それぞれの決意 その1
ウリセファにとっては寝耳に水の事態だった。話し合いによって解決しようとしていた彼女の努力は水泡に帰した。よりによって宿敵アルテヴァーク王国を引き入れるとは。いや、アルテヴァークと敵対し続ける必要はない。和平を結ぶのもいい。同盟を締結するのも結構なことだ。それで領民の安寧が保障されるならすばらしいことだ。だが、兄と戦うための同盟とは!
スハロートの裏切り行為にウリセファは激しい怒りを覚えたが、もう泣くことはなかった。以前号泣したことで何かが吹っ切れた。泣いている暇があったらやるべきことをやるのだ。やれることを探すのだ。
ウリセファは当初、スハロートに会うためアトルモウ城に行くと主張したが、ファイセスとエネレアに押しとどめられた。アルテヴァークが跋扈しているアトルモウ城周辺がどうなっているのか全く分からない。危険が大き過ぎる。
「それよりも、一度ブロンテリル村に戻りましょう。公妃様やティルメイン副伯も心配しておられるでしょう。この先何が起きるか分かりません。公妃様たちをお守りできるところにいるべきです」とファイセスに説得され、ウリセファはそれを受け入れた。
「ファイセス卿の諫言がなければ私は何度過ちを犯したか分かりません。頼りにしています」
「もったいないお言葉です」
同じ頃、レーネットもまた打ちひしがれていた。スハロートには裏切られ続けてきた。ワルフォガルからの逃亡、刺客、呼びかけへの黙殺。そしてついに宣戦布告か。しかもアルテヴァークを引き入れるとは何ごとか。もはやスハロートへの想いを云々している段階ではなくなった。ナルファストを守るためにスハロートと戦うしかない。
流血を避けるために忍耐に忍耐を重ねてきたが、もう終わりだ。これからは兄としてではなく、武人として敵を殲滅する。
レーネットは自派の領主への参陣と監察使への支援を公式に要請した。目的はスハロート-スルデワヌト同盟をナルファストから排除すること。レーネットもまた、ナルファスト公として号令した。
いまだリッテンホム城に居座っていたウィンは、昼寝していた。昼寝していたが、すぐに目が覚めた。かといって、すぐには動けない。今後の方針はフォロブロンの報告次第だ。それまではやることがない。
もちろんスハロート-スルデワヌト同盟の情報はつかんでいたが、現有戦力ではどうにもならない。ただし、事態は確実に次の段階に移った。外国勢力を引き入れてしまったサインフェック副伯の言い分を聞くわけにはいかない。彼は既に帝国の敵となった。
寝台に寝転んで、つらつらと考える。最後の最後までサインフェック副伯の考えが読めなかった。レーネットやウリセファから聞いた人物像に行動が全く当てはまらない。兄妹や彼らの家臣から聞くサインフェック副伯は、理知的でやや内向的だが筋の通った人物だ。
だが、実際に彼がやってきたことは愚行の連続だ。その挙げ句、アルテヴァークを帝国領内に引き込んだ。たとえレーネットに勝ったとしても、皇帝がスハロートの公位継承を許すはずがない。この愚策の果てに、スハロートはどのような未来を描いているのか。彼が歩んでいる道は破滅に続いているとしか思えないが、ウィンが気付いていない勝算があるというのだろうか。




