第五話 岩モグラのガンテ
森の中は日の光が少し入るぐらいで、木が密集している。ただ、道はちゃんとある。暗闇で見えないわけじゃない。平野とは違い嫌な空気感だけはあった。カサカサと風でなびく葉っぱのこすれる音が恐怖を増していた。戦闘などしたことが無いロランが魔獣に出くわした時に戦えるのか不安しかなかったからだ。
―パキッ…ガサガサガサ…ザッ…ガチャ…
ロランは音のしたほうへ目を向けるが何も見つけられなかった。恐る恐る近づき、草むらをかき分けて確認してみると、そこには罠にかかった岩モグラがいた。硬い皮膚の持ち主で土を潜るのが得意なのである。初めての生き物に遭遇し、驚きすぎて、声も出なかった。危険な生き物なのかもわからないが、このまま放っておくわけにもいかないと思った。
「キュィィ…」
今にも命が途絶えそうな細い声で救いを求めている岩モグラをロランは丁寧に罠を外して、左手に巻いていたサラシの一部を切り取り、傷に巻いて上げた。すると、出血が止まり、不思議な力で痛みも和らいだようだった。ロランも特に特別なことは何もしていない。歩くことさえ困難だった岩モグラも歩く事が出来るようになっていた。
「少しは元気になったのかな…?よくわかんないけど、良かったな…。じゃあ、もう引っ掛かるなよ。またな。」
岩モグラをその場に置いて、隣町まで歩みを進めることにした。新緑の木々を見つめながら、急ぎ足で進んでいく。森を抜けるには一日半かかる予定だった。冊子を読むと森の中でも比較的安全な場所があるという。その場所を今夜の野営地に決めて、歩みを進めていた。
ロランが歩いていると、後ろの方で物音がする。恐る恐る振り返ってみるが、誰もいない。また前を向いて、進むがやはりカサカサと音が聞こえる。ロランが歩みを止めると、その音もしなくなる。怖くなったロランは走って、何者かの追跡から逃れようと必死に足を動かした。息が上がりながら、振り向いたらもうその追跡は止んでいた。
(なんだよ…なんだよ…ビックリしたぁ…)
体中で心臓の鼓動が聞こえてくるような感覚に襲われていた。グランバルドにいた頃はこんな事はなかった。守られて生きてきたことを実感したロランは昔の事を思い出して、また、涙が出てきたがもう前へ進むしか出来ない事も知っている。涙をこらえて、地に足を付けて、一歩一歩進んでいった。
その時、凄い勢いで灰色の獣が現れた。赤い目をしたそいつはロランに今にも飛び掛かろうとしている。ロランは突然のことに腰を抜かし、ナイフだけは構えて立っていた。足の震えが止まらない。ただ、目だけはそらさないようにジッと相手を見つめる。そこに、横から飛んでくる影が見えた。その影は、獣の顔に体当たりをした。ロランは驚き、そのまま動けないでいた。すると、また影が飛んできて、獣に体当たりをする。我に返ったロランはその隙にナイフで攻撃を仕掛け、頭に突き刺した。すると、血が噴き出し、消滅した。何が起きたのかわからなかった。ロランは影の正体を知るべく、声を掛けてみた。
「助けてくれてありがとう。顔を出してくれないかな?」
すると、静かにロランに近づくのはあの罠に掛かってケガをしていた岩モグラの姿だった。
「君が助けてくれたの?ありがとう。足は大丈夫?」
ロランは静かに抱きかかえ、足の様子を伺う。この時、思い返してみた。
「もしかして…君が後ろから付いてきていたの…?」
「キュィィ~…。」
「そうか…君、一人なの?俺と一緒に行く?」
「キュィィィーーーー♪」
こうして、思いがけぬロランの旅友達が増えたのだった。
「あ、そうだ!名前付けないとな。何がいいかなぁ。」
「キュィ…」
少し考えるロランは岩モグラを見つめながら、名前の候補を探していった。
「ガンテ!!!ガンテはどうだ?岩みたいな硬い皮膚持っているからさ。」
「キュィーーー♪」
「よし、君の名前はガンテで決まり!」
