終結
戦況を見守っていたケルヴァーロは、南から接近してくる音に気付いて振り返った。
約二万ほどの軍勢がゆっくりと迫ってくる。
「あれは……ニークリット公の軍旗ですな」
サンツァーツが冷静に指摘した。
「ニークリット公!?」
ファウフェレスが目を見開いて新たな軍勢を眺める。
「父上、いつのまに援軍を要請したのですか?」
「いや、してないぞ?」「しておりませんな」
ケルヴァーロとサンツァーツが、同時に首を振った。この二人は動作までよく似ている。
「……では、帝国法違反ではありませんか!」
グライス長官の要請なしに他のグライスが軍勢を派遣するのは帝国法で禁じられている。
ガリトレイム・グライスのラフェルス伯とカーリルン公は、皇帝軍を援護するために派遣された。その旨はケルヴァーロに事前に通知されていたので問題ない。だが、ニークリット公の参戦については何も知らされていない。
「まあ違反ではあるが、そんなのは手続き上の問題に過ぎん」
「えっ?」
「俺が『ニークリット公に援軍を要請した』と言えば済むことだ」
ケルヴァーロは苦笑した。
「相変わらず何を考えているのか分からんやつだ。まあいい。クーデル王を逃がすと厄介だ」
「父上、よろしいのですか?」
「構わん。ソルドマイエが協力してくれるというなら、活躍してもらおうじゃないか」
ケルヴァーロは豪快に笑った。
「よし、全員騎乗! 新手のヌヴァロークノ軍に備えるぞ!」
カルナックタイン公麾下の本隊がクーデル三世を押さえても、すぐに戦闘が終わるわけではない。このままではカルナックタイン公たちが左右から迫るヌヴァロークノ軍に挟撃される。
ニークリット公国軍はさらに接近し、ケルヴァーロらまで一〇〇メルというところで停止した。
「うん?」
ケルヴァーロは、違和感を覚えて再び振り向いた。
ニークリット公国軍は、弓兵を前列に置いて左右に展開した。
「ソルドマイエ、一体何を……」
ニークリット公国軍は、ケルヴァーロらに向かって一斉に矢を放った。大量の矢が降り注ぎ、グライス軍の騎兵たちが次々に倒される。
「ファウフェレス!」
ケルヴァーロは剣を抜いて矢を払いのけながら、嫡男を見た。
ファウフェレスを庇ったサンツァーツの背中に、大量の矢が刺さっていた。
「サンツァーツ!」
彼はケルヴァーロに向かってニッと笑い、口から血を吐き出した。
「わ、若は……」
「ファウフェレスは無事だ。よく守ってくれた」
ケルヴァーロの言葉を聞くと、サンツァーツは再びほほ笑んで目を閉じた。
「俺ではなくファウフェレスを守るとは、最後の最後まで的確な判断をするヤツだ」
ケルヴァーロの左太ももに矢が突き刺さった。
膝から崩れ落ちながらファウフェレスを見る。
サンツァーツの献身もむなしく、ファウフェレスは額に矢を受けて絶命していた。
「ファウフェレス……親より先に死ぬヤツがあるか!」
ケルヴァーロは強引に立ち上がると、ファウフェレスとサンツァーツに近づいた。
右胸を矢が貫く。
「フェメテイエ……許せ。ファウフェレスを、守ってやれなかった」
ファウフェレスの頬をなでる。
――こいつには、無限の可能性があった。
俺より聡明で学があった。
偉大な君主になるはずだった。
涙があふれてきた。
泣くなど、何十年ぶりだろうか。
「なるほど、俺でも泣くのだな」
ケルヴァーロの背中にさらに二本の矢が突き刺さった。
彼は、ファウフェレスとサンツァーツを守るように倒れた。
◆
グライス軍騎兵を殲滅したニークリット公国軍は、カルナックタイン公が指揮するグライス軍本隊を背後から強襲した。
帝国歴二二七年二月五日、ナインバッフ・グライス軍は壊滅した。
ご高覧ありがとうございました。
これにて第四章完結です。
次回から、第五章「万能の天才公爵」が始まります。




