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居眠り卿とナルファスト継承戦争  作者: 中里勇史
悲劇の終わりと始まり

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ウィンの帰還 その4

 7月の下旬にサインフェック副伯が死に、その後ティルメイン副伯が行方不明になった。そのときルティアセスはサインフェック副伯の死を知らず、知ってから宮内伯に指示を仰いだ。これは早くても7月末、場合によっては8月に入っていたかもしれない。


 その後、サインフェック副伯の代わりにティルメイン副伯を立てろと指示されて、なりふり構わずティルメイン副伯の捜索を始める。その噂が立ったのは8月中旬だ。ルティアセスが宮内伯に指示を仰いで指示を受けるまで、半月程度しかかかっていないことになる。


 帝都とアトルモウ城を「往復するのは不可能」だ。


 ルティアセスが口にした宮内伯の名は、聞いたことがないものだった。恐らく偽名だ。信じ難いことだが、ルティアセスはそんな怪しげな人物に従っていたのだ。帝都の宮内伯から直々にお声掛けがあったというだけで、田舎貴族のルティアセスは舞い上がってしまったのだろう。それとも信用させる何らかの工作をもっと以前から行っていたのか。


 ともかく、問題は時間だ。帝都との往復が不可能だとしたら、それは単純に相手が「往復できる距離に居た」のだ。実在の宮内伯なのかその家臣なのか、宮内伯を騙っただけの誰かなのかは分からないが、その人物は7月から8月にかけて「帝都に居なかった」。もしかしたら、裏で糸を引いていた人物にその線からたどり着けるかもしれない。


 ウィンは10月1日に帝都に帰還した。7月6日に帝都を出てから3カ月弱。これが長いのか短いのか、ウィンには判断できなかった。


 ウィンの私生活は収入に比して極めて質素である。住まいも、帝都の平民街の3階の貸部屋だ。寝るためだけの部屋なので寝室しかない。狭いが、それ故にかえって落ち着くのだから我ながら貧乏性だと自嘲することもある。


 帝都に戻って数日がたったころ、ナルファスト公国からの使いとやらが尋ねてきた。何の用かと思ったら、彼らは重そうな箱を大儀そうに運び込んだ。最後に書状を手渡すと、呼び止める間もなく去って行った。何が何だか分からない。


 書状はレーネットからだった。世話になった礼と、その証しの品を贈るとある。「せいぜいがんばってメリト商会に通うのだな」と結ばれている。何だって?


 箱を開けると、大量の金貨が入っていた。ウィンが払った騎兵代を返すということらしい。純金ではないとはいえ、金貨は重い。これだけの量をウィンの力で一度に運ぶのは不可能だ。


 「これ、また運ばなきゃならないの?」


 ウィンは崩れ落ちた。

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