追撃
途中までは敵を圧倒していたが、最後の最後にそれが覆された。
ヌヴァロークノ兵は、王の撤退を守るというきっかけを得て反撃に転じた。
その結果、数が少ない皇帝軍とラフェルス・カーリルン軍は危うい形勢になっていた。乱戦状態に陥って、両軍とも指揮が思うように届かない。
フォロブロンは約五〇騎の騎兵を乱戦から引き抜くことに成功し、クーデル三世の追撃に移った。
岩陰で戦況を見ていたウィンも、アークラスムに出陣を命じた。
「ヌヴァロークノ王が逃げる。追うよ」
位置関係としては、ウィンたちの方が南におり、クーデル三世はウィンたちから見て北東にいる。だが、ウィンたちが東に全力で進出してもクーデル三世の前に出られるかどうかは微妙だった。
クーデル三世の南下が早いか。
ウィンたちの東進が早いか。
騎兵のみのフォロブロンがクーデル三世に追い付くか。
ニレロティスやラゲルスもクーデル三世を追いたいが、ヌヴァロークノ兵の反撃が激しくてうかつに背中を見せられない。
ウィンとアークラスムが率いていた歩兵は間に合わなかった。彼らの目の前をクーデル三世とわずかな取り巻きが通り過ぎていく。
少し遅れて、フォロブロン隊がやって来た。
ウィンとアークラスムも、フォロブロン隊に合流してクーデル三世を追った。
歩兵はもう、役に立たない。
追いつければ、勝てる。
クーデル三世を捕らえるか討ち取ることができれば、この戦争は終わる。
――ここで終わらせる。
そのとき、数千人の軍勢が前方に現れた。
ヌヴァロークノ軍だった。
トローフェイルから南下していたバンナーボブゾン麾下のヌヴァロークノ軍である。
彼らは、クーデル三世の本隊と合流するのに失敗した。
だが、ポレンヌーゾンが各地に放った伝令と出合った。
バンナーボブゾンは、クーデル三世の目的地を知ってミラロールに向かって反転した。
そして、現れた。
クーデル三世がバンナーボブゾン隊と合流する前に、彼を捕らえることができれば――。
ウィンは、フォロブロンらに必死で追いすがった。
乗馬術は今ひとつだが、ロレルの脚力がウィンの技量を補っている。
クーデル三世を捕らえることができれば――。
あと一歩で、戦争が終わる。
だが――。
間に合わない。
フォロブロン隊が追い付く前に、クーデル三世はバンナーボブゾン隊と合流してしまう。
間に合わなかった――。
「アレス副伯、引こう。無理だ」
ウィンはやる気が感じられない目でフォロブロンを制止した。
フォロブロンは奥歯をギリリとかみしめると、無言で頷いて騎兵に停止を命じた。
クーデル三世を倒すという目的は完全に失敗した。
「なかなか勝たせてくれないね」
ウィンはそう言うと、珍しく力なく笑った。
握り締めた手のひらに手綱が食い込んだ。
二月十日、第二次ミラロール攻防戦は終結した。




