第二十一話 災い?
建物は破壊されていて、数少ない住人たちが被害状況を確認していた。ロラン達は呆然と立ち尽くしていた。綺麗だった港町リーフェルが跡形もなく消え去っていた。辺りは焼け焦げた匂いと土埃で息苦しい空気で包まれていた。そして、何より、住人たちが息絶えて、倒れていた。それはもう、見るも無残だった。何が起きたのか把握できていない。急ぎ、ギルドへと向かった。かろうじて、ギルド周辺は無事だった。
中に入ると、ギルドマスターと数少ない冒険者が話し合いをしていた。
「おぅ、お前たち無事だったか…。」
「ギルドマスター!何が起こったんですか!?街が…。」
「…………。」
ギルドマスターは言葉を発せないでいた。それほど、大ごとだという事を物語っていた。ギルドマスターは集まっている冒険者たちに事の発端を話し始めた。
「おおよそ、三百年前…。魔王によって、周りの森は焼かれ、焼け野原になり、沢山の村や街が破壊されていた。沢山の人が亡くなり、そして、食料もなく、飢餓で苦しみ亡くなる人もいた。暴れまわる魔王を抑え込むため、一人の勇者が立ち上がった…。強大な魔力で魔王を封印石に閉じ込め、平和が訪れた…。その封印石はこのリーフェルの地下に保管していたんだ。三百年を経て、この土地は発展をし、リーフェルの街が出来ていった。この言い伝えを知るものはもはやギルドマスターとその他一部の人間だけだ。魔獣の襲撃によって、何者かが、封印石を破壊し、魔王を目覚めさせてしまった。もう手の打ちようがないんだ。三百年前の事件をまた繰り返そうとしている。勇者が出てこない限り…俺たちにはもう…。」
ギルドマスターは悔しそうに語っていた。そして、死を覚悟していた。諦めに近い感情がロランの心にも届いた。ロランはこれからどう生きて行けばいいのかわからなかった。ただ、このまま諦めて死を待つのだけは嫌だという感情だけは残っていた。
「ギルドマスター!その魔王はどこへ行ったのかわかるのか?もしかしたら、今なら倒せるかもしれねぇじゃん!」
ロランが質問しようとしたとき、ゲイルが真っ先に言葉を発していた。周りの人間はどよめいていた。
「相手は魔王だぞ?倒せるわけねぇだろ。」
「おい、どこかに逃げようぜ。」
一部の冒険者はリーフェルから急いで立ち去ろうとしていた。その時ロランはもう一度考える時間を作るように懇願した。
「あの…封印が解かれた今、もう魔族が襲いに来るのは考えにくいと思います。俺たちが今やるべきことは衣食住の安定供給だと思いますが、どうでしょうか?ゲイルの話もわかるんだけど、相手がどれくらいの強さかわからない今、無駄に犠牲を増やしかねない。なら、今はまず生きるために行動を移すべきだと思います。」
ロランは皆の顔を見ながら、考えを主張した。ゲイルもまた、ロランの話に耳を傾け、真剣な眼差しで見つめている。
「そうだな。まずは生活が出来るように頑張ろうぜ。」
ゲイルもロランの主張に賛同した。
ロラン達は息絶えた住人たちの墓を作ることにした。無数の墓が被害を物語っていた。ロランは許せなかった。魔獣襲撃でこんなに被害が出た事も、そして、自分の弱さも憎んでいた。本当はゲイルのようにすぐにでも魔王に仕返しをしてやりたいと思った。だが、ロランの力ではすぐ負けることも理解していた。生きるために生活を整え、その間に強くなるために鍛えねばならないと心に決めていた。苦しかった。悲しかった。ロランに優しくしてくれた人間たちも被害に遭って、泣きたくなっていた。だが、ロランは泣かなかった。ここでも、父親の『男は人前で泣くものじゃない…』が頭をよぎっていた。
(父さん!つくづく、俺の黒鉄リングは災厄を招いているみたいだ…街を離れて正解だったかもしれないな…。)
ロランは今回の被害が自分のせいだと思い込んでしまった。特別な黒鉄リングの災いによって、引き起こされたのだと…。このままリーフェルに残る選択肢もある。ただ、ロランは皆を傷つけないために、街を出ることも考え始めていた。
ロランは静かにゲイルに相談をした。
