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帝国

 帝国に名はない。名は必要ない。名とは、他と区別するためのものである。帝国は唯一無二であるがゆえに、ただ「帝国」と呼ばれる。帝国が版図を広げる大陸も同じく、区別は不要であるがゆえに名はなかった。

 ただし、200年以上前に滅んだ「古帝国」との対比で現在の帝国を「新帝国」と呼ぶことはある。


 古帝国は、極端な皇帝専制と政治的乱脈によって有力貴族による反乱を誘発し、滅びた。

 このとき、反乱の中心となった7人の貴族が「七賢公」である。彼らは古帝国を滅ぼした後、帝国辺境を蛮族から防衛すべく7つの公国を設置してその主になった。

 だが英雄は並び立たず。彼らは内紛を繰り返した。幾度目かの和睦の際、恒久和平のために一人の男を皇帝に推戴した。これが新帝国の始まりである。

 七賢公は公爵ファルークとして帝国の枢機を司る地位を世襲し、七賢公の子孫から皇帝を推戴することにした。7人の公爵は、いつしか「枢機侯」と呼ばれるようになった。

 始まりは7つだった枢機侯の席は現在、6人の枢機侯によって占められている。数は合わないが間違ってはいない。1人が2つの席を独占しているからである。

 最初の3人の皇帝は、全て異なる家の枢機侯が推戴された。そして4人目の皇帝にはスルヴァール公が選ばれた。彼はゼンメルセ公家の断絶を利用してゼンメルセ公位と2つ目の枢機侯の座を獲得した。こうして、多数決が原則である枢機侯会議において、ティーレントゥム家はスルヴァール公およびゼンメルセ公として2票を行使することが可能になった。この優位によって、5代皇帝は同じくスルヴァール公、つまり4代皇帝の子が継承した。彼はスルヴァール公国を王国に昇格させてティーレントゥム家の格式をさらに高めた。

 他の5人が結託すれば皇帝位をティーレントゥム家から奪うことはかなうだろう。だが、代わりに誰を皇帝にするのか。有力候補はワルヴァソン公位を世襲するカーンロンド家だが、カーンロンド家が自分たちの風上に立つのをよしとはしなかった。皇帝はアメとムチを駆使して枢機侯の対立と分断を謀り、多数決に必要な残り2票を獲得してその地位を保った。

 帝国には公爵に加えて伯爵ドライス副伯爵ラルドライス士爵ガーフェという爵位がある。いずれも皇帝の直臣のみに与えられる。皇帝の子供は大公エルファルーク大公女エルファルーケと呼ばれるが、これは称号であって爵位ではない。

 公爵と伯爵は特に「諸侯」とも呼ばれ、領地について大幅な自治権が与えられている。諸侯の領地を「領国」と表現することもあるが、これは慣習上の表現であって国ではない。「国」を称することが許されているのは七賢公の子孫が統治する1つの王国と6つの公国のみ。他は公爵の領地であっても「公領」と呼ぶ。


 ナルファスト公オフギースは枢機侯の一人でありナルファスト公国の君主であったから、その死の影響は大きい。同時に、誰が公位を継承するのかも政治的に極めて重大な意味を持たざるを得なかった。公位継承者はつまり枢機侯会議の構成員になるわけで、皇帝選挙や帝国の運営に大きく関与することになる。誰も無関心ではいられない。

 オフギースは君主の鑑とも言うべき傑物であり、領民と家族を愛し、領民と家族から愛されていた。人格も能力も非の打ちどころがなく、皇帝からも信頼されていた。彼の人生における唯一の失策は、最悪なときに死んだことであろう。

 無論、彼が望んだことではない。

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