その時、ギルドリングが白い光を纏った。驚いて、ガンテを落としそうになるロラン。しっかりしがみつくガンテの爪がロランの皮膚に突き刺さった。
「いってぇ~~~~~!!」
「キュイ…。」
ロランはガンテを大事そうに抱えなおして、そっと、肩にのせた。
「ガンテ、ごめん、ごめん。怖かったか?あの光は何だったんだろうな。」
ロランはそっとギルドリングを触って確認してみた。すると、目の前にロランのステータスが映像化され出現した。
「なんだこれ…。初めて見たな…。……あ、成人の儀でみんなが触っていたのはこれか…。」
成人の儀で子供たちが触って確かめていたのはステータスを見ていたことを今になって気づいたロランだった。隅から隅まで今の情報を確認する。ただ、そこには黒いリングについては書かれていなかった。
「ん?なんだこれ?従魔…?ガンテ…????お前、魔獣だったのか!?と、言うかいつの間に従魔になったんだ?」
「キュィ!」
ロランは知らない間にガンテを従魔にしていた。
そして、そのステータスにはもう一つの機能があった。それは魔獣図鑑だ。生息地や名前、ランクなど情報が記載されていた。目の前の魔獣を自動で記録してくれるらしい。
「今の魔獣も載っているみたいだな。え~と…灰芽ウルフというのか。Fランクだってよ。」
「キュィ~♪」
この世界では倒した魔獣から魔石と素材が出る。灰芽ウルフを倒した周辺には魔石と毛皮が落ちていた。ロランは素材をリュックに入れた。
思いがけぬ岩モグラのガンテを相棒に迎え入れ、旅を続けることになった。ステータスを再び確認すると、ロランのスキルとガンテのスキルも確認できるようになっていた。そして、共にLv1を示していた。ロランのステータス【力】=D、【守り】=C、【速さ】=E、【魔力】=F、【器用】=C、【感知】=E、【精神】=D、そして、【???】=測定不能だった。ロランは頭を傾げ、測定不能のステータスに疑問を持ちつつも、ガンテのステータス確認に移った。ガンテのステータスは【力】=E、【守り】=C、【速さ】=D、【魔力】=F、【感知】=Cだった。ガンテの感知能力はロランよりも高く、スキルを確認した。ガンテのスキルには鉱石感知Lv1が付いていた。
「ガンテ、お前凄いな~。鉱石も探す事が出来るんだな。」
「キュィ♪」
ガンテのスキルは他にもある。穴掘りLv2、体当たりLv1、硬化皮膚Lv1がスキルとして付与されていた。一方ロランのスキルには採掘Lv1のみだった。
「ガンテに負けた…。」
ロランはなんだか悔しさがあった。しかし、相手がガンテならなぜか許してしまう。そんな感情になっていた。
「それじゃ、出発するか。今日の野営地までまだあるからな。」
「キュィキュィ♪」
ロラン達は再び歩き始めた。ガンテを肩に乗せ、新緑の森を進んでいく。この頃には不思議とロランの恐怖心も薄れて、和やかに話をしながら、歩いていた。川のほとりで休憩を挟み、水分補給と干し肉を頂きながら、足の疲れを癒していた。
「ガンテ、そういえば、ご飯はどうしているんだ?」
ロランがガンテに問いかけると、ゴソゴソと急に土に潜り始めた。
「ガンテ!どこに行くんだよ…?おい…。」
なぜか、急にロランは不安に襲われた。また、一人になってしまったロランは寂しさと怖さが交錯していた。何度も叫んでいた。すると再び、ぼこっと土が盛り上がり、ひょこっとガンテが顔を出した。安堵するロランはガンテの口元を見つめていた。元気に丸々と太ったうにょうにょと動く生き物を加えていた。ロランは咄嗟にステータスを開いて確認してみることにした。正体は『ミミズ』と呼ばれるものらしい。土の中で生息する生き物で、畑とかにも生息しているらしい。
「ガンテのご飯はそれなのか?うげぇ~、よく食べられるなそんなの…。」
「キュィ♪」
とても美味しそうにムシャムシャしていて、ロランはもう何も言うことはなかった。




