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愚者たちの輪舞 ―ブランタール公の凱旋―  作者: 中里勇史
反撃

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217/242

集結

 家臣が血路を開き、ケンナーレ伯は敵陣から離脱することに成功した。だが、ドンバル副伯は馬が溝に足を取られて転倒し、地面にたたきつけられた直後に討ち取られた。


 右翼隊は一〇〇〇騎以上の損害を受けて、敵陣からいったん距離を取っているという。

 ゼンドストレンの報告を聞き終えたケルヴァーロは、「そうか」とだけ答えた。


「どう評価する? ファウフェレス」

「ケンナーレ伯の作戦自体は悪くないと存じますが、戦果が乏しくとも駆け抜けるべきであったと愚考します」

「そうだな……結果論ではあるがその通りだ」


 騎兵が単騎で歩兵を討ち取り続けるなど、子供向けの豪傑譚に過ぎない。ただの絵空事だ。

 戦は常に「多勢に無勢」である。

 馬も人も疲れるのだ。


 戦闘状態に奇妙な空白ができた。

 そのとき、南西から新手が出現した。


 グライス軍本隊だった。

 一人の騎兵が先行してケルヴァーロの方に駆けてきた。サンツァーツだ。


「手はず通り、カルナックタイン公に指揮をお願いしてまいりました」

「よく来てくれた。一気に片を付けるぞ」


 カルナックタイン公は歩兵の横陣を広く展開し、長槍を前に構えさせた状態で前進を続けた。敵よりも数が多いことを最大限に利用して、包囲する態勢に入った。


「手堅い用兵だ」


 ケルヴァーロは、麾下の騎兵にしばし休息を与えて本隊の戦闘を見守った。

 カルナックタイン公麾下の歩兵による包囲が成れば、敵歩兵は圧縮されることになる。そのとき、騎兵突撃が効果を発揮するだろう。ケルヴァーロは下馬して水を飲みながら、愛馬の首をさすって「もう一仕事頼むぞ」と語りかけた。



 クーデル三世は、本陣に腰を下ろしたまま、黙って前方を睨んでいた。

 そばに控えていたデハイデ・ケリネンゾンがしきりに脱出を勧めた。王だけでも落ち延びてくれと、懇願する。


「まだ負けたわけではない。各軍が集結すれば、敵を包囲するのは我々ではないか」


 その時が来た。

 ポルセアルとアンネーメルに駐留していた軍勢が、西と東から出現したのである。


 こうして、クーデル三世が率いる本隊一万七〇〇〇をグライス軍本隊三万二〇〇〇が半包囲し、そのグライス軍をヌヴァロークノ軍三万が東西から挟撃するという複雑な形勢になった。


 ケルヴァーロが率いていた騎兵は六五〇〇騎程度まですり減っていた。今はグライス軍本隊の背後に待避している。

 馬は疲弊しており、騎兵としての機能は失われつつある。


 数の上ではグライス軍は不利だ。ポルセアルとアンネーメルのヌヴァロークノ軍に挟撃されるという位置関係も致命的だ。

 だが、グライス軍は敵本隊の至近に迫っている。

 半包囲の輪を狭めようとしている。

 新手のヌヴァロークノ軍はまだ遠い。

 短槍の射程に入るまでにはまだ時間がある。


 ヌヴァロークノ軍が集結する前に押し切れば勝てる。

 ケルヴァーロは「行け!」と叫んだ。もちろん、グライス軍本隊との距離は離れており、声は届かない。

 指揮でも命令でもなく、自分を鼓舞するための叫びだった。


 カルナックタイン公も左右から敵が迫っていることに気付いている。だが、現有戦力で新手に対処する余裕はない。

 クーデル三世を捕らえるか討ち取る以外にない。


 覚悟を決めた。

 麾下の全軍に命令を下す。


「突撃せよ!」


 グライス軍歩兵が長槍を突き出したまま走り出した。ヌヴァロークノ軍本隊は、グライス軍に圧倒されて後ろに下がった。


 左右からはヌヴァロークノ軍が殺到してくる。


 グライス軍がクーデル三世を捕捉するのが先か、ヌヴァロークノ軍が参戦するのが先か――。

次回、第四章最終回「終結」です。


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