第六話 灰狼の牙
休憩も終わり、次の目的地に向かった。夜の野営地へと歩みを進める。まだまだ森は続き、同じ景色ばかりで本当に進んでいるのか錯覚さえ起こす。森の木陰で暑さは凌げるものの歩き続けているロランの背中はリュックもあって汗がびっしょりだった。時折聞こえる物音に体をびくつかせ、ベルトにあるナイフを触る。何も起きないことを確認し、再び歩き進めていた。
そんな時、大きな物音が近付いて来る。音のする方へ目をやるとロランよりもはるかに大きい魔獣が歩いてきていた。その姿は二足歩行の豚の格好をしていた。ロランは咄嗟に物陰に隠れ、息を止め、魔獣の様子を見ていた。ジリジリと緊張感が走り、後ずさりするロラン。逃げるのか、このまま待機なのか選択に迷っていた時、足元の小枝を踏んで音を鳴らしてしまった。その音に気付いた魔獣はこちらへ向かってくる。足が震え、身動きも取れないロランを守るようにガンテが体当たりを始めた。しかし、ガンテは弾き飛ばされ、木に叩きつけられてしまった。うずくまることしか出来ないロラン。もう、ここで死ぬのだと覚悟していた。その時、素早い動きで魔獣とロランの間に割って入った人たちがいた。それは見事なまでに魔獣の動きを攪乱し、素早い動きで切りかかっていた。連携を取り合い、魔法や剣で攻撃を仕掛け、最後のとどめを刺していた。
「君!大丈夫?」
「あ、ありがとうございます…。助かりました。」
「ドワーフ族だよね?珍しいな。なんで、こんな所に?」
「リーフェルの街に行く途中です…。」
「ドワーフ族って、わりと閉鎖的な種族と聞いていたんだが、何か理由でもあるのか?」
「………。」
「言いたくなければ、無理にとは言わないさ。俺たちもリーフェルに戻るところだから、一緒に来るか?」
「はい!お願いします…。」
話を聞くと助けてくれたのは『灰狼の牙』という4人組の冒険者パーティーだった。戦士のリク、武闘家のアレル、魔法使いのリンカ、ヒーラーのジンの4人組だ。冒険者ギルドの依頼でオークという魔獣狩りをしていたのだとか。この森で普段現れる事のないオークが出没し、それの討伐が今回の依頼だったらしい。
「お兄さんたちはCランク冒険者ですか?」
「あぁ、そうだ。よくわかったな。」
「ギルドリングの色が…。さっきの動きも凄かったです…。」
「おぅ、ありがとな。そういえば、君、名前は?」
「あ、ロランです。ロラン=オージャー。そしてこいつが岩モグラのガンテです。」
ケガをしていたガンテを抱えながら、ロランはみんなにも紹介をした。灰狼の牙の4人は怪訝な顔を見せ、不思議そうに問いかけた。
「ロラン…そいつは…魔獣だぞ。なんで…持っているんだ…?」
「え~と、俺の従魔…だから…?」
「ハハハ、面白れぇな~。そうか、従魔か。ドワーフ族も珍しいのに、従魔まで連れているとは…。よし、わかった。ジン、こいつ治してやれるか?」
「オッケー、任せて。」
ジンが呪文を唱えると、ガンテの傷口がみるみるうちに塞がり、何もなかったような回復力を見せた。そして、罠でケガをした足も直っていた。
「ありがとう!」
「キュィ♪」
「可愛いじゃねぇか。こいつのこと、大事にしてやれよ。」
リクはガンテの頭をなでながら、ロランに声を掛けた。
こうして、ロランは新たな旅仲間と共に野営地へと向かうことになった。途中何度か魔獣に出くわすも、灰狼の牙の護衛により、無事に目的地に到着した。
夕暮れ時、野営地で火をつけようとすると魔法使いのリンカが火魔法でいとも簡単に付けてくれた。
「リンカさん、ありがとうございます。」
「いいわよ。いつものことだから。」
物静かなリンカはその言葉だけを残し、さっさと干し肉を食べて寝てしまった。ロランはなんだか寂しさはあるものの悪い人ではない事は理解していた。
「近くに川もあるし、自由にしてくれ。周りは見張っておくから大丈夫だ。この辺は魔獣もあまり出ない地帯だから、大丈夫だとは思うが…。」
「ありがとうございます。じゃ、少しだけ…。」
ロランは少しの時間、川に入ることにした。そして、シャツとズボンを川の流れで洗濯をして、新しく着替えて川から上がった。いつものようにロープを使って、干した。すると、リクもアレルも川に飛び込み、服ごと入っていった。
「気持ちいい~!最高だなぁ~!ハハハ」
ジンは周りに目を光らせ、見張りをしてくれている。冒険者パーティーは危険が及ばないように、誰かが見張り役をすることを初めて知ったロランはこの人たちの助けになるように行動したいと感じていた。
「ジンさん、俺が見張りしておくので、川に入って来てもいいですよ。」
「いや、大丈夫だ…。あいつらが戻ったら入るからさ。ありがとな。飯食べたら、さっさと寝ろよ。お子ちゃまは寝る時間だぜ。」
「でも……わ…わかりました…。もし、見張りを代わってほしい時は言ってくださいね。」
「あぁ、わかった。」
川に入って賑やかなリクとアレルに対して、冷めているジンにどんな話を振ればいいのかわからなくなっていたロラン。仲良くなりたい気持ちはあったが、怖さもあって話しかけられずにいた。干し肉を食べながら、沈黙の時間が続いていた。
リクとアレルが濡れた服のままで川から上がってきた。
「おぅ、ジン待たせたな。見張り代わるぜ。」
「お前ら、本当に着替え持ってないんだな。少しはロランを見習えよ。」
「どうせ汚れるんだし、良いじゃねぇか。」
「僕は着替えがあるからいいけどさ。」
ジンは小さく呟き、川の方へ向かっていった。
「ロラン、今日はゆっくり休めよ。俺たちで見張りしてやるからよ。」
「お、俺も見張り代わります。皆さんに迷惑ばかりかけるのは申し訳ないので!」
「いや、そういう訳にはいかねぇ。お前はまだ子供だ。子供を守るのが大人の役目だ!子供は何も考えず寝てろ!」
リクの力強い言葉にロランは渋々、甘えることにした。魔獣の声が響く森の中での見張りは戦い慣れしていないロランにとって、危険なことだった。それを理解するのはもっと先の話である。
焚き火の向こうで見張りを続けるリクたちを見ながら、ロランは静かに目を閉じた。




