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魔物合成で世界に抗う反逆譚~HP10の凡人おじさん、ダンジョンマスターになる~  作者: 藍之介
vs.『ダンジョン討伐軍』編

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79/90

第79話 vs.討伐軍 ⑱ -セラド戦-

いつの間にかGWに突入ですね。

この討伐軍編がこれほど長くなるとは思ってませんでした…。

ここまで見ていただいて、本当にありがとうございます!

 セラド・ルナ・ファルシオンは、ハイエルフ族の王子であった。


 西の大陸、深く広大な森の最奥。

 世界樹と呼ばれる命の大樹を戴く、ハイエルフの里において、彼は第二王子として生を受けた。


 生まれながらにして、精霊たちに愛されていたセラド。

 彼が泣けば、赤く燃え盛る火の精霊がその髪を優しく照らして温もりを与え。

 彼が渇きを覚えれば、水の精霊が清らかな雫を唇に運ぶ。

 彼が野を駆ければ、風の精霊が遊び相手となり、転んだ時も、土の精霊が柔らかな土でその小さな身体をふわりと受け止めた。


 精霊は、本来気まぐれな存在である。


 いかにハイエルフとはいえ、誰もが精霊と契約できるわけではない。

 まして、幼子の頃から四大元素の精霊に囲まれるなど、王族の歴史を紐解いても稀なことであった。


『セラド、お前は世界樹に愛された子だ』


 偉大なるハイエルフの王である父は、幼い彼を抱き上げ、目を細めてそう囁いた。

 その言葉は、幼い彼の魂の芯に深く刺さった。


 自分は特別だ。

 自分は、世界から愛されている。

 それが、セラドにとっての揺るぎない自信となった。


 王に溺愛されて育ったセラドは、成長するにつれ、その傲慢さに拍車をかけていった。

 自分は何をしても許される。

 自分が望めば、世界が膝をつく。

 精霊たちだって、自分の言うことを全て聞き入れてくれる。


『セラドさま、すごい!』


『世界樹も、セラドさまが大好きなんだよ』


 無邪気な精霊たちの囁きは、甘い蜜のようにセラドを満たしていった。


 だが、王宮にはもう一人、周囲の期待を集める者がいた。

 ハイエルフ王太子、アルヴィス・ルナ・ファルシオン。

 セラドのただ一人の兄である。


 アルヴィスは、非の打ち所のない傑物であった。

 剣を取れば、近衛騎士を相手に一歩も引かず。

 魔法を使えば、火、水、土、風の四元素を自在に操る。

 学問にも明るく、まつりごとでさえ老臣たちを唸らせるほどであった。


 セラドも、幼い頃はそんな兄を慕っていた。

 アルヴィスもまた、精霊に囲まれて無邪気に笑う弟をひどく可愛がっていた。


「セラド、お前は本当に精霊たちに好かれているな」


 幼いセラドの頭を撫で、アルヴィスはそう言って微笑む。


「その力を、いつか国のために使ってくれ……。私だけでは届かぬ場所へ、お前なら手が届く」


 そう、アルヴィスにはたった一つだけ欠点があった。

 『精霊魔法』だけが、どうしても使えなかったのだ。

 エルフ族の誰もが精霊を使役できるわけではない。

 しかし、王族でありながら精霊の声を聞けないアルヴィスは、一部の者から密かに憂慮されていた。


『アルヴィス様は素晴らしいお方だが、精霊に愛されていない……』


『真に世界樹の意思を受けているのは、セラド様ではないか……』


 周囲の大人たちが漏らすその無責任な囁きは、成長するセラドの耳に確実に届いていた。


 そうだ。

 精霊に愛されているのは自分だ。

 世界樹に愛されていると言われたのは、自分だ。


 ならば、この森を統べる王にふさわしいのは、一体どちらなのだ?


 そしてある日、セラドは王の御前に立つ。


「父上。僕に、王位をください」


 新しい玩具をねだるような口ぶりであった。

 自分が求めれば、父は与えてくれる。

 今までもそうだった。


 しかし、その言葉を聞いた瞬間に、王の顔から笑みが消えた。


「……何を言っている?」


「僕が王になる。兄上ではなく、僕が」


 王は一瞬沈黙した。

 そして、初めて。


「ならぬ。次期王は、アルヴィスだ」


 セラドは、自分の耳を疑った。

 理解できなかった。なぜ拒まれるのか。


「なぜですか? 僕は精霊に愛されている。でも、兄上は精霊魔法が使えません。エルフの王として、精霊に愛されない者がふさわしいはずがない!」


「王の器は、精霊の寵愛のみで決まるものではない。アルヴィスには、民を導く光がある。……セラド、お前にはそれが欠けておる」


 初めて自分が否定された。

 この時セラドの中に、これまで感じたことのない、黒く煮えたぎる『怒り』が生まれた。


 その夜から、セラドの耳に精霊たちの囁きが聞こえるようになった。


『セラド様の方が王にふさわしい』


『王は間違っている』


『世界樹は、あなたを求めている』


 その声が、本当に精霊たちの意思だったのか。

 それとも、セラドの歪んだ願望が、彼らにそう囁かせたのか。


 だが、セラドにとってその声は神託であった。

 精霊の意思は、すなわち世界樹の意思である。

 ならば、兄を排除して王となることこそが、この森にとって正しいことなのだと、彼は狂信するのだった。


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