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愚者たちの輪舞 ―ブランタール公の凱旋―  作者: 中里勇史
カーリルン公領統一戦争

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74/202

領民反乱

 カーリルン公領北東部、旧スウェロント領の二つの村で領民の反乱が発生した。

 続いて一つの村で領民が逃散した。


 逃散とは、農耕地などを捨てて領民が逃げ出すことである。逃散が起こると、当然ながら生産が停止して徴税も不可能になる。領主に対する領民の抵抗の一つの方法だった。

 領民による反乱や逃散は、もちろん領民にとっても失うものが多い。相当に追い詰められない限り起こらない。言い換えると、相当に追い詰められていたということである。


 かかる事態を招いたのは、ひとえに領主の統治に問題があるためだと見なされる。

 旧スウェロント領の現領主は……カーリルン公アルリフィーアだ。


「やられたな……北東部を併合する前なら言い訳が立ったが、こりゃ言い逃れできない」


 ウィンは火のような赤毛をかきむしった。北東部を取ったと言っていい気になっている場合ではなかった。


「しかし、北東部を重税で苦しめていたのはスウェロントではないか。公爵(アルリフィーア)は圧政から領民を解放したお立場。併合から間もないため効果はまだ出ておらぬだろうが……」

「左様、反乱の責を負うべきはスウェロント。公爵が責められるいわれはない」


 ニレロティスとベルロントが口をそろえてスウェロントの非を鳴らした。だが、「その理屈は帝国には通じません」と心苦しそうにムトグラフが告げた。


「責任はあくまでも現領主にあります。しかも、公爵はこの地に新たに封ぜられたわけではありません。スウェロントの上級領主として是正する責任がありました。こうなる前に、スウェロント領の領民から訴えがあったのではありませんか?」


 ムトグラフの指摘に、リフィもニレロティスもベルロントも言葉を失った。

 領民からの訴えはあったのだ。


「是正できなかった理由はあるのでしょう。しかし、下級領主を従わせてその統治を安定させるのも上級領主の責務。いずれにせよ、反乱の責は負わねばなりません」

「北東部を併合する前なら、スウェロントを責任者として処断するという形で収めることもできたんだがなぁ」


 と言って、ウィンは天を仰いだ。スウェロントらの不自然な苛政は、この事態を狙ったものだったのか。そして、その責任を免れるための裏取引が何者かとの間で成立していた……。


「では、我々はどうすればよいのだ」


 ベルロントがムトグラフに向かって言った。かなり憔悴している。

 ムトグラフは気の毒そうに顔をゆがめて考え込んだ。


「取りあえず、一刻も早く領内を安定させて統治能力があることを示すことしか……」


 うむむと言って、ベルロントは黙り込んでしまった。


 しばらく黙って聞いていたベルウェンが口を開いた。


「それで、公爵様は覚悟がおありで?」

「覚悟、とは?」

「穏便に収められりゃ万々歳だが、そうはいかねぇとなれば力で押さえ込むことも考えなきゃならねぇぜ」

「力で?」

「反乱を武力で鎮圧する、ってことだ」

「領民に(やいば)を向けるというのか」

「場合によっては、な」

「そんかことができるはずがなかろう!」

「だとよ、大将(ウィン)


 ベルウェンはウィンに向かってニヤッと笑った。


「方針は決まったね」


 ウィンもベルウェンに向かってニヤッと笑った。


「え?」

「たった今、公爵が反乱への基本方針を示された。武力を用いずに収める方法を考えるとしよう」


 アルリフィーアはウィンの言葉がまだ飲み込めなかった。

 戸惑っているアルリフィーアを見て、ウィンはくすりと笑った。


「今、公爵は『領民に刃は向けない』とおっしゃった。それが、君主がやるべき政治判断というものです。それに基づいて、方法を考えるのが家臣の役目です」


 ニレロティスとベルロントは顔を見合わせて頷いた。

 この三年間、カーリルン公領は家臣が方針を決め、家臣がアルリフィーアに教え諭し、彼女はそれに従っていた。


 だがこの体制は終わろうとしている。二人は、主君たるアルリフィーアが示した方針を実現するのが自分たちの責務であると、改めて確認した。

 これが新たなカーリルン公領の姿だった。


「まずは反乱の拡大を防ごう。スウェロントが倒されたことをまだ知らない村も多いはずだ。領民への手当を軽視していたのも失敗だった。北東部の各村に人を派遣して、スウェロントが誅されたこと、過大な税を是正することを知らせて慰撫するんだ。文字は読めないだろうから、直接人間が口頭で知らせるしかない。サルダヴィア卿(ベルロント)、手配をお願いしたい」

「心得た」

「ニレロティス卿は、引き続き南部攻めの準備を続けてください。南部を平定して領民を収めないと、南部でも反乱が起こってしまう」

「分かった」

「後は反乱を起こした村か……。さてどうしよう」


 ムトグラフがおずおずと右手を挙げた。


「私が行って説得してみましょう」

「え? ムトグラフ卿が?」

「帝都から来たと言えば、まずは過激化を抑えられるのではないでしょうか」

「帝都にも声が届いている、と思わせるのは悪くないかもしれないなぁ」


 こうして当面の基本方針は決まった。

 だが、こうした手順を踏んだ解決の猶予を事態は与えてくれなかった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

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