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愚者たちの輪舞 ―ブランタール公の凱旋―  作者: 中里勇史
オルドナ戦線

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227/242

追撃

 途中までは敵を圧倒していたが、最後の最後にそれが覆された。

 ヌヴァロークノ兵は、王の撤退を守るというきっかけを得て反撃に転じた。

 その結果、数が少ない皇帝軍とラフェルス・カーリルン軍は危うい形勢になっていた。乱戦状態に陥って、両軍とも指揮が思うように届かない。

 フォロブロンは約五〇騎の騎兵を乱戦から引き抜くことに成功し、クーデル三世の追撃に移った。


 岩陰で戦況を見ていたウィンも、アークラスムに出陣を命じた。


「ヌヴァロークノ王が逃げる。追うよ」


 位置関係としては、ウィンたちの方が南におり、クーデル三世はウィンたちから見て北東にいる。だが、ウィンたちが東に全力で進出してもクーデル三世の前に出られるかどうかは微妙だった。


 クーデル三世の南下が早いか。

 ウィンたちの東進が早いか。

 騎兵のみのフォロブロンがクーデル三世に追い付くか。


 ニレロティスやラゲルスもクーデル三世を追いたいが、ヌヴァロークノ兵の反撃が激しくてうかつに背中を見せられない。


 ウィンとアークラスムが率いていた歩兵は間に合わなかった。彼らの目の前をクーデル三世とわずかな取り巻きが通り過ぎていく。


 少し遅れて、フォロブロン隊がやって来た。

 ウィンとアークラスムも、フォロブロン隊に合流してクーデル三世を追った。

 歩兵はもう、役に立たない。


 追いつければ、勝てる。

 クーデル三世を捕らえるか討ち取ることができれば、この戦争は終わる。


 ――ここで終わらせる。


 そのとき、数千人の軍勢が前方に現れた。


 ヌヴァロークノ軍だった。


 トローフェイルから南下していたバンナーボブゾン麾下のヌヴァロークノ軍である。

 彼らは、クーデル三世の本隊と合流するのに失敗した。

 だが、ポレンヌーゾンが各地に放った伝令と出合った。

 バンナーボブゾンは、クーデル三世の目的地を知ってミラロールに向かって反転した。


 そして、現れた。


 クーデル三世がバンナーボブゾン隊と合流する前に、彼を捕らえることができれば――。


 ウィンは、フォロブロンらに必死で追いすがった。

 乗馬術は今ひとつだが、ロレルの脚力がウィンの技量を補っている。


 クーデル三世を捕らえることができれば――。


 あと一歩で、戦争が終わる。


 だが――。

 間に合わない。

 フォロブロン隊が追い付く前に、クーデル三世はバンナーボブゾン隊と合流してしまう。


 間に合わなかった――。


アレス副伯(フォロブロン)、引こう。無理だ」


 ウィンはやる気が感じられない目でフォロブロンを制止した。

 フォロブロンは奥歯をギリリとかみしめると、無言で頷いて騎兵に停止を命じた。

 クーデル三世を倒すという目的は完全に失敗した。


「なかなか勝たせてくれないね」


 ウィンはそう言うと、珍しく力なく笑った。

 握り締めた手のひらに手綱が食い込んだ。



 二月十日、第二次ミラロール攻防戦は終結した。

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