第79話 vs.討伐軍 ⑱ -セラド戦-
いつの間にかGWに突入ですね。
この討伐軍編がこれほど長くなるとは思ってませんでした…。
ここまで見ていただいて、本当にありがとうございます!
セラド・ルナ・ファルシオンは、ハイエルフ族の王子であった。
西の大陸、深く広大な森の最奥。
世界樹と呼ばれる命の大樹を戴く、ハイエルフの里において、彼は第二王子として生を受けた。
生まれながらにして、精霊たちに愛されていたセラド。
彼が泣けば、赤く燃え盛る火の精霊がその髪を優しく照らして温もりを与え。
彼が渇きを覚えれば、水の精霊が清らかな雫を唇に運ぶ。
彼が野を駆ければ、風の精霊が遊び相手となり、転んだ時も、土の精霊が柔らかな土でその小さな身体をふわりと受け止めた。
精霊は、本来気まぐれな存在である。
いかにハイエルフとはいえ、誰もが精霊と契約できるわけではない。
まして、幼子の頃から四大元素の精霊に囲まれるなど、王族の歴史を紐解いても稀なことであった。
『セラド、お前は世界樹に愛された子だ』
偉大なるハイエルフの王である父は、幼い彼を抱き上げ、目を細めてそう囁いた。
その言葉は、幼い彼の魂の芯に深く刺さった。
自分は特別だ。
自分は、世界から愛されている。
それが、セラドにとっての揺るぎない自信となった。
王に溺愛されて育ったセラドは、成長するにつれ、その傲慢さに拍車をかけていった。
自分は何をしても許される。
自分が望めば、世界が膝をつく。
精霊たちだって、自分の言うことを全て聞き入れてくれる。
『セラドさま、すごい!』
『世界樹も、セラドさまが大好きなんだよ』
無邪気な精霊たちの囁きは、甘い蜜のようにセラドを満たしていった。
だが、王宮にはもう一人、周囲の期待を集める者がいた。
ハイエルフ王太子、アルヴィス・ルナ・ファルシオン。
セラドのただ一人の兄である。
アルヴィスは、非の打ち所のない傑物であった。
剣を取れば、近衛騎士を相手に一歩も引かず。
魔法を使えば、火、水、土、風の四元素を自在に操る。
学問にも明るく、政でさえ老臣たちを唸らせるほどであった。
セラドも、幼い頃はそんな兄を慕っていた。
アルヴィスもまた、精霊に囲まれて無邪気に笑う弟をひどく可愛がっていた。
「セラド、お前は本当に精霊たちに好かれているな」
幼いセラドの頭を撫で、アルヴィスはそう言って微笑む。
「その力を、いつか国のために使ってくれ……。私だけでは届かぬ場所へ、お前なら手が届く」
そう、アルヴィスにはたった一つだけ欠点があった。
『精霊魔法』だけが、どうしても使えなかったのだ。
エルフ族の誰もが精霊を使役できるわけではない。
しかし、王族でありながら精霊の声を聞けないアルヴィスは、一部の者から密かに憂慮されていた。
『アルヴィス様は素晴らしいお方だが、精霊に愛されていない……』
『真に世界樹の意思を受けているのは、セラド様ではないか……』
周囲の大人たちが漏らすその無責任な囁きは、成長するセラドの耳に確実に届いていた。
そうだ。
精霊に愛されているのは自分だ。
世界樹に愛されていると言われたのは、自分だ。
ならば、この森を統べる王にふさわしいのは、一体どちらなのだ?
そしてある日、セラドは王の御前に立つ。
「父上。僕に、王位をください」
新しい玩具をねだるような口ぶりであった。
自分が求めれば、父は与えてくれる。
今までもそうだった。
しかし、その言葉を聞いた瞬間に、王の顔から笑みが消えた。
「……何を言っている?」
「僕が王になる。兄上ではなく、僕が」
王は一瞬沈黙した。
そして、初めて。
「ならぬ。次期王は、アルヴィスだ」
セラドは、自分の耳を疑った。
理解できなかった。なぜ拒まれるのか。
「なぜですか? 僕は精霊に愛されている。でも、兄上は精霊魔法が使えません。エルフの王として、精霊に愛されない者がふさわしいはずがない!」
「王の器は、精霊の寵愛のみで決まるものではない。アルヴィスには、民を導く光がある。……セラド、お前にはそれが欠けておる」
初めて自分が否定された。
この時セラドの中に、これまで感じたことのない、黒く煮えたぎる『怒り』が生まれた。
その夜から、セラドの耳に精霊たちの囁きが聞こえるようになった。
『セラド様の方が王にふさわしい』
『王は間違っている』
『世界樹は、あなたを求めている』
その声が、本当に精霊たちの意思だったのか。
それとも、セラドの歪んだ願望が、彼らにそう囁かせたのか。
だが、セラドにとってその声は神託であった。
精霊の意思は、すなわち世界樹の意思である。
ならば、兄を排除して王となることこそが、この森にとって正しいことなのだと、彼は狂信するのだった。
面白い、続きが読みたいと思っていただけましたら、ブックマークと評価をお願いします!