「ねぇ、ゲイル…。俺の黒鉄リングが災いを招いているとしたらどうする?俺、このまま街にいない方がいいと思っているんだ。俺が街にいると災いがやってくる。そんな気がしてならないよ。」
「今回の件はロランのせいじゃない!たまたま、起きただけだ。それに、皆に生きるために頑張ろうって、言ったばかりじゃないか!ロランがみんなを見捨てて逃げるのかよ!」
ゲイルは少し怒った口調でロランに強い言葉を掛けた。ゲイルの言葉も理解はしていた。だが、迷惑をかけてしまうんじゃないかという恐怖でロランの頭がいっぱいになっていた。
「ロラン、一人で抱え込むな!とりあえず、俺たちも皆の為に動こうぜ!」
ゲイルはロランを一喝し、生きるためにやるべきことを再認識させてくれた。まだ、何をするべきか定まっていない中、不安はあるが、模索しながら、進めていくことになる。
ロランの使っていた宿屋は半壊していた。このまま住み続けることは難しいだろう。綺麗だった海も、今では船の残骸が浮いていて、砂浜にも木片が流れ着いていた。リーフェルの綺麗な海は魔獣の手によって奪われてしまったのだ。街のはずれには畑もあったが焼かれて、生きている作物はほとんどなかった。そこで、ギルドマスターに食料について話を聞いてみることにした。
「今いる人数分の食料は足りていますか?」
「…あぁ、それがな…。全部、焼けてしまって、残りも少ないんだ。家畜もほとんど、焼けてしまったみたいで、肉が手に入らないようだ…。残っているのは穀物と少量の種だけなんだ…。」
「ギルドマスター!その穀物と種を俺に預からせてもらえませんか?」
「それはダメだ!これは皆が食べるために残しておかねばならん!お前の為だけに渡すわけにはいかん!!!」
ギルドマスターもみんなの為を思い、ロランの話を制止して、断っていた。しかし、ロランはギルドマスターに話をすることを辞めなかった。
「一度、畑の方に来てもらえますか?見せたいものがあるんです。」
ロランは、そう言うと焼け野原になった畑にギルドマスターを連れて行った。
「ガンテ!潜って、畑を耕してくれ!」
「キュィ♪」
ロランが指示を出すと、ガンテが畑に潜り、耕し始めた。みるみるうちに空気の入ったふかふかの土へと変わっていった。その畑にギルドマスターから一粒の種だけを貰い、ロランのスキルを見せることにした。
「ギルドマスター、良いですか?少し、見ていてくださいね。」
ロランは再生のスキルをギルドマスターに見せた。すると、土の中からみるみる可愛らしい双葉が出てきて、どんどんと成長していく。作物を目の当たりにして、ギルドマスターの顔色が変わった。
「お前、何だこのスキルは…。見たことが無い…。作物が成長したぞ…。」
「再生のスキルです。植物しか再生できないですが、今の状況ならこのスキルが役に立つと思って。」
ギルドマスターは目が点となって、驚いている。本当にこのスキルを見たことが無かったのだろう。
「鉱脈発見といい、このスキルといい、お前はどれだけ俺たちに可能性を見出すんだ。お前はホント、凄いやつだったんだな。」
「そんなことないです。ただ、みんなが困っている時は助け合わないと…。」
ロランは謙遜した。困っている人を助けるためだった。役に立てそうで嬉しさもあった。
ギルドマスターから穀物と種をすべて預かることとなった。その作物をすべて植えて、一部の区画で種を作り、大きい区画では食物用に成長させるように、スキルを使っていった。
「ギルドマスター!この畑は俺に任せてください。ただ、スキルを使うとそれなりに疲労が蓄積するので、いっぺんには成長できなくて…しばらく、待ってもらえますか?」
「あぁ、今はまだ、食料不足にはなっていないから、しばらくは大丈夫だ。任せてもいいか?」
ロランは首を縦に振った。ゲイルはロランが畑作業をしている時は、街の冒険者と狩りに出かけることが増えていった。それは肉を手に入れるためだった。魔獣の他に野生の動物も近くの森には棲みついている。魔獣と戦いながら、野生の動物を探して狩りをするのが、リーフェルの街での冒険者の役割でもあった。
これからの事は何もまだ決まっていない。ただ、生きるために一人一人が歯を食いしばってやれることをやっていくのみだった。




