対峙
「副伯、追い付かれました!」
「分かっている」
背後にニークリット公国軍の騎兵が見える。彼らが追ってきているということは、ウレスペイルは――。
彼の献身を無にしないためにも捕まるわけにはいかない。だが、フォロブロンらの馬はもう限界だ。
しかし、敵の馬にはまだ勢いがある。
――ここまでか。
フォロブロンは覚悟を決めて、ウレスペイルに心の中で詫びた。
そのとき、前方からも騎兵が迫ってきた。
この方面にはまだニークリット公国軍はいないはずだ。
「カーリルン公の旗が見えます。オルドナ方面軍です!」
フォロブロンよりも遠目が利くヨーレントが叫んだ。
騎兵を率いているのは、ニレロティスとレンテレテスだ。
彼らは、フォロブロンと擦れ違うと麾下の騎兵を展開した。
エグバーレントはすぐに反応した。麾下の騎兵を停止させ、ニレロティスらと睨み合う。エグバーレントは自軍の方が少ないとみて、交戦を避けた。
新手の敵をどうするか。そんなことはニークリット公が考えればいい、とエグバーレントは即断した。
彼は、騎兵の効率的な運用に特化した専門家を自認している。騎兵に何をさせるかは、君主たるソルドマイエ二世が考えるべきことである。エグバーレントは、その点に関して一切責任を負うつもりはない。
フォロブロンの前に、遅れて到着したウィンらが現れた。
「何とか間に合ったね。重畳重畳」
「ラフェルス伯、オルドナ伯領は?」
「グライス軍に任せてきたよ」
「ヌヴァロークノ軍はどうなったのだ」
「クーデル王は捕らえた。オルドナ伯領での私の仕事はもう終わりさ」
「王を捕らえたのか!?」
フォロブロンは愕然とした。
――自分は一体何をしているのか。
ヌヴァロークノ王国との戦いにも参加せず、ナインバッフ方面軍の戦いにも間に合わず、家臣と士爵たちを失った。
無能の極みではないか。
「取りあえず話は後にしよう。戦いたくないけど、ニークリット公もそう思ってくれるかなあ。できればここで彼らとはお別れしたいんだけど」
今、ウィンは一〇〇〇騎の騎兵しか連れてきていない。眼前のニークリット公国軍騎兵よりは多い。だが敵の本隊が追い付いてきたら勝ち目がない。
ニレロティスらと共にじりじりと後退しているが、敵の騎兵もそれに合わせて前進している。
彼我の距離は変わっていない。
ニレロティスがウィンの横に並んだ。
「どうも、我々を逃がすつもりはないようだ」
「逃げ切れないかな?」
「かなり馬を酷使してきた。もはや大して走れまい」
「あの騎兵の動き、どう見る?」
「数が少ないのに、撤退せずにこちらの動きを牽制している。本隊はそう遠くないところにいるのだろう」
「やっぱり本隊を待ってるのか」
「こうなったら、こちらも本隊の到着を祈るしかないな」
ニレロティスは、騎兵と歩兵の進軍速度と移動距離を概算した。
「こちらの本隊も、一〇キメルは離れていないはずだ」
「敵の本隊が到着するのが先か。こっちの本隊が到着するのが先か……。ドキドキするねえ」
ウィンはわははと笑った。
騎兵同士のにらみ合いは続いている。




