反転
ウィンの懸念に確証はない。だがニレロティスは受け入れた。
問題はどの経路で戻るかだった。
ガウェイトスがまだ持ちこたえていることを想定してベントリアに向かうか。直接北上してカーンティーエに向かうか。
ベントリアに向かった場合、ガウェイトスが健在であればスソンリエト伯軍を挟撃できる。
だがガウェイトスが既に敗れていたらカーンティーエ防衛に間に合わなくなる。
カーンティーエに直行すればカーンティーエ防衛に間に合う可能性は高くなるが、ガウェイトスを見捨てることになる。
ニレロティスにとっては苦しい決断になった。ガウェイトスもまた、レンテレテスと共に幼いときから武芸を競い合ってきた仲だ。レンテレテス、ガウェイトスと共に過ごした思い出がニレロティスの心に浮かんでは消えた。
堅物で冗談の一つも言えぬ無器用者だが、誰よりも誠実な男。愛妻家で、子煩悩な一面もある。
めったに笑わないあの男が子供に向ける笑顔に、ニレロティスとレンテレテスは驚かされた。
彼の嫡男はまだ二つだったか――。
ガウェイトスを見捨てるということは、あの子から父親を奪うということだ。
目を閉じてしばらく沈黙した後、ニレロティスは宣言した。
「ガウェイトス卿がベントリアで時を稼いでくれている。これを無駄にすることはできない。我々はカーンティーエに直行して公爵をお守りする」
一同は黙って頷くと、事務的に部署割りを始めた。
レンテレテスは歩兵一〇〇〇と共に残留し、トンゾロント領とデベルロント領の併合と安定化を担当することになった。
カーンティーエには、トンゾロント戦線の生き残り四二〇〇とラゲルスが連れてきた四〇〇〇で戻る。
ザロントム攻略に投入されたトンゾロント戦線の兵は損耗が激しく、当初の六五〇〇から五二〇〇程度に減っていた。
カーンティーエに反転する八二〇〇のうち、ニレロティスは全騎兵二〇〇〇で先行して、可能であればスソンリエト伯軍の鼻先を押さえる。
傭兵の三〇〇〇はラゲルスが指揮する。
トンゾロント戦線の三二〇〇はニレロティスの副将ヴァル・バルエイン・ウーゼンが指揮することになった。
デレール川北岸にいるポロウェスにも使いを出し、カーンティーエに向かわせる。
各隊、強行軍でカーンティーエに戻る。落伍者は置いていく。最終的にカーンティーエに向かえばよい、とした。
兵力の逐次投入の愚を犯すことになるが、そんなことを言っている場合ではなかった。
まずは丸裸同然のカーンティーエに戻ること。例え各個撃破されたとしても、カーリルン公がカーンティーエから脱出する時間を稼ぐことが戦略目標なのである。
最悪、全滅したとしてもカーリルン公が帝都まで逃げ切れば捲土重来の可能性が残る。
ニレロティスは既に、カーリルン公の捨て石になる覚悟を固めていた。ガウェイトスを捨て石にした以上、自分も捨て石にならなければならない。
ニレロティスが率いる騎兵たちが出発した。連戦で馬の疲労も蓄積している。どこまでもつか分からない。
だが、走ってもらうしかない。
騎兵の次に、無傷の傭兵軍が続いた。バルエインが率いるトンゾロント戦線軍は最後尾に回った。
負傷者も多く、彼らの進軍速度は期待できない。
ウィンは、カーンティーエに戻る各隊を見送ってからこう言った。
「さて、我々も行こうか」




