合流
前衛の全滅を知ったスチトルニエトは、何が起こったのかをすぐに理解した。
前衛は監察使軍の3分の1の兵力に過ぎないが、歩兵主体の監察使軍が騎兵を短時間で全滅させたとは思えない。歩兵の長槍は騎兵の天敵だが、長槍の効果を最大化させるための密集陣形は防御用であって、積極的な攻撃には向かない。また、騎兵が退却したら歩兵では追い付けない。前衛だけで監察使軍に勝つのは困難だが、致命的な損害を受ける前に距離を取るなり退却するなりできるはずだ。
前衛を全滅させたのは監察使軍ではない。ロンセーク伯がデルドリオンから出てきたのだ。ロンセーク伯ならばアルテヴァークの戦法を熟知しているだろう。自分たちが殲滅したのは前衛であると悟って、本隊と会敵するためにデルドリオン方面からこちらに進撃している可能性が高い。
では監察使軍はどこにいるのか。後ろだ。スチトルニエトは確信した。監察使軍がスチトルニエト軍よりも速く移動するのは不可能だ。スチトルニエト軍よりも前にいるはずがない。だが、予想よりも「遅く移動すること」はできる。
「つまり、ロンセーク伯軍と監察使軍が前後から迫っているということだ」とスチトルニエトは結論付けた。
アルテヴァークが挟撃戦法を使う場合、斥候は出さない。前衛も本隊も斥候並みの速度で移動するのだから意味がないのだ。だからなのか、アルテヴァークの将軍は皆、敵の位置に関する勘が異様に鋭い。
幸い、森の反対側には平原が広がっている。スチトルニエトは平原に向かって全軍を移動させた。アルテヴァーク騎兵は速い。一気に平原を抜けてアトルモウ城方面に離脱した。
日が30度ほど傾いた頃、互いに街道を進軍していたロンセーク伯軍と監察使軍は合流した。アルテヴァーク軍は捕捉できなかった。数千以上の騎馬軍が進軍していた痕跡はあるが、街道を大きく外れて平原のかなたに去っていったようだ。
「ふむ、アルテヴァークの本隊には逃げられたか」
不利とみるや兵力に余裕があっても退く。敵の本隊を指揮しているのは戦略眼が確かな人物らしい。
「しかし、ロンセーク伯に全て押し付けてよかったのか」とフォロブロンに問われたウィンは、とぼけた顔で答えた。
「新ナルファスト公がアルテヴァークを撃退。ナルファスト公国にとって必要なのはこういう物語さ。監察使軍は出る幕じゃない。特に緒戦はね」
ウィンは頭をかきながらレーネットに近づいた。相変わらず覇気が感じられない顔を見て、レーネットは苦笑した。どちらも特に挨拶はしなかった。一瞬目を合わせただけで、合流の儀式は終わった。お互い疲れていたのだ。
両軍はいったんデルドリオンに戻ることにした。既に太陽は沈みかけている。




