レーネット-ウィン同盟 その2
「では当方はアルテヴァーク軍を粉砕してご覧に入れる」とレーネットは答えて担当部署は決まった。レーネットは、ウィンの配慮に心の中で感謝した。
ウィンは、兄弟が直接戦うのを避けさせたのだ。それに、レーネットとスハロートの軍が直接戦うとなればナルファスト人同士が殺し合うことにもなる。親子や兄弟が敵味方に分かれていることもあるし、領地を接する領主同士が戦うこともある。どちらが勝ってもナルファストには遺恨が残るだろう。ウィンがナルファスト人の恨みを引き受け、レーネットにはアルテヴァークを撃退したという名誉を残すための配置だった。ウィンは、目前の戦闘だけでなく戦後のナルファスト統治まで見据えている。当然、口に出した適材適所という要素も大きいが、それならばレーネット麾下の騎兵を監察使軍に一時的に編入するという手もあるのだ。
後はどこを戦場にするか。レーネットが、南部のアプローエ山脈の山麓の東側沿いに南下してダウファディア要塞を突くという進路を提示した。ダウファディア要塞をナルファストが奪回すれば、アルテヴァーク軍の退路を断って孤立させることができる。当然、アルテヴァーク軍はアトルモウ城から出てきて会戦を挑んでくる。戦場はアプローエ山脈の東側、アトルモウ城の南西になるだろう。
「なるほど。この位置取りなら山麓の台地に布陣できる。敵は平原から台地に攻め上がることになるから騎兵の勢いをそぐことができる」
フォロブロンはレーネットの狙いを正確に理解した。ただしこの戦場はデルドリオンからかなり距離がある。ダウファディア要塞も奪還しなければナルファスト公国の安全保障はおぼつかないので、いずれは最南部まで進出する必要はある。だが、アトルモウ城付近までは敵の勢力圏になっている。まずプルヴェントまで南下してから敵軍の動きを偵察することになった。
レーネット軍と監察使軍は、ウィンが占領して以来監察使の(名目上の)支配下にあるプルヴェント方面へ進軍を開始した。
結局、スハロートはプルヴェントの奪還には来なかった。




