決着 その2
スルデワヌト本隊が監察使軍騎兵を追ってレーネット軍左翼の前に差し掛かった瞬間、レーネット軍左翼の背後から1000騎の騎兵が出現してスルデワヌト本隊の右側面を襲った。スルデワヌトが異変に気付いて振り返ったときには、スルデワヌト本隊の中央部を敵に突破されて完全に分断されていた。スルデワヌト本隊の右側面から左側面に抜けた敵騎兵は、並走する形でスルデワヌトの背後に迫っていた。
「こいつらは何だ? どこから湧いた!?」
スルデワヌトが新手の騎兵に気を取られている間に、スルデワヌト本隊とそれを救おうとしたアルテヴァーク騎兵はレーネット軍に近づき過ぎた。長槍を構えた歩兵たちが一気に突撃してくる。しかも監察使軍とレーネット軍左翼が押し包むように陣形を変えたため、アルテヴァーク軍はどちらに向かっても長槍を構えた歩兵と相対する状態になっていた。
アルテヴァーク軍は総崩れになり、ある者は左右から槍で突かれて討ち取られ、ある者は歩兵の槍衾を正面突破しようとして馬を殺され、落馬した。
スルデワヌトはなすすべもなく、敵が手薄なところをめがけて馬を走らせるしかなかった。突き出される槍を剣で払いのけ、横から迫ってきた歩兵の顔を盾で打ち砕き、辛うじて包囲網を突破したときには彼に従う兵は50騎を割り込んでいた。
「われらは勝っていたではないか。どこで間違えた?」と自問自答するが分からない。こうなっては潔く負けを認め、戦場から離脱するしかない。
ふと敵陣に目をやると、監察使軍の本陣らしきものが見えた。武装すらしていない男が、にこにこしながら手を振っている。
「あれが……監察使、なのか?」
スルデワヌトは信じられない、といった顔でその男を眺めた。ずいぶん長くそうしていたような気がするが、実際には一瞬の出来事だった。
スルデワヌトは監察使軍本陣の前を駆け抜け、そのままダウファディア要塞方面へと敗走していった。スルデワヌトを殺す絶好の機会であるはずなのに、なぜか追撃されなかった。振り返ると、新手の騎兵はみな停止して、スルデワヌトを見送っていた。
「陛下が敗走する際、監察使は追撃致しません。安心してお帰りください」という軍使の声を思い出した。
「約束を守ったというわけか。では安心して帰るとしよう」
スルデワヌトは大笑した。もうどうでもよくなっていた。




