帝都震撼
ケルヴァーロは、三日に一度は戦況を帝都に報告していた。
「意外と申し上げるのも何ですが、まめな御仁ですな」
ロレンフスが大公だった頃からの家臣であるヴァル・ゼルクロトファ・モルトセフェスが、ケルヴァーロの報告書をロレンフスに渡しながら苦笑した。
豪放磊落な為人に見えて、やるべきことは心得ている。多くはケルヴァーロの側近であるサンツァーツやゼンドストレンの手によるものだが、ケルヴァーロの直筆もあった。特にケルヴァーロの報告は、簡にして要の手本とも言うべきものだった。
「戦時は、平時には見えぬものが見えるものです」
先帝がロレンフスに付けた家老の一人、ヴァル・テルメソーン・マルテノガスは報告書を読み返しながら嘆息した。
ケルヴァーロはナインバッフ公国およびグライスの諸侯らに動員命令を出し、ヌヴァロークノ王国と交渉しつつ情報収集を続け、皇帝軍およびラフェルス・カーリルン軍との情報交換を自らこなして出陣した。文句の付けようがない指揮ぶりである。
二月八日には、ヌヴァロークノ軍に奪われていたゲンテザイルを奪還したという知らせが帝都に届いた。
「さすがナインバッフ公だな」
いまだに顔色が優れぬロレンフスであったが、キレは戻りつつある。
ケルヴァーロは、このままクーデル三世への「嫌がらせ」を展開しつつ圧力をかけて、決戦に持ち込むつもりだと報告してきた。
その二日後には、皇帝軍およびラフェルス・カーリルン軍がミラロールを攻略したという報告が到着した。
これで、オルドナ伯領の北と南を押さえたことになる。
◆
「戦況は有利に進んでいる」
エルエンゾは、こうした話をウリセファに逐一知らせていた。
エルエンゾに、情報を漏らしているという自覚はない。
女性、そして娼婦に対する無自覚の蔑視。寝台の上で喘ぐ(演技をしている)姿を見下ろすことで醸成された万能感。
――この女は身も心も私の支配下にある。
女の体を知ったばかりの幼稚な女性観が、エルエンゾの未完成の精神を歪め、汚染していた。
それだけではない。
ウリセファは、そうした話をそれは楽しげに聞いてくれる。エルエンゾの卑小な自尊心は彼女によって満たされていた。
「娼婦ごときには想像も付かぬであろうが、他国との戦争の指導に関わるというのは実に重責なのだ」
エルエンゾは、得意げに話した。ウリセファはそのたびに、「さすが皇帝の覚えめでたきエルエンゾ様でございます」と言ってしなを作った。
実際に、ウリセファは心の底から喜んでいた。演技をする必要などなく、実に楽であった。労せずして帝国の機密が垂れ流されるのである。この愚かな若造のおかげで、ウリセファが得る情報の質と量は格段に向上した。
タッカツァーカ派に属するという宮内伯もウリセファのなじみ客になっていた。タッカツァーカ派は、「あの監察使」に強い反感を持っている。彼らの悪意はいつか使えるだろう。
それらを取捨選択して、どれをどのように利用するか。
だが、まだ情勢は不透明だ。圧倒的に有利、あるいは極めて不利な状況になってからが重要なのだ――。
◆
そして二月十八日。皇帝宮殿を震撼させる報告がもたらされた。
「ナインバッフ公、討ち死に」
「ニークリット公、謀反」
ケルヴァーロの死から十三日後のことである。
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