さく息を吐いてから言う。

「……ああ、いいな」

自動ドアが開く。

暖かい空気と、コーヒーの匂い。

さっきまでの異常が、遠ざかる。

それでも。

完全には消えない。

レジに並びながら、ユウはぼんやり思う。

――これからどうするか。

依頼人のこと。

次の仕事のこと。

自分の力のこと。

全部、現実だ。

逃げられない。

そしてもう一つ。

――帰る場所のこと。

「……なあ、マイケル」

ユウが小さく呼ぶ。

「ん?」

「俺さ」

言い淀む。

「……あの家、もう無理だよな」

一瞬だけ、空気が止まる。

マリー・ブラッドが先に答えた。

「当然でしょ」

はっきりと言い切る。

「監視されてる可能性もあるし、何より――」

一拍置いて。

「“普通の生活”には戻れないって、自分でも分かってるんじゃない?」

ユウは苦笑する。

「……やっぱりな」

ハンター・マイケルが、コーヒーを受け取りながら言う。

「なら決まりだな」

「何が?」

「うちに来いよ」

さらっと言った。

ユウが固まる。

「……は?」

マリーも肩をすくめる。

「ちょうど空いてる部屋あるし」

「いやいやいや」

ユウは慌てる。

「そんな簡単に――」

マイケルが遮る。

「簡単じゃないかもしれないが」

真顔だった。

「今のお前を一人にする方が危ない」

言葉に重みがある。

「何か来ても対応できる場所じゃねえとダメだ」

マリーが続ける。

「それに、あそこなら最低限の設備はある」

「武器も、情報も、人も」

ユウは黙る。

逃げ場がないのは分かっている。

でも――

「……迷惑じゃないのか」

ぽつりと出た本音。

マイケルが笑う。

「今さらだろ」

マリーも小さく笑う。

「とっくに巻き込まれてるわよ、こっちは」

その軽さに、少し救われる。

ユウはしばらく考えてから、息を吐く。

「……じゃあ」

顔を上げる。

「世話になる」

短い言葉。

でも、覚悟はあった。

マイケルが頷く。

「決まりだ」

マリーも言う。

「ようこそ、ってとこかしらね」

ユウは苦笑する。

「物騒な歓迎だな」

コーヒーを持つ手が、少しだけ温かい。

外では、まだ雨が降っている。

けれど。

さっきよりも、少しだけ違って聞こえた。

帰る場所は、もう前とは違う。

それでも――

“居場所”は、確かにそこにあった。

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