レーネット-ウィン同盟
デルドリオン郊外に、レーネット軍八〇〇〇と監察使軍三〇〇〇、総勢一万一〇〇〇の大軍が集結した。
アルテヴァーク王国に誰よりも詳しいレーネットが戦略を立案した。
「最優先目標は、会戦によって敵の野戦能力を粉砕して短期間にアルテヴァークを国外に駆逐することである。彼らも同じく会戦を挑んでくるだろう。籠城戦に持ち込んでも、攻城戦が不得手な彼らは乗ってこない。機動力を生かして他の地を蹂躙するだけだ。アルテヴァークとの戦いに勝利するためには、野戦で決着をつける以外にない」
それを受けてフォロブロンが発言した。
「アルテヴァークが会戦を避けて、長期戦に持ち込む可能性は?」
「全兵力で近づけば、彼らは必ず出て来る。誘い出すための工作は不要だろう」
大まかな布陣も考えておく必要がある。現時点で細部を詰めても仕方がないが、誰が誰と戦うのかは決めておくべきだった。
「私がサインフェック副伯を受け持ちましょう。ロンセーク伯には、アルテヴァーク騎兵を担当していただきたい。あの騎兵突撃は、我が軍には荷が重過ぎますので」 そう言って、ウィンはレーネットにアルテヴァーク軍を押し付けた。
「もう少し格好が付く言いようがあるだろう」
フォロブロンがたしなめたが、ウィンには響かない。
「だって、あの騎兵に勝てる気がしないし」
などと口走るありさまで、フォロブロンは頭を抱えた。
そんなウィン主従を見てレーネットは笑った。自陣営にはない明るさを羨ましいとさえ思う。
同時に、ウィンの配慮に気付いた。彼は、兄弟が直接戦うのを避けさせたのだ。レーネットとスハロートの軍が直接戦う場合、ナルファスト人同士が殺し合うことになる。親子や兄弟が敵味方に分かれていることもあるし、領地を接する領主同士が戦うこともある。どちらが勝ってもナルファストには遺恨が残る。
この配置は、彼がナルファスト人の恨みを引き受け、レーネットにはアルテヴァークを撃退したという名誉を残すためのものであった。
彼は、目前の戦闘だけでなく戦後のナルファスト統治まで見据えている。当然、口に出した適材適所という要素も大きいが、それならばレーネット麾下の騎兵を監察使軍に一時的に編入するという手もあるのだ。
「承知した。アルテヴァーク軍を粉砕してご覧に入れる」
レーネットは、ウィンの配慮に心の中で感謝した。
後はどこを戦場にするか。レーネットは、南部のアプローエ山脈の山麓を東側沿いに南下してダウファディア要塞を突くという進路を提示した。
「ダウファディア要塞をナルファストが奪回すれば、アルテヴァーク軍の退路を断ってナルファスト内に孤立させることができる。当然、アルテヴァーク軍はアトルモウ城から出てきて会戦を挑んでくる。戦場はアプローエ山脈の東側、アトルモウ城の南西になるだろう」
「なるほど。この位置取りならば、我々は山麓の台地に布陣して迎え撃つことができる。敵は平原から台地に攻め上がることになるから、騎兵突撃は大幅に勢いがそがれるだろう」
フォロブロンは、レーネットの狙いを正確に理解した。
レーネット軍と監察使軍は、ウィンが占領して以来監察使の(名目上の)支配下にあるプルヴェント方面へ進軍を開始した。
結局、スハロートはプルヴェントの奪還には来なかった。